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 現在から約15年後。

「あまり無茶な実験はしないように」
 カニングフォークの称号を持つ魔導師となっている涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)は魔法医師としてイルミンスール魔法学校で保健室の先生をしていた。
 それだけではなく
「……あの病の治癒についてのレポートは……」
 難病などの治癒や研究、果ては医術と魔術の融合にまで尽力していた。
 とても多忙の身でありながら町医者の精神を持つ涼介は合間にザンスカールの町へと往診にまで行き、心のある医者として町では評判になるほど。
 ほぼ休みのないハードな仕事ぶり。そんな涼介を支えるのは愛する家族の存在だ。
「……頑張ってるなぁ」
 往診に行く道々、涼介は家族が経営する店や娘の事を耳にする。嬉しく思うと同時にそんな家族に負けないように頑張らなければと励まされる。家族は涼介にとって安らぎの場所であり元気の源なのだ。

 夕方。
「……珍しく仕事が早く終わったからお店の方に顔を出してみよう」
 珍しくあらゆる仕事が早く片付いた涼介は家族が経営するカフェテリアに向かった。

 カフェテリア『宿り樹に果実』。美人母娘がいると有名な店。午後。

「いらっしゃいませ」
 迎えるのはミリア・フォレスト(みりあ・ふぉれすと)ミリィ・フォレスト(みりぃ・ふぉれすと)の噂の母娘。料理も美味しく美人で優しい店員がいる店という事で大繁盛で大忙しの毎日。
 そんな中、
「ミリィお姉ちゃん、この人困ってるって。助けてあげて」
 フォレスト夫妻の息子、つまりミリィの弟が老婆を連れて店に入って来た。
「えぇ、もちろんですわ。お店のお手伝いお願いしますわね」
 ミリィは弟に答えてから老婆の相手を始めた。実は美味しい店の他にミリィが魔法使いとして人助けの仕事をしているのだ。現在も魔法使いとしての修行は続けておりなかなかの腕前を持つようになっていた。
「うん、任せて。お母さん、僕もお手伝いする!」
 弟はエプロンを着けてお手伝いをするべくミリアの元へ行った。
「では、この料理をあそこにいるお客様の所に運んで下さい」
 ミリアは料理が載ったお盆を息子に渡して運ぶ場所を教えてから送り出した。
「はーい」
 元気な返事をした後、息子は料理を運び丁寧な接客をしていた。その間、ミリィは魔法使いとして老婆を助けていた。それからも店の客やミリィへの依頼事は絶えず、忙しい一日であった。

 忙しい一日終了後、店の後片付け中。
「ただいま」
 仕事を終えた涼介が家族に会うために店に来た。
「お父さん、お帰り!!」
 息子は箒を放り出して涼介に駆け寄った。
「ただいま。今日も良い子にしていましたか?」
 涼介はわずかに屈み、息子の頭を撫でながら訊ねた。
「うん。お母さんとミリィお姉ちゃんのお手伝いをたくさんしたよ。ミリィお姉ちゃん、今日も困っている人を助けたよ」
 息子は元気に今日起きた事を楽しそうに話した。
「涼介さん、今日もご苦労様です」
 後片付けを中断してミリアも涼介の帰りを迎えた。
「お父様、一息入れて下さい」
 ミリィは涼介ために飲み物を用意した。
「ありがとう。ミリィも頑張っているみたいですね」
 涼介は一口飲んだ後、ミリィに笑んだ。
「はい。でもまだまだお父様には敵いませんわ」
 ミリィは褒められても頭を左右に振るばかり。目標は父親のような立派な魔法使い。まだまだ道のりは遠い。
 そこに
「僕もなりたい。お父さんとミリィお姉ちゃんみたいに困っている人を助ける人に」
 息子の元気な声が入る。涼介とミリィは息子にとって憧れと自慢の人なのだ。
「嬉しいですね、涼介さん」
 ミリアはクスクスと笑いながら涼介に言った。
「そうですね」
 涼介は口元を緩めていた。息子に自慢に思われるとは父親冥利に尽きる。
「照れますわ」
 自慢の姉であるミリィは弟の発言に困りつつも嬉しそうだった。
 暖かな家族の団らんは続いた。

■■■

 覚醒後。
「やはり、アゾートさんの作る薬は確かな物ですね。素敵な体験をさせてもらいました。あの未来が現実になるよう自身を磨いて頑張らなければ」
 涼介は体験した未来に大満足。薬の製作者双子ではなく薬学において一目置くアゾートであったため心底安心して参加したのだ。
「……少し怖かったですが、幸せに暮らす未来が体験出来て良かったですわ。体験した未来が本当の未来になればいいのですが」
 ミリィが怖かったのは未来に来るきっかけとなったとある事故が原因で涼介が大怪我を負ってしまったからだ。この話は当然涼介達にはしていない。
 この後、二人はきちんとアンケートやアゾートの聞き取りにも答えた。



 現在から数年後。

 葦原島、長屋。

「……お父さん、これどういう意味?」
 黒髪ロングの少女が読んでいた魔法関連の本から顔を上げ、父親を呼んだ。雰囲気はクールで冷めた感じだ。
「あぁ、それは……」
 呼ばれた父親はベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)であった。ベルクは幼い娘に理解出来るようにとかみ砕いて説明した。
「それならこのページに書かれている魔法と掛け合わせたらもっと強くなるよね」
 娘は数ページ前を開いて自分の考えをベルクにぶつけた。ベルクと同じで知識欲は高くベルクが買い与える本はことごとく読破するのだ。
「そうだな。お前はなかなか聡明だな」
 うなずいた後、ベルクは聡い娘の頭を撫でた。
「だってお父さんの娘なんだから当然よ」
 娘は当たり前のようにクールに言って本に戻った。術者でもあるベルクを相当慕っている。
「そうか」
 父親として嬉しいベルクはもう一度娘の頭を撫でた。

「もうそろそろ夕御飯ですが、帰りが遅いですね」
 台所で夕食の準備をしていたフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)がひょっこり姿を現した。
「あぁ、お前に似てるから好奇心を刺激されたものでも能天気に眺めているのかもな」
 ベルクも心配の溜息を吐き出す。フレンディス達が心配するのは友達と遊びに行った上の子供の事だ。いつもならとっくに帰宅している時間なのに帰って来ない。

 両親が心配してたその時、
「ただいま!!」
 茶髪の元気で能天気そうな少年が現れた。フレンディス達が心配していた子供だ。
「お兄ちゃん、遅いよ。お父さんとお母さん、心配していたんだよ」
 現れた兄に妹は厳しい口調で注意した。もうどちらが上なのか分からない。
「……ごめんなさい」
 息子は肩を落として心配させた両親に謝った。
 そして、
「急いで帰ろうと思ってたんだけど、帰り道で素敵な物を見つけたんだ」
 ポケットからいろんな物を取り出しながら弁解を始めた。
「素敵ですね。これは時間を忘れてしまいますね」
 息子の掌で輝くガラス玉や形の良い石、色鮮やかな木の実にフレンディスは目を輝かしていた。
「でしょう。あとね、面白い動物がいてずっと見ていたんだ。それにね、この花、はい」
 息子はフレンディスの様子に嬉々として話しをし、別のポケットからピンク色の花を取り出して差し出した。好奇心旺盛な様子から息子は明らかに性格もフレンディス似であった。
「綺麗ですね。早速、飾りますね」
 花を受け取り早速、飾ろうとするフレンディス。すっかり何かを忘れている。
「……お母さん、違うでしょ」
「……フレイ、違うだろ」
 娘とベルクが同時にフレンディスにツッコミを入れた。娘は外見でなく性格も父親とそっくりらしい。
「……そうでした。帰りが遅くなるのは分かりますが、心配しますからなるべく早く帰って来て下さい」
 夫と娘のダブルツッコミにフレンディスは我に返り、屈み息子と視線を合わせ母親らしく注意をした。
「……はい」
 息子はうつむきながらこくりとうなずいた。
「ほら、ご飯を食べましょう」
 フレンディスは息子の頭を撫でた後、夕食の準備に戻った。お土産の花は水の入ったコップに入れて食卓の真ん中に飾られた。

 現在から数年後。

「……なのですよ!」
 獣人姿の忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)は楽しそうに隣に座る女の子に話しかけていた。聞き手である女の子は楽しそうにポチの助の話に耳を傾け、時々相づちを打っていた。
「……でもこの僕が……」
 話し続けるポチの助。なぜか相手が女の子である以外誰なのか、ポチの助との関係が親友なのか恋人なのかも全く分からない。
 ただ、分かるのは
「……それとですね……」
 ポチの助が獣人姿で女の子と一緒にいる事に幸せを感じている事だけだった。

■■■

「マスター、ポチ! アゾートさんが未来を体験出来る魔法薬の被験者募集中との事です。
私、申込みしておきましたので是非とも参加致しましょう!」
 被験者募集の話を聞きつけたフレンディスはその場でアゾートに参加の旨を伝えたのだった。好奇心満々である。もはやベルクとポチの助には拒否権が無くなっていた。
「未来か、俺にとっては暗い未来も明るい未来も決まってるも同然なんだがな。まぁ、作ったのが双子でなくアゾートなら何も問題ねぇか」
 ベルクは製作者がアゾートであるためか珍しく拒否を示さなかった。
「ふふん。この超優秀な僕に暗い未来なんてある訳ないのですよ? 何しろ僕の将来は犬の頂点に立つと決まっているのですからね! 体験する未来は予想通りでしょうが、興味はありますので使ってやりましょう」
 無駄に自信満々のツンな言葉とは裏腹に魔法薬に興味津々のポチの助。
 フレンディス達は早速体験しに行った。

 体験後。
「……こればかりは死んでも言えませんっ!!」
 アゾートに内容を聞かれるとフレンディスは赤面し焦り気味に拒否した。当然、アンケートへの記載も断った。
「……初夢の時と違って内容を覚えているのはいいが、あんな未来が本当に来るのか」
 フレンディスと共にいるかどうかが重要なベルクにとって体験した未来は願望そのものだが、現在からは遠い道のりでもあった。
「……何で僕はあのような未来を見たのでしょう? それにあれは一体誰だったのでしょうか?」
 未だ恋愛感情に目覚めていないポチの助はひたすら首を傾げるばかりだった。