波羅蜜多実業高等学校へ

葦原明倫館

校長室

空京大学へ

この時から続く先は……

リアクション公開中!

この時から続く先は……

リアクション

 現在から数年後。
 概ね平和な時代。

 とある夫婦の家。

「これが終わったら次は……あぁ、真一郎さん、片付けてくれたんだね」
 パタパタと家事に忙しく動き回るルカルカ・ルー(るかるか・るー)は幼い男の子の相手をする鷹村 真一郎(たかむら・しんいちろう)に言った。そうここはルカルカと真一郎が結婚し暮らす家。
「あぁ、気付いたので片付けておきました」
 真一郎は息子の相手をしながら答えた。のんびりと構えてはいるが気付いた事は手伝い、しっかりとルカルカの力になっていた。
「ありがとう」
 ルカルカはパタパタと忙しく動き出した。

 ある夕食の時。
「む〜」
 仕事から戻るなりルカルカはずっと難しい顔をしている。実はルカルカと真一郎は変わらず軍人をしていた。
「お母さん?」
「今日、お父さんとお出かけだって朝とても楽しそうにしてたのにどうしたの?」
 幼い息子としっかりした年齢の娘が母親を心配する。
「あぁ、ごめんごめん。あのね、国軍の行事で話す原稿を考えてて」
 子供達に気付いたルカルカは表情を笑顔に変えた。
「?」
 疑問符を浮かべる子供達。
「お母さんはたくさんの人の前でお話をするんですよ」
 真一郎が子供達に優しく教えた。
「へぇ、お母さん。すごいねぇ」
「頑張って、お母さん!」
 息子と娘はルカルカを尊敬の眼差しで励ました。
「ありがとう。お母さん、頑張るよ! と言っても何も思いつかないんだよね。そもそも柄じゃないし、長くて偉そうな話されるのも嫌だし」
 励ましは嬉しいが何も思いつかないルカルカ。
「素直な気持ちを言葉にしたらいいと思いますよ」
 と、真一郎が助言をする横で
「ん〜」
 難しい顔をする子供達。
 不思議そうにする両親に気付いた子供達は
「ねぇ、がんばろうはどう?」
「お仕事は大切ですとか」
 顔を上げ、考えていた事を話す息子と娘。
「考えてくれたんですか?」
 と真一郎。
「うん。だって、お母さん困ってるから」
「お母さんのお手伝いしたいから」
 息子と娘はにっこり笑った。
「わぁ、お母さん、嬉しいよー」
 嬉しさのあまりルカルカは子供達を抱き締めた。
「思いついたよ! 死なないよう頑張りましょう……って一言じゃだめかな?」
 閃くも眉を寄せるルカルカ。
「いいと思うよ」
「ねぇ、お父さん?」
 賛成する息子と娘。
「あぁ、ストレートなのが一番だと思いますよ」
 娘に同意を求められ、うなずく真一郎。
「あはは、ありがとう。まぁ、もう少し考えてみるよ」
 いつでも自分の味方である家族に元気付けられルカルカは嬉しそうに笑った。
 夫婦での外出が終わった後、ルカルカは徹夜して一気に原稿を仕上げた。

 早朝。
「出来た!!」
 ルカルカは原稿を掲げ、声高に言った。
 そこに
「お疲れ様です」
 真一郎の労う声。
「真一郎さん。ほら、出来たよ」
 ルカルカは背後を振り返り、出来上がった原稿を差し出した。
 受け取るなり真一郎は真剣な面持ちで読んでいた。ルカルカはそんな真一郎を後ろからハグして感想を待っている。
「……どう?」
 ルカルカは緊張しながら読み終わった真一郎に感想を求めた。
「あなたらしいくていいと思いますよ」
 真一郎はルカルカの頭を撫でた。その後、二人は毎日繰り返している軽めのキスをした。
「あぁ、もうこんな時間。真一郎さん、子供達を起こして来てくれるかしら? 朝食の用意を始めるから」
 キスをし終えた後、ルカルカは忙しい一日が迫っている事に気付いた。
「分かりました」
 原稿をルカルカに返してから真一郎は子供達の寝室へ急いだ。
「……幸せだなぁ。七ヵ月後にもう一人増えるって言ったら、真一郎さん、どんな顔するかな」
 賑やかな家族の声を聞きながらルカルカはお腹を撫でて幸せそうにつぶやいた。

■■■

 ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は被験者とはならずアゾート達の手伝いに回っていた。
「暗い未来のデータが不足しているのは予想通りだな。明るい方の内容についての無記入もな」
 ダリルはアンケート用紙や口答での報告などを確認した。
「そうだね。効果について気になる点が少々あるかな」
 データを整理しながらアゾートは効果について数点気になる事があった。
「非現実と自覚する者に二種類同時使用、または追加使用、暗い未来でも被験者自身が影響を受けていないもの」
 シャンバラ電機のノートパソコンにデータを記録し整理作業をするダリルはすぐにアゾートが気にしているだろう事を列挙した。
「その通りだよ。でも非現実と自覚するというのは改良を加えれば何とかなるかな。キミの意見は?」
 アゾートは列挙された事柄にうなずき、ダリルに意見を求めた。
「再現性と選択性が欲しいな。コントロールが出来れば精神疾患の治療に使えるはずだ」
 ダリルは利用範囲を広げる事を提案した。
「なるほど。そう言えば、精神安定や安眠利用の案もあるから併せて考えてもいいかも」
 アゾートはザカコの意見を思い出し、他への利用についても考えた。
「さて、あいつらの様子でも見に行くか」
 ダリルは被験者の見回りに出た。双子の様子を確認してからルカルカと真一郎の所へ行った。

「ふむ。リアルとあまり変わりないな」
 ダリルは二人が記入した未来内容を確認し、一言。
「そうかなぁ。でも原稿は大変だったよ〜。現実であったら困るからあれだけは現実になって欲しくない」
 ルカルカは大変な原稿作業を思い出し、うんざり顔になった。
「そういう原稿くらい俺が書くぞ」
「えー、それはちょっと……ダリルが書いたら何か硬そうなんだもん」
 ダリルの有り難い申し出にルカルカは口を尖らせ退けた。
「お前のが柔らかすぎるだけだ。鷹村はどう思う?」
 ダリルは真一郎に意見を求めた。答えは分かりつつも。
「そこがいいんですよ。あの原稿は皆に伝わるよいものでした」
 案の定、真一郎はルカルカに甘い答えをした。
「ああ、はいはい。ごちそうさまでした。続きは向こうの歓談スペースでやってくれ」
 ダリルは仲睦まじい二人に呆れ、歓談スペースを示してから他の被験者の元に行った。
「じゃ、真一郎さん、お菓子でも食べてゆっくりしよっか」
「そうですね」
 ルカルカと真一郎は仲良く腕を組みながら歓談スペースに向かった。