波羅蜜多実業高等学校へ

葦原明倫館

校長室

空京大学へ

―アリスインゲート2―Re:

リアクション公開中!

―アリスインゲート2―Re:

リアクション

【グリーク】
――RD社、キョウマ・ホルススのラボ、


 話は前回の続きとなる。
 異世界間のゲートを作れないかと契約者たちがキョウマと話しているその最中だ。
 その折にキョウマの発言した「移動型特異点A」とはつまり、
「それってアリサのこと?」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)のいうように、それはアリサ・アレンスキー(ありさ・あれんすきー)のことだ。キョウマは彼女の名前を今知ったので、書類名義上の呼称で彼女を呼んでいた。
 餡で汚れた口を拭い、キョウマが質問する。
「アリサというのか? そいつはお前らと同じ契約者なのか?」
「ちょっと特殊な部類ですけど、私たちと同じです」
 ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が答える。
「お前たちの魔法とかそういので作った装置か何かだと思っていたが……なるほど人か。よくわからない機械を分解するよりは、人のほうが解剖しやすいか……」
「や、やめて下さい!」
 血相を変えるベアトリーチェに「冗談だ」とキョウマが返す。
「あなたが言うと冗談に聞こえませんね……」
 天樹 十六凪(あまぎ・いざなぎ)が頭を振って見せる。人体実験の挙句に緑色に発光する改造人間を創りだしている実績がある以上、彼にアリサを預けたらどんな改造を施そうのやら。最悪【第三世界】にいる契約者たちはパラミタに戻れなくなるかもしれない。
「それで、どれくらいでその装置ができるの?」
 美羽の問にキョウマが少し唸ってから答える。
「――2週間かそこらはいるだろうな。一応なりと俺もRD社(ここ)の社員だからな。兵器開発担当で作っているものがある。その傍らでの調整に成るな」
 十六凪がキョウマの言葉に引っかかりを覚える。
「調整? ってことはすでにゲート装置自体は作っていたと? もしくは、グリーク軍がオリュンズに作っていたのを再利用するのですか?」
 軍は世界崩壊以降に閉じてしまったオリュンズとハイ・ブラゼルをつないでいたゲート。それを復活させるための実験を行っていた。その実験は成果を得られずに終わっているが、オリュンズ郊外には今なお観測機材が残されている。
「軍のやつは関係ないない。俺にも「関われ」と言われたが興味がなかったから開発局に入らずにここにいるわけだし。調整するのはお前たちがここに来るまで幾つも通ってきたほうのゲートだよ」
 美羽が首を捻る。
「なんか通ってきたっけ?」
「【近距離転移装置】――この会社が作っているやつですね」
 十六凪の回答に「Exactly!」と賛美が返る。【近距離転移装置】は単純に言えば【テレポートゲート】だ。階を登り降りするエレベーター代わりにそこら中に設置されている。
「異世界となると距離は意味を成さない。必要なのは「場所と時間」を固定化できるかどうかだ。そのためには両方の世界に同じ波長を持つプローブが存在すればいい。面白いことに、ロンバートの大将のところに特異点Aと同じ生体波を出している忘れ物があった。そいつを元にパラミタにいる特異点Aの位置を特定して時空間座標の変動値を固定化すれば、2点の空間を繋ぐことができるだろう。そのためにパラミタにも同じ装置を作る必要があるが……まあ”情報”と”向こうの素材で作ったもの”は持っていけるのだから、どうにか成るだろう」
「【近距離転移装置】を利用するんですね」
 ベアトリーチェにキョウマが頷き返す。
「そのためにはここ製品のお買い上げと特別発注がいるがな。お買い上げはどうする? 小物用から飛空艇搬出用まで大きさは好きに選べるぞ? オススメは室内用がリーズナブルだ」
 そう言ってキョウマがカタログを差し出す。資金面は今後仲間内で話し合うことになる。その参考だ。この世界における潤沢な資金を有している彼らに頼む他ないだろう。
 機材のカタログには興味が無いらしい美羽はドクフェの入った箱に一緒に入れていた差し入れのバナナを取り出し、椅子を降りて部屋の隅に。
「購入と資材の手配をしておきましょう。アリサへの協力は《テレパシー》でいいとして、設置場所はどうしましょうか?」
 とベアトリーチェ。
「ESCの近くに建設中の中継拠点にでも設置させてもらうとしましょう。ところで」
 十六凪が横を見る。ドクフェの入ったビーカーを持って浅く笑うドクター・ハデス(どくたー・はです)を。
「ハデス君何かおかしいのですか?」
「何がおかしいかって? フハハハ……強いて言うならこの天才的な俺の頭脳といったところかな。久しくドクフェを飲んでいい発想が浮かんだぞ!」
「と、いうと?」
「この【第三世界】を救う方法だ!」
 話し合っていた事と全く関係のない世界救済の方法などをこの場で思いつくのは、些か場違いではないかと言いたいが、ツッコミを待たずしてハデスは語り始める。
「よいか、現状の問題は、この【第三世界】の人々を受け入れられる世界がないことだ! だが、よく考えればあるではないか! 純粋な【第三世界】人が暮らすことのでき、かつ、ノース・グリーク、地方にいている人たちを全員受け入れるだけの広大な土地が!」
「それはパラミタだと?」
 ハデスは十六凪の答えを否定する。
「いな! それは【第三世界】が想像された当時の世界! 『大いなる者』を封じるために四賢者によってこの世界が作られた瞬間(とき)だ! 時空を超えるゲートを作り、この世界が出来た当時に今の人々を『かつて、四賢者によって創造された祖先』送り込むのだ! どうだ? 俺の天才的なアイディアは?」
 高笑いするハデス。その口目掛けて美羽が「ほい」緑色の物体を投げ込んだ。「ゲルバナッ!?」と吐き出されたそれは、電話レンジ(仮)……ではなくそれに似た分子間結合分解装置にて分子をズタズタにされゲル状になったバナナだった。
 その場の皆は溜息をつくばかりだった。
「いやいや、ハデス君……さらりと物理法則を無視した案を出さないで下さい。しかも今回の件と関係がない」
 十六凪の知識にある相対性理論から考察するに光速を超えることが出来ない限り過去には行けない。超高速に至る方法がない限りこれは実現しない。とはいえ、物理的にではなく魔法的にはあるかもしれない。
「まあ、重層世界は『大いなる者』を封じるために作られた世界……魔術的には、空間だけではなく時間も閉じていて、未来と過去に繋がっているかも知れませんが。その解釈は、【第三世界】の世界観と矛盾するといいますか……ねぇ、キョウマ博士?」
「あ〜出来なくもないが……それをやってもどうしようもないぞ?」
 キョウマの言葉に「できるの!?」と驚きの声が上がる。
「原理は【近距離転移装置】でやろうとしていることと変わらない。時間が違うか空間が違うかだ。向こうにも入口と出口があればの話だ。そうじゃなくても無理矢理に出口を作ればいい。だがやらない」
「なぜだ!? キョウマ博士とあるものが世界線を越えようとはおもわんのか!?」 
 ゲルを拭いハデスが嘆く。
「思わないな。それで全ての人間を過去に送ったとしてだ。その未来は今ってことになる。では、『今の祖先』は『今の子孫』だ。タイムパラドックス、バタフライ・エフェクト。そして行った『先の過去の未来』は現在の未来とは違う未来に成るかもしれないし、現在というものがタイムトラベルをした時点で書き換わるかもしれない。帰納的になにもないかもしれないが、結局のところ『3億人の世界難民』がいることには変わらない。時間的にどこに彼らがいるかが変わるだけだ。多世界解釈で今が何も変わらなかったとしても、彼らがそこにいく事自体が救いになるとも思えない。それが――」