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遺跡と魔女と守り手と

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遺跡と魔女と守り手と

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鬼ごっこ1

「♪〜遺跡都市さんを探検なの!」
 遺跡都市アルディリス。そこで行われている鬼ごっこの参加者であるはずの及川 翠(おいかわ・みどり)はそう楽しそうな声を出す。鍾乳洞制覇を目指して頑張っていた翠にしてみれば、この遺跡都市を歩き尽くせば目的が達成できるのだ。
「あのね、翠、少しはまじめに……って、確かに闇雲に追いかけるよりは地形を把握した方がいいのは確かなのよね」
 鬼ごっこを忘れそうな翠に頭を痛めながらも、その行動自体は結果的に間違ってないと複雑な気持ちになるミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)。探検気分の翠の隣でミリアはアルディリスの地図を完成させていく。
「ミナホさん……大丈夫なんでしょうか」
 誘拐された村長の心配をする徳永 瑠璃(とくなが・るり)。その後に小さくつぶやいた『でも、正直遺跡都市さんは探検し甲斐がありそうな……』という言葉をミリアは聞き逃さない。ただ翠同様遺跡都市を探索したくて仕方ないのは確かのようだが、村長救出をちゃんと覚えているだけ翠よりマシではある。
(……まぁ、翠も魔女を見つけたらちゃんと追いかけると思うけど)
 まっすぐ一直線に。
「私も本当は探検するしかないって言いたいのに……どうしてミナホさん攫われてるの?」
 サリア・アンドレッティ(さりあ・あんどれってぃ)はそう言う。こちらは探検したいがそれどころじゃないと思っている様子だ。
「あはは……鍾乳洞を探索する時の許可の時とかに会ったりしましたけど……」
「……まぁ、どこか抜けたところのある人だったわね」
 瑠璃の言葉にミリアはそう続ける。
「とにかく、早くミナホさんを助けないとダメだもんね。長くは遺跡都市さんにいれないみたいだけど、時間が余ったら探検したいの」
 サリアはそう提案する。
「あっ、魔女さんが居るの! 待ってなの〜!」
 ミリアたちがサリアの提案に頷く前に、翠はそう言って魔女へ一直線で追いかけていく。
「……本当に一直線で行くわね」
「翠さんらしいですね」
「翠ちゃんらしいの」
 二人の反応に全くだとミリアは溜息をつく。それを面倒を見るのが自分たちの役目だ。
「この辺りの地図は大体完成してるわね……それとあらかじめもらってた連絡と合わせれば……」
 ミリアは作戦を立てていく。
「……うん。大丈夫そう。瑠璃、サリア、地図のこの地点に魔女を追い詰めるわよ。……翠は、今のまま一直線に追いかけてもらっておいて」
 追い立てる役を翠に任せてこっちは魔女の行く手を阻む役だ。そうして魔女が逃げるルートを誘導していく。
「……そのためには魔女さんを追い越さないといけないですね」
「こっちの道をいけば近道できそうなの」
 ミリアとまじめに地図を作成していたサリアはそう言う。
「一回こっちに帰ってきてくれると誘導しやすいんだけど……瑠璃は空からお願いね」
「分かりました」
「お姉ちゃん、私は?」
「サリアは私と一緒に細かな誘導、一緒にやってたから地図頭に入ってるでしょ?」
 そうしてミリア達は先走ったパートナーを補佐するため作戦を細かに決めていく。
「それじゃ、さくっと捕まえるわよ」
 そうして魔女とそれを一直線に追いかける翠をある地点に誘導していく三人だった。


(こういう展開になるとは予想していなかったですね)
 御神楽 陽太(みかぐら・ようた)のパートナー御神楽 舞花(みかぐら・まいか)は建物の物陰に隠れながらそう思う。予想していなかったというのは鬼ごっこの展開ではなく、この鬼ごっこに参加している事自体だ。
(村長に祭でのラジオ放送について報告相談にきたのに、まさか誘拐されているとは思いませんでした)
 そしてそれを助けるために鬼ごっこをするとは思ってもいなかったと。
(……報告だともうすぐですね)
 どちらにしろ今は鬼ごっこだ。あらかじめ今回の参加者に根回しを行っていた舞花は、自分はトラッパーでの罠作成を、その場への誘導を他の契約者に頼んでいた。現在はミリア達が罠への誘導を行っているという報告をもらっていた。
(……きました)
 魔女が軽い足取りで罠へと向かっていくのを見て舞花はさらに息を潜める。翠など魔女を負っているはずの姿はまだ見えない。魔女が罠へと引っかかれば自分がすぐに出ないといけないだろう。
『? あらあら』
 トラッパーによって作られた落とし穴、それに落ちた魔女は更に網を被せられる。
『くすくす……感知系は私の役割上苦手なのは確かだけど……うまく隠してるわね』
 感心した様子の口調で話す魔女。舞花は物陰から出て魔女を捕まえようと向かう。
『でも、残念ね。これはあくまでただの物を使った技術ですもの』
「っ……!」
 嫌な予感がした舞花は魔女のもとへ駆け寄るのを急ぐ。その嫌な予感通り、魔女は自分にかかる網を力をふるって完全に消去する。
『おしかったわね』
 そう言って魔女は落とし穴から出て舞花をさけるようにまた逃走を開始――

「捕まえたのっ!」

――しようとして空から降ってきた翠に捕まる。
「困ったわ困ったわ。こんなに早く捕まるなんて』
 全然困った様子を見せず魔女はそう言う。というより少しだけ楽しそうにも聞こえる。
「……とりあえず、これで一回目は捕まえたってことで大丈夫ですか?」
 一息をついて舞花はそう言う。
『ええ。……ああ、そういえば捕まえた人にはこのアルディリスが滅んだ理由を伝えることにしていたわ」
「この遺跡が滅んだ理由ですか?」
『くすくす……あまり興味はないかしら? ただ、あなたたちの中に調べている人間がいるはずだから』
 そうして魔女が話しはじめるのは昔話のような話だった。


 アルディリス。繁栄を続けるその都市には二人の魔女がいた。

 一人は繁栄の魔女と呼ばれ、都市の象徴とされたミナス。
 もう一人は名前は分からないが滅びの魔女や歪みの災禍と呼ばれた魔女。

 繁栄の魔女はその力を振るい、都市を大いに発展させていく。
 滅びの魔女は都市に災禍をもたらし、人々に恐怖されていた。
 三日ごとにおこるその災禍からミナスは人々を守る

 ある日突然繁栄の魔女はその姿を消しいなくなる。人々は滅びの魔女の災禍を恐れ、自らを守ってくれる繁栄の魔女の帰還を願い彼女を模した像を作った。
 しかし、人々が恐れた魔女の災禍はミナスがいなくなった後、三日経っても起こらなかった。


 その一週間後にアルディリスは未知の病に滅びた。


『鬼ごっこは一時間後に再開しましょう』
 そう言って粛正の魔女は姿を消していなくなる。
「……どう思いますか?」
 舞花は一緒に聞いていた翠にそう相談する。
「難しいことはよくわからないの。とりあえず遺跡都市さんを探検なの」
 休憩時間があるならと翠は水を得た魚のように走り去る。
「……一旦、集まったほうがよさそうですね」
 鬼ごっこが休憩なら今の話含め他の契約者たちと相談した方がいいだろう。そう思い舞花は他の契約者と連絡をとるのだった。