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遺跡と魔女と守り手と

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遺跡と魔女と守り手と

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守り手1

「うーん……魔女にも話を聞けないかなぁ?」
 森の守り手の試験。それを受けている芦原 郁乃(あはら・いくの)は悩んだ様子でそう言う。
「あの魔女にですか?……私はあまり気がすすまないのですが……」
 蒼天の書 マビノギオン(そうてんのしょ・まびのぎおん)は主の言葉に困った様子でそう返す。
「でも、一番森とかの事情に詳しそうだよね? それになんとなくだけどあの魔女もこの森が好きなんじゃないかなぁ」
 『10年前の真実……自分の主人が自分たちに最後に託した願い』
 それを郁乃は知りたいと思う。ゴブリンたちと本当の仲間、友達になるためにはそれが必要だと。
「本当に主はこの森やゴブリンたちのことが好きなのですね」
 彼らとわかりあいたいと、そういった気持をマビノギオンは感じる。
「当然だよ。そのためにも魔女に話を聞きたいんだけどなぁ。この森のこととか語り合ってみたい」
 魔女が森を好きだと、郁乃はどこかで確信しているようだ。

「……あの魔女が、この森をどう思っているかですか。それは私も気になりますね」
「あ、前村長。おつかれー? どしたの?」
 マビノギオンと話し合う郁乃のもとに前村長がやってくる。
「ええ、あなたたちが森の守り手として認められたことを伝えに来たんですよ」
「もうですか? 主も私も特に何もしていないのですが……」
 前村長の言葉にマビノギオンはそう返す。
「あなたたちの場合は試験を受けた時点で合格するのは決まっているようなものですから」
 ゴブリンキングと友と呼べるような郁乃。ゴブリンたちの集落で過ごしている彼女たちはとっくの昔に彼らに認められている。森を優先してくれるとそれを証明した時点で試験は終わっている。
「……それに、ぼんが今からする話を一番最初に聞いて欲しいのはあなたたちでしょうから」
「もしかして、それってキングたちが最後に託された願い?」
 前のめりになって郁乃は聞く。
「ええ。パラミタが出現してから10年前ミナスが死ぬまでの話を今からしましょう」


 パラミタが再出現した時、ミナスは地上にいた。とある人物と契約を結び、その人物との間にできていた子どもと一緒にパラミタへと戻ることにした。
 その願いは自らが守っていた都市が無事かどうか確かめること。もしも滅んでいたのならその近くに新しく人の住む村を作ることを。
 そうして始まった村を作る傍ら。ミナスはもうひとつ願いを持っていた。
 それは自分がまだただの人間(魔女)だった頃過ごした森を守ること。かつてミナの森と呼ばれたその森には彼女の妹との思い出がたくさんあった。
 その森はイルミンスールの森の拡大に巻き込まれていたが、その雰囲気はかつてのものがまだ大きく残っていた。
 その森を守るためにミナスはこの地に住む亜人種、ゴブリンとコボルトの長と契約を結ぶ。契約者のそれとは違う魔女の使い魔契約だ。ミナスはその心根から彼らの信用を得て、互いの信頼のもと契約を結んだ。

「……紆余曲折を経て、ミナスはその願いが叶わずして死んでしまうのですが……その時にミナスはゴブリンキングとコボルトロードにお願いします。一つはこれまで通り森を守ること」
 そこで一旦前村長は息を吐く。
「もうひとつは妹を救うこと」
「その妹というのはもしかして……」
 マビノギオンの疑問に前村長は頷く。
「今、粛正の魔女ミナと名乗っている彼女ですよ。もともとはミナホと名乗っていましたが」
 続けて前村長は言う。
「その願いと彼女が持っていた彼女自身の力を全て込めてミナスは魔法の薬草を作ります。……あなたたちが見た光るミナス草、あれのことです」
「ミナスが作った薬草だったからゴブリンやコボルト達は必死で守ってたんだね」
 理解したと郁乃は言う。
「ちょっとキングと話してくる!」
 話を聞いてゴブリンキングと話がしたくなったのだろう。郁乃は疾風の如くいなくなる。
「最後に託した願いですか……魔導書である私にも何か願いを込められているのでしょうか?」
 自分が生まれた意味を考えるマビノギオンだった。


「シュトラール、大丈夫かい? この森は苦手にしていたようだけど」
 村に住むユニコーン、ラセン・シュトラールを森に連れてきたエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)は当のユニコーンに調子を聞く。ラセンはこの森を一人で入ることを嫌がっていた。
「以前は違和感の正体が分からず嫌がっていたようですね。今は、大丈夫みたいです」
 ティー・ティー(てぃー・てぃー)が『インファントプレイヤー』でラセンの伝えたいことを代わりに言う。
「それならよかった。村の中だけじゃ窮屈だろうと思っていたからね」
 森に自由に出入り出来る事はいいことだとエースは言う。
「ユニコーンは森の守り手ですもの。ゴブリンたちにもこの機会に認めてもらわなきゃね」
 ユニコーンを愛するリリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)はそう主張する。
「それなんですけど……ゴブリンさんたちに話を聞くと、今はラセンさんに出入りはあまりして欲しくないみたいです」
 通訳しているだけのティーは恐縮気味に言う。
「どうしてかしら? 森の守り手としてユニコーンほどふさわしい存在はいないわ」
 リリアはそう言う。
「それがユニコーンは『鍵』の一つだからと。絶対に失わせる訳にはいかないと。けれど自分たちは森を守るのに精一杯だからと」
 そう言っていますとティーは伝える。
「……つまり、俺たちが守れば問題ない……そういうことかな?」
「そういうことなら問題ないって言っているうさ」
 少しホッとした様子でティーは言う。
「じゃあ、シュトラールは森の守り手にはなれないの? それはもったいないわ」
「リリア。無理を言うものじゃないよ」
 諌めるエース。
「……魔女の問題が解決したら森の守り手として一緒にやっていきたいと言っています」
 それまでは難しいとティーは通訳する。
「そう。なら早く魔女を懲らしめないといけないわね」
「結論が出たみたいだね。……ということでゴブリンたちと情報交換がしたいと思っていたんだ。俺たちのことを理解してもらうためにもいいかな?」
 そうしてエースたちは試験に受かるため自分の知識を伝える作業に入る。ついでに自分の知識欲も満たす形で楽しそうでもある。

「うさうさ……通訳も大変うさ」
 皆の試験の役に立てるようにとそのスキルで通訳に回っていたティーは少しつかれた声を出す。その肩をミニうさティーにマッサージしてもらっている。
「ティーお疲れ様。けど、ラセンさんともっと話したかったんじゃないか?」
 源 鉄心(みなもと・てっしん)はティーを労いながらそう言う。
「たしかにそうですが……今は試験が優先です」
 森を寄りもユニコーンを優先していると思われたら落ちちゃうかもしれないしとティーは心配している。森の守り手になりたいとそう思う気持ちは人一倍強いのだ。
「そうか。なら、一つ通訳をお願いしてもいいかな?」
「なにうさ?」
「この森に対するスタンスだよ。これをはっきり伝えておきたい」
 そう言って鉄心はティーを連れてゴブリンに話しかける。
「仮に、この試験に合格しなくても俺、あるいは俺たちは自分なりにこの森を守っていこうと思っています」
 鉄心の言葉をティーは逐一通訳する。
「ただ、もし人命がかかっている事件が起きた時、俺たちはきっとこの森よりもそっちを優先したいと思っています」
「鉄心。どうしてそんなことをわざわざ言うのかと聞いているうさ」
 ゴブリンの言葉を通訳するティー。
「その時になって失望されたくないから……かな? 欲を言うなら、そういう自分を認められたいと」
 自分に正直に鉄心は思っていることを話す。
「……難しい話はこれくらいにしようかな。そろそろイコナたちが料理を作って持ってくるはずだ」
 後は親睦を深めてもっと細かな所を知ってもらおうと。鉄心は思うのだった。

「ミニうさティー、このスイカも水のある場所に持って行って冷やすのですわ。つまみ食いは厳禁なのですわ」
 自分を手伝うミニうさティーにイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)はそう頼む。食い意地が張っている(どこかの誰かに似て)なミニうさティーが心配なのでミニいこにゃにその監視をお願いする。
「あとは焼きナスと焼きラビットまつたけと……」
 つまみになりそうな料理を作ろうとするイコナ。
「サラダもスープも最近はあてになりませんの。でも大丈夫なのですわ。進化したわたくしは火力の調整も完璧なお役立ちなのですから……ふふふ」
 禁忌の書レベル8【炎】で調理を始めるイコナ。ただ、炎は立派だがその手際は普通だ。
(いつも思うのでござるが ぶっちゃけ拙者がやった方が早いでござるなぁ……)
 そんなイコナを見てそう思うのはスープ・ストーン(すーぷ・すとーん)だ。ただ、その一生懸命な様子をホクホクとした様子で見守っている。
「スープ、頼んでいた野菜は切ったのですの?」
「もう終わってるでござるよ」
 イコナの質問にスープはそう答える。大抵のことはなんなくこなすスープにしてみれば野菜を切るくらいは朝飯前だ。
「そろそろ一休みするでござる……」
 ふわぁとあくびをしたスープはぽいぽいカプセルに詰めたベッドを外に出して眠りの世界に行く。
(拙者、面接とか……正直働きたくないでござる)

 なお今回の森の守り手の試験で不合格だったのはスープ一人らしい。それはそうだ。
 ただ、個人としては認められなかったがイコナの付属物として認められたとか認められなかったとか。