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リアクション
第一部 上映会
「双子ちゃん、我達も一緒に鑑賞させてなのだ」
天禰 薫(あまね・かおる)は双子が座る席にやって来た。
「……」
双子は困った顔でじっと見ている。主に薫の隣にいる熊楠 孝高(くまぐす・よしたか)と熊楠 孝明(くまぐす・よしあき)に。
「わたぼちゃんと白もこちゃんを二人のお膝に座らせてなのだ」
薫は笑顔で話しかけ続ける。
「キュピゥ! ピキュピキュッピ(わたぼ、上映会初めて! 双子のお兄ちゃんと一緒に見たい)」
わたげうさぎロボット わたぼちゃん(わたげうさぎろぼっと・わたぼちゃん)は初めての上映会に大はしゃぎ。
「わたぼちゃん、初めての上映会だから一緒に見たいと言ってるのだ」
ピキュウ語の分からない双子のために通訳する薫。
わたぼちゃんの言葉を聞いた途端、
「だったら」
「でも、あの……」
了承し、孝高と孝明についてどうにかならないかと聞こうとした時、
「俺はここに座るから親父はそっちを頼むぞ。薫は俺の膝に座ったらいい」
「両サイドを固めるわけだね」
孝高と孝明はすでに席順を決め座っていた。ちなみに孝高は巨熊になっている。
「孝高、ありがとうなのだ、ふかふかで心地いいのだ」
薫はちょこんと孝高の膝に座りもふもふを堪能。
堪能していないのは、
「ちょっと、待て何で座ってんだよ!!」
「しかも、その姿!!」
双子。左右を封じられ獣化し悪戯した際の仕置きの準備まで整えられているからだ。
「お前らが他の奴らに迷惑をかけないようにするためだ」
「もし、悪戯をした場合は言わなくても分かってるよね。いい子でいる方が身の為だと」
孝高と孝明は当然の如く双子の意見を却下。
「……」
孝明の言葉奥の恐ろしさと孝高の物理的な危機によって双子は、黙り込み席に着いて白もこちゃんとわたぼちゃんを膝に載せた。
そして、仕方無く団子を食べるも
「……ん……団子が無い」
「ってオレも団子が」
持っていたはずの団子が消えた事に気付いた。
すると
「ふーたーご、おーだーんーご、ごちそうさま」
白もこちゃんが滅多に喋らぬ人間語でお礼を言った。
「お前が食べたのか」
「いつの間に」
双子は白もこちゃんの頭を撫でながら言った。すかり上機嫌。
「キュピッ(わたぼも)」
わたぼちゃんは可愛らしく口をあんぐりと開けた。
言葉が理解出来ない双子も団子をせがんでいる事は分かり、
「いいよ」
「一番美味しそうなのは……」
双子は美味しそうな団子を選び抜き、口に入れてあげた。
「ピキュピ、キュピッ(おいしいよ、ありがとう)」
わたぼちゃんは美味しそうに食べていた。
しばらくして映像が流れ始めた。
■■■
パラミタ内海、快晴。
「わたぼ、海初めてだからたくさん遊びたい」
ピキュウ語ではなく人間語で喜びを表現するわたぼちゃん。首には赤色のリボンが巻かれている。
その隣には
「うん、ボート乗ったり、海の家でご飯も食べよう」
「あと、砂山を作って後はじっ」
遊ぶ気満々の双子姉妹。
「実験は無しでね。ほら、わたぼちゃんは今日が初めての海、台無しにしたら可哀想だろ?」
何を言いかけたのか察した孝明は優しく二人を諭す。現実ならば怯えさせる所だが、こちらでは優しいお父さん。
「……はい」
双子はちらりとわたぼちゃんを見た後、こくりとうなずいた。
「よしよし、良い子だ」
孝明は優しい笑みで双子を褒めた。
双子はさっさとわたぼちゃんと遊びに行った。
孝明は双子やわたぼちゃん達を遊びに行かせてからレジャーシートを敷いてパラソルを設置しすっかり保護者役。
「双子のお姉ちゃん、綺麗な貝殻があるよ」
わたぼちゃんが波打ち際で貝殻を発見。
「ほんとだ」
「こっちにもあるよ」
双子もそれぞれ貝を拾い、見せ合っていた。
神出鬼没の白もこちゃんも現れ、のしのしと歩き回ったり双子に甘噛みや軽い蹴りの悪戯をしていたり双子にもふもふされたりしていた。現実と違うのはかなり巨大である事でそれ以外は同じであった。
一方、薫と孝高は海に続く道にいた。
「やっぱり、俺が持つから貸せ」
孝高は強引に薫が持つ大荷物を奪い取っていた。
「あぁ、孝高。これぐらい大丈夫なのだ。我が持つと言ったから最後まで持って行くのだ」
薫は申し訳なさそうに孝高から荷物を取り返そうとするが、
「あのな、スイカだけじゃなくあの二人の荷物まで持って……お前は」
孝高は呆れた顔で薫に言った。実は双子は到着するなり荷物を放置して海に直行したのだ。双子放置は危険なため保護者として孝明が付添人となっているのだ。
「双子くん達、早く遊びたそうにしていたから」
現実と同じく優しく鈍感な薫は双子を気遣う発言をする。
「ほら、行くぞ」
何を思ったのか孝高はいきなり薫を抱き抱え、早足で歩き始めた。
「……孝高、降ろしてなのだ。我、一人で歩けるのだ」
薫は恥ずかしくてもじもじして抵抗するが、
「俺もさっさと海に行きたいんだ。ちんたら歩いていた日が暮れる」
俺様系で強引な孝高は聞き入れず、そのまま海まで薫も抱えて歩き続けた。
「……孝高」
薫はひたすら赤面するばかりだった。
薫達が到着した時、双子の魔法薬にて作られた砂のわたげうさぎが砂浜を飛び回り迷惑行為を起こしていた。
それを見て
「……砂のわたげうさぎが飛び回って悪さか」
「注意はしたんだけど、言葉だけではだめだね」
孝高と孝明は呆れ、仕置き実行のため行動を開始した。
孝高は巨熊になり、孝明は指ぱっちんで『インビジブルトラップ』を発動させ女子だろうと関係なしに現実と同じ鉄槌を下していた。
当然、砂のわたげうさぎも無事処理された。
それから薫達も加わり改めて海を楽しんでいた。
■■■
鑑賞後。
「……平行世界の我達。いつも通りのようでちょっぴり違って不思議なのだ」
「キュピピピ、ピキュッキュウ〜(双子のお姉ちゃんと遊んで、わたぼは人間語を喋っているんだね〜)」
薫とわたぼちゃんは満足していた。鑑賞中、わたぼちゃんは自分を見つけるとピッピッと鳴いてはしゃいでいた。
「だな。人間語を喋るとあんな感じなんだな」
「まぁ、ピキュウ語でも可愛いからいいんじゃね。それより白もこちゃんがすげぇ大きかったなぁ」
双子は人間語を喋るわたぼちゃんと巨大な白もこちゃんに驚いていた。
「しかし、俺はありえないよねー、あんなに優しいなんてそれより、孝高は……ぷ、くく、おかしいだろ……ウケる……」
孝明は平行世界の自分を苦笑した後、息子の変わりぶりに笑いを堪えていた。
「……親父、笑うな……俺もあんな風に天禰と接する事が出来たらいいのに」
孝明をにらんだ後、平行世界の自分に驚きはあれど羨望を含んでぼやいた。
「……というか、向こう女子だぞ」
「そうだぞ。可愛い女子なのに容赦なくね?」
熊親子をにらみ不満たらたらの双子。
「どちらにしろ同じ事をしていたという事か」
「最近の事を思い出させるね。ただ、文句を言われても向こうの住人じゃないからねー」
孝高と孝明は最近起きた海での出来事を思い出していた。砂の形が違うだけで後はほぼ同じという素晴らしさ。
「…………」
双子は孝明の言葉に沈黙した。こっちの熊親子だったとしても同じ結果になったのではと恐れていたのは言うまでなかった。
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