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リアクション
「……アキラよ、少しは行儀良くせい。ここは自宅では無いのじゃぞ」
ルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)はアキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)の態度に青筋を立て叱り始める。なぜならポテチなどのスナック菓子や炭酸飲料を大量に持ち込んで飲食し我が家のように寛ぎまくっているからだ。
「それより、ほら」
アキラはルシェイメアの怒りを逸らそうと自分が登場を始めた映像を指し示した。
「……全く」
ルシェイメアは仕方無く怒りを静め、鑑賞を始めた。
同時刻。
「平行世界さんからの映像さん、早く見たいね! 翠ちゃん、あそこの席に座って見ようよっ!」
「うん、どんなのか面白そうなの。でも誰が送って来たのかな?」
誘いを受けたサリア・アンドレッティ(さりあ・あんどれってぃ)と及川 翠(おいかわ・みどり)は好奇心いっぱいに上映会にやって来て近くの席に腰を下ろした。
そんな二人の隣には、
「確かに翠の言う通り送り主も目的も不明って、怪しいと言えば怪しいわよね」
「送り主さん気になりますねぇ〜」
翠とサリアのお目付役として来たミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)とスノゥ・ホワイトノート(すのぅ・ほわいとのーと)が座っていた。送り主不明が気になる様子。
「……一応、調べてみた方が良いかもね」
「そうですねぇ〜、調べに行きましょう」
ミリアとスノゥは調査に行く事に。
「行ってらっしゃいなの〜」
翠は元気に二人を見送り、サリアと一緒に団子やお茶を楽しみながら映像を見る事に。
■■■
イルミンスール魔法学校、廊下。
「……やっぱり勧誘は予想通りだめだったか」
アキラはぶつぶつ言いながら目的の実験室に向かって歩いていた。実は校長室に遊びに行きエリザベート達に目玉にならないかと誘うもやんわりと断られたのだ。
「そう簡単にはいかぬという事じゃ。まぁ、本来の目的は別だから気にする事はなかろう」
アキラの肩に座る目玉の パッフェル(めだまの・ぱっふぇる)が話しかけた。遊びに来たのは実は建前であり別の目的が二人にはあった。
「だな。渋られるかと思ったらあっさり依頼受けてくれて二週間で完成したって言うし」
アキラはとある魔法薬を依頼した双子姉妹の事を思い出しつつ実験室に急いだ。
実験室。
アキラが入室するなり
「ほら、出来たよ」
「目玉化の魔法薬。浴びるとすぐに目玉化するから。身長はその子と同じ大きさ」
双子は怪しげな煙が入った瓶をアキラ達に渡した。
「了解。助かったよ。それで二人はどうする? 目玉にならない?」
礼を言って受け取った後、アキラは目玉化の勧誘をする。面白い事が好きな二人なら快諾するだろうと予想しながら。
「面白そうだから参加しようかな。ね?」
「うん。加わってもいいかな」
アキラの予想通り双子は快諾した。
「分かった。それじゃまた後で」
目玉候補を二人ゲットしたアキラはさらに人口を増やすため退室した。
廊下。
「アキラ、さっさとやるのじゃ。誰かに知られては面倒じゃからな」
目玉のパッフェルは冷静にすれ違うイルミンスール生を見送りながら急かした。
「そうだね。それじゃ、始めようか」
促されたアキラは魔法薬のふたを開け瓶の中の煙を解放した。
魔法薬はあっという間にイルミンスール中に広がり、多くの人が目玉化した。その中にはエリザベート達も含まれており、偶然、学校に来ていた来訪者も巻き込まれていた。
大図書館。
「頼まれていた調べ物終わったの〜」
「翠ちゃん、帰ろう」
調べ物に来ていた翠とサリアは用事を終えるなり大図書館を出て行った。こちらの二人はとても大人しく押しが弱い。そのため調べ物を頼まれたのだ。実は二人が現実と違うように同じに見える大図書館も少し違っていたが、あまりにも些細な事のためぱっと見では鑑賞者も調査の者も気付けなかった。
廊下。
「何か騒がしいの〜」
「何かあったのかな……みんな、小さな目玉さんになってるよ」
翠が騒がしさに小首を傾げ、サリアが理由を発見した。
それと同時に二人もまた巻き込まれてしまい小さな目玉になってしまった。
「小さくなったのー」
「目玉になっちゃった」
翠とサリアは互いの顔を見合わせ、何かの騒ぎに巻き込まれた事を知った。
数週間でイルミンスールの全ての人の目玉化は完了し無事に目玉のパッフェルを国家神とする目玉帝国が建国された。最初は驚きや抵抗もあったが時間が経つにつれ馴染み、今ではそれなりに皆楽しんでいた。
国名が変更した事により世界樹にも新たな名が付けられる事に。
「パラミタで国として認められるには国家神と世界樹がセットじゃないといけないから百目樹とかどうかな」
すっかり目玉化したアキラが適当に命名。
「百の目、か我ら目玉族には相応しい名じゃ」
目玉のパッフェルは目玉の民を見回し、満足げであった。
「いいと思うよ」
「なってみたらなかなか面白いね」
すっかり目玉の民となった双子も賛同した。
この日から改めて目玉帝国の民は目玉族と呼ばれ、他の種族と同じく普通に人々に混じって平和に暮らし目玉帝国の歴史が刻まれ続けたという。
■■■
鑑賞後。
「最高の世界だったな」
アキラは満足し、平行世界で同胞であった双子の方に顔を向けた。
「だな。な、キスミ」
「おう。あの薬作ったら面白そうだよな」
双子も楽しんでいた。
しかし、感慨に耽るのもここまで
「……貴様は……」
似て非なる世界の映像を映画のように純粋に楽しんでいたルシェイメアの顔には怒りしかなかった。
「ルーシェ?」
嫌な予感を感じつつも窺うアキラ。
その答えは
「貴様は何をやっておるんじゃ!!」
アキラを容赦なくどつく事で答えた。平行世界のアキラがあまりにもアホな事をしているのにたまりかねたのだ。
「何で俺なんだよ。あれは平行世界の俺だって」
アキラはどつかれた箇所をさすりながら訴える。アキラはアキラでもやらかしたのは平行世界の方なのでたまったもんじゃない。
しかし、その訴えは聞き入れられず
「アキラはアキラ、同じ事じゃ!」
再びルシェイメアにどつかれた。
「それ無茶苦茶だ〜」
アキラがこうして痛い目に遭っている同時刻、キスミの作ってみたい発言により双子達は左右と後ろにいる怖い人達に怯えさせられ肝を冷やしていた。
巻き込まれる側だった二人は
「二人共、目玉になったの〜」
「面白かったね。次は何かな」
翠とサリアは楽しそうに感想を口にしていた。
この後も二人は興味津々でひたすら映像を楽しんでいた。時々歓声を上げたりするもほぼ大人しく鑑賞していた。
「……あれは双子にとって地獄だろうな」
双子に誘われ参加した酒杜 陽一(さかもり・よういち)は双子の席の様子を見て言葉を洩らした。丁度アキラの映像が終了し、キスミのうっかり発言から周囲を囲むベテランの仕置き人達に脅されている時だ。
「さて、どんな映像が流れるのか楽しみだな。丁度、始まったか」
いつもの事なので双子を助ける事はせず、団子とお茶をお供に映像を楽しむ。
■■■
現実とは少々違う世界。
空京、シャンバラ宮殿、執務室。
「最近、建国した目玉帝国とやらを知っておるか?」
東シャンバラの代王であるセレスティアーナ・アジュア(せれすてぃあーな・あじゅあ)は公務と久しぶりに顔を見たいという私用にてやって来ていた。
「数週間前に出来た国ね。噂では魔法薬でイルミンスールの人々を目玉に変えたとか」
西シャンバラの代王高根沢 理子(たかねざわ・りこ)が建国して数日の新たな国について言った。
「うむ。建国してから誰も訪問しておらぬからどのようなものか実態が掴めていないらしい。遠巻きに見た感じでは酷い暴動は起きていないらしいが」
とセレスティアーナ。建国されたばかりのため知らない事が多く一刻も早く情報が欲しいのだ。
「今日、公務と私用でパラ実の校長になったジークリンデも来るのよね。仕事も落ち着いてるからみんなで出掛けたいと思ったけど無理そうね。そうそう、魔法薬の作製者の情報がわずかばかり入って陽一の知る者と分かったから事情を話して陽一にも参加するように言ったわ」
理子は遊べない事に対して残念そうに溜息をつくのだった。
その時、
「……理子様、陽一です。波羅蜜多実業高等学校校長をお連れしました」
相変わらず現実と同じく理子の影武者と恋人をしている陽一がジークリンデ・ウェルザング(じーくりんで・うぇるざんぐ)を連れて来た。理子から入室の許可を得てから中に入った。
「お久しぶり。最近建国された国についての相談と皆の顔を見たくて来たよ」
ジークリンデは久しぶりの顔に嬉しそうにするも仕事は忘れない。
「元気そうだな。それで魔法薬製作者についてだが」
久しぶりの顔に喜ぶもセレスティアーナはすぐに本題の公務を切り出した。
「あぁ、あの双子の姉妹ですよね。本当にあの二人、何をやってるんだか。あの二人おそらく嬉々として目玉族になっていると思いますよ。あのような事が好きですから」
公の顔で陽一は呆れを含みながら双子の生態を話した。こちらでも現実と同じく度々騒ぎに巻き込まれているらしい。
「知っている陽一がそう言うのなら確かよね。それなら知り合いとしてあの国の様子を見に行ってくれない?」
理子は情報収集を陽一に頼む。
「……目玉帝国にですか。そうですね。構いませんよ」
「私も同行するよ。パラ実の校長として。建国の挨拶とか。悪い国でなかったら親交を深める方がいいから」
陽一はあっさり引き受け、ジークリンデも同行する事となった。
二人は、すぐに向かうため退室した。
「では、頼む」
「気を付けてね。無理だけはしないでよ」
セレスティアーナと恋人の身を案じる理子は退室する二人を見送った。
陽一達は何とか目玉帝国まで無事に辿り着く事が出来た。
目玉帝国。
「ようこそ、目玉帝国に。本日はどんな用かな?」
二人を迎えたのはアキラであった。
「波羅蜜多実業高等学校校長のジークリンデ・ウェルザングです。建国されたと聞きつけ参りました」
「……自分は目玉帝国の民となった知り合いのロズフェルの双子に会いに来ました」
ジークリンデと陽一はそれぞれ自分達の目的を述べた。
「それはそれは。どうぞ、国家神と百目樹の所へ案内した後に双子にも会わせるよ」
アキラは笑顔で快く案内を買って出た。
その時、
「うわぁ、お客さんだよ」
「本当……って、何で来てるわけ?」
双子が現れた。
「あぁ、やっぱり目玉族になっていたか。相変わらず悪さをしているのかな。目玉族になってどんな感じなんだい?」
外見は違っていても声ですぐに双子だと分かった陽一は予想通りの展開に驚きはなかった。
「失礼な事を。結構、有益なこともしてるよ」
「割とここの生活楽しいんだけど小さいから踏み潰されないように普通の人がいる所は気を付けなきゃいけないかな。だから身長を伸ばしたりする魔法薬を作ろうかと考えてるところ」
双子はきゃっきゃと楽しそうに目玉族としての生活を話す。
「随分楽しんでるね。国内も平和のようだし。安心かな」
陽一は危険が無い事にひとまず胸を撫で下ろした。
この後、国家神に挨拶をして親交を得たり百目樹を見たりエリザベート達が元気にしている事も確認してから帰還した。帰還するなり全く危険は無く親交を深めても構わないと報告を上げ、セレスティアーナとジークリンデがそれぞれの場所に帰った。これにより目玉帝国との親交が始まり、双方共に栄えるのだった。
残ったのは、
「心配事も片付いたから少し息抜きしよう」
「仕事は大丈夫なのかい?」
理子と陽一。
「大丈夫よ。これでも頑張ってるんだから、陽一と過ごす時間を少しでも増やすために。言っておくけど迷惑じゃなくて頑張る力になっているという事だからね」
室内に二人だけとなった途端、理子と陽一は恋人の顔になった。
「分かってるよ。俺も同じだから」
陽一は笑みで理子に答えた。
「ありがとう」
陽一の言葉に嬉しくなった理子は礼だけでは感情を静める事が出来ず、思わず陽一に口づけをした。陽一は優しく理子のキスを受け止めていた。
■■■
鑑賞後。
「……あっちでも縁があるみたいだね」
陽一は双子の方ににこやかに顔を向けた。
「うわぁ、嫌な縁だぁ」
「また何かされるかと思ったぞ」
双子は明らかに嫌そうな顔をする。陽一が嫌いというわけではなく怯えから来るものである。
「でも割と目玉族になった俺達って可愛いよな」
「だよな」
気持ちの切り替えが早い双子は目玉族の姿にご満悦。
「……まぁ、平和で幸せな感じだったから良かったかな」
陽一も満足していた。
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