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リアクション
九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)と斑目 カンナ(まだらめ・かんな)は双子の誘いを受け、上映会に来た。
そして、流れる映像に目を向けた。
■■■
シャンバラ教導団。
「……こんなイコンがあってもいいと思うのにな」
髪型は短いが顔立ちはローズの青年、九条丞(くじょう・すすむ)は自分が設計した様々な災害救助用やエンターテイメント用等の戦闘に不向きなイコンを眺めながらつぶやいた。つい先ほど、依頼された戦闘向きのイコンの設計図を嫌々提出したところなので不機嫌だ。丞はここでイコン設計士のインターンをしている。
「相変わらずだな、丞。またイコンの事で上と折り合いがつかなかったんだろ。ここで昼飯いいか」
そう言いながら部屋にやって来たカンナの顔立ちを持つ青年は軍楽で指揮を学んでいる丞の従兄弟の九条静(くじょう・しずか)だった。髪型は現実のカンナと同じで短い。
「いいよ。昼食の時くらいしか会えないからね。争いは傷付けるだけで何も生まないし無意味だ。イコンは、美しい夢なんだ。一体くらい、武器もなく人を喜ばせるイコンがあったって良いんじゃあないかと思うんだ」
難しい顔をしたまま丞は言った。昼食よりもイコンの事で頭がいっぱいである。
「まぁ、丞のその極端な争いとかトラブル嫌いは今に始まった事じゃないからな。遺産相続の時も争いが鬱陶しとか言って継いだ会社を売った金と遺産を俺達がこっちで勉強するために使って残りは全部親戚にあげたもんな」
静は丞の机で昼食を食べながらいつもの事なのかさらりと流す。
ちなみに丞が継いだ会社は、祖父の九条穣と父親の九条譲から受け継いだオルゴールの販売や製作が主な会社である。
「争いとは遠い場所で静かに暮らしたかったけど、今はこうして戦争の片棒を担いでる。嫌になるよ」
丞は設計図を置いてようやく食事を始めた。
「仕方無いだろ。ポリシーだけで飯は食えないし、キャリアも積めないだろ? もう少し考えたらどうなんだ? フリーになるのは甘くないんだぞ。まぁ、気持ちはわからんでもないけどな、俺も指揮者になりにきた訳じゃあないし」
と静がいつものように諭すように言った。丞が几帳面な神経質ならこちらは拘らない、必要なら妥協も出来る性格であった。現実の二人の性格が逆転しているのだ。
「……」
静の言葉に何も言えずじっと丞は静の右手を見た。その右手は義手であった。パラミタの紛争に巻き込まれ失ってしまったのだ。義手は機械ではあるが、静は演奏者の夢を断念したのだ。その事実もまた丞の争い嫌いを加速させている。
そんな時、
「またお前らやり合ってるのか」
技術科の講師である長曽禰 広明(ながそね・ひろあき)がやって来た。
「長曽禰さんか」
「ご覧の通りですよ」
丞と静はそれぞれ長曽禰を迎えた。現実ではローズの恋人であるがこちらでは信頼出来る兄貴的な立場。
「さっきお前が提出した設計図見たけど、さすがだな」
長曽禰は先ほど丞が提出した設計図を褒めた。
しかし、戦闘向きのイコンを褒めて貰うよりも
「それは小さい頃から工房で機械の部品を見ていたからですよ。それよりこれを見てくれませんか」
丞は戦闘に不向きなイコンの設計図を長曽禰に見て貰おうと差し出した。
「……ん? これは災害救助用のイコンの設計図か」
長曽禰は技術科講師らしくすぐに何用なのかを見抜いた。
「そうです。そういうイコンがあれば、速やかに救助も出来ますし……こっちの設計図のイコンなら危険な場所での採掘も安全に行う事が出来ます。こういう戦わないイコンもあってもいいと思うんです」
丞は必死に自分の気持ちを訴える。
「そうだな……オレ個人としてはいい事だと思う。争いを本当に好んでいるヤツなんているはずねぇから。ただ、今の状況を考えるとここで作製するのは無理だとは思うな。それより……」
長曽禰は少し間を置いてから真剣な面持ちで率直な感想を口にしたが、最後は言葉を濁らせた。
「……それより?」
丞も真剣な表情で長曽禰を促した。
「かなり前に亡くなったイコン技師の工房をつい最近個人的に引き取った。教導団からは離れた所にある」
長曽禰は意味深な笑みを浮かべながら言った。
「もしかしてそこで……」
「長曽禰さんもやるもんですね」
丞と静は長曽禰の思惑を知り、いい顔をしていた。
■■■
鑑賞後。
「まさかあんな平行世界だとは思わなかった」
「……確かに……また指揮者か」
ローズとカンナは驚きつつもそれなりに満足した。ただカンナは未来体験と同じく自分が指揮と関わっていた事に一言つぶやいた。
ハイコド・ジーバルス(はいこど・じーばるす)の妻であるソラン・ジーバルス(そらん・じーばるす)はニーナ・ジーバルス(にーな・じーばるす)と白銀 風花(しろがね・ふうか)と一緒に買い物をしていたが、小耳に挟んだ上映会に参加するべく現れた。
映像が流れる前、
「平行世界の映像かー、お願いだから私やソラの映像は流れませんように」
興味津々の他の二人と違ってニーナは誰にも聞こえないように小さな声で祈っていた。なぜなら、姉妹のどちらかが死んでいたりハイコドと結婚していなかったりすると考えるからだ。
そして、映像は流れた。
■■■
とある集落に建つランバード家。
表札にはソーマ、ミホロ、ニミュの名前が刻まれていた。
台所。
「お母さん、もうそろそろお父さん達が帰って来るね」
「そうね、ニミュ。きっとお腹を空かせているはずね」
母娘は仲良く夕食の支度をしながら狩りに出掛けた男達が戻って来るのを待っていた。ニミュと呼ばれた娘は風花そのものであった。
しばらくして母娘の耳に聞き知った大声が入って来た。
「帰ったぞ!」
父親のソーマが仲間と共に仕留めた大きな鹿を抱えて戻って来たのだ。
「お帰り、ソーマ」
「お父さん」
ミホロとニミュは他の女達と一緒に迎えた。
この後、集落一同、自然に感謝してから鹿と用意していた他の料理も加えて集落総出の賑やかな夕食が始まった。
「お父さん、今日もお疲れ様」
「ありがとう、ニミュ」
ニミュは食事をする父を労いながら酒を注いだ。
そこに
「ニミュが夕食の準備を手伝ってくれたのよ」
ミホロが笑顔でニミュと料理をした事を話し始めた。
「そうか。美味しいよ」
ソーマは嬉しそうな笑顔をニミュに向けた。
「ありがとう。それより、私にも刀の使い方を教えて欲しいな」
ニミュは父の腰にある刀に目を向けながら真剣な顔でお願いを始めた。
「そうだなぁ、ニミュが本気で使いたいと思うなら教えようか」
ソーマは自分の刀に触れながら本気かどうか確認を入れる。生半可な気持ちで刀を使うのは危険だから。
「お願い。刀の使い方を覚えてお父さんと一緒に狩りに出掛けたいから」
父の思いをしっかりと理解するニミュは真剣な顔で力強くうなずいた。
じっと娘の目を見つめていた父親は
「……そりゃ、楽しみだな」
ふと表情をゆるめ刀を教える事を快諾した。その時、誰もいないのにどこからか視線を感じたソーマ。しかし、その事は一切口にしなかった。
「ありがとう、お父さん。ちょっと、お母さんを手伝って来る」
そう言ってニミュは料理を運ぶ母親の手伝いのため席を外した。
残った父親は
「……どうか大切な娘を頼みます」
カメラ目線で真剣さと優しさのある様子をでつぶやいた。
■■■
家の表札で自分の本名を知り、仲良く料理をする母娘の様子が映った時、
「これが私で隣の方がお母様……私の本当の名前は……ニミュ……ニミュ・ランドバードですか」
風花はあまりの事に驚き、食い入るように母娘の様子を見つめた。何せ、風花は生まれてすぐ住んでいた集落が蜂のモンスターに襲われ全滅したのだ。両親に必死に守って貰った赤ん坊だった風花はわたげうさぎに拾われ兎として生活し、今の名前は獣人と知らなかったペット時代に魔鎧のパートナーが付けた物だ。
「……これってどう見ても風花ちゃんだよね。ソラ、風花ちゃんって両親は……」
ニーナはニミュやニミュの両親を見るなり心当たりがある顔をするのだった。
「お姉ちゃん」
「うん、大丈夫。何となく想像付いたから黙ってるわ」
同じく察したソランの言葉にニーナはうなずき、口を閉ざして大人しく鑑賞を続けた。
ニーナは次第に
「……幸せそうな家族ね。私もちゃんと考えないと……ハコくんとの事……はぁ、どうしよう」
通り雨の日に里に行った時に族長から言われた事を思い出していた。
「どうしようって他に男の人を捜そうとか考えてるの?」
ソランがツッコミを入れた。
「いや、そりゃ、他の男の人探すというのはあれだけど……あぁ、でも」
ソランにうなずくもあれこれ考え、軽く脳内パニック。
「おねーちゃん、さっさと色々決断しないと実力行使もとい毎日のご飯に薬盛るよ?」
さっさと決断して欲しいソランは堪らず言葉をかける。何せ姉妹でハイコドのお嫁さんになるという幼い頃の約束を果たす事に熱心だから。
「薬って、ソラ」
不穏な事に思わずニーナは妹をちらり。
「ナニのとは言わないけどねぇ〜。本当にあの世界みたいに皆平和に暮らせたらいいのに、いるかどうか分からないカミサマを恨みたくなるよ」
ソランは顔を背け、素知らぬ顔をして自分の発言を誤魔化した。
「もう、ソラ……それより、あの刀、ソラのじゃないの?」
ニーナが溜息をついた時、丁度風花の父親の刀が映し出された。
ニーナに教えられソランも気付いた時、
「本当だっ……のわっ!? な、何!? 何で!? こういうのは普通風花に起こることじゃないの!?」
融合機晶石【バーニングレッド】と光白椿が融合したのだ。
「ソラ、これはどういう事?」
「分からない。いきなり……」
突然の事にニーナとソランは小首を傾げるばかり。
二人は知らなかった。その刀が風花の父が使っていた刀である事、刀から守りたいという意思が聞こえたとかでソランの父が骸から拾い、祖父が打ち直して光白椿が出来上がった事を。
とにもかくにも映像は終わった。
終わるなり
「お父様、お母様、平行世界とはいえお会いすることが出来てよかったですわ。私にもちゃんと両親が居たのですね」
ソラン達の騒ぎなど耳に入らないほど映像にのめり込んでいた風花は嬉し涙を流していた。両親がいたことがとても嬉しかったのだ。
しかし
「良かったね、風花。本当の名前も分かったし」
ソランが嬉しそうに言葉をかけると
「はい。ですが、今の私はニミュではありません。風花です。ですから、その名前は私の胸の中に仕舞っておきますわ」
うなずきながら風花はそっと胸に手を当てながら有り得たかもしれない世界の姿を胸の奥に仕舞った。今の自分は大切な仲間に囲まれた風花だから。
「……そうね」
風花の気持ちを理解したニーナは静かにうなずいた。
風花の父親の最後の言葉を思い出し、仲間として風花の事をこれからも大切にしたいと思っていた。それはソランも同じであった。
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