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みんなで楽しく?果実狩り! 2023

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みんなで楽しく?果実狩り! 2023

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【スープとタルトと新たな命】

「さあ、豊美様。こちらをどうぞ」
 アレクの下から豊美ちゃんを救出……もとい、介抱のために連れて来たエイボンは、採れたての柿を使った冷製デザートスープ――完熟の柿をピューレ状にすり下ろし、ヨーグルトと混ぜ合わせた後蜂蜜で甘味を足し、レモンを絞ったもの――を豊美ちゃんに振る舞う。
「ありがとうございます〜。ウマヤドも「柿は酔いを覚ますのに効果的です」って教えてくれましたね〜」
 スープを口にする豊美ちゃん、口調にはまだ酔いの影響が残っているものの、介抱もあって大分覚めてきたようだった。
「すっきりされたようで何よりですわ。あちらで兄さまと姉さま、ミリア様が栗ご飯や秋のフルーツを使ったタルトを作っていますので、召し上がっていってくださいね」
「ごめんなさいエイボンさん、何から何まで」
 申し訳なさそうに豊美ちゃんが頭を下げれば、エイボンはお気になさらないでください、と言って続ける。
「豊美様は最近、お忙しそうでしたもの。今日一日くらいは、ゆっくりなさってください。
 わたくしはこのスープを、他の方にも振る舞ってあげたいと思います」
 実に頼りになる様で、エイボンが一礼して背を向け、歩き去る。
「言われてみれば……この数ヶ月、色々とありましたねー」
 ふと、これまでのことを思い返す豊美ちゃん。十二支アッシュとの戦いをきっかけにして始まったアレクとの交流、領主を懲らしめに行ったりコロシアムでぱんつを託したり、と確かに目まぐるしかったように思う。
「今日が、皆さんにとって穏やかな日になるといいですねー」
 そんな心からの願いを口にして、ごちそうさまです、と手を合わせた豊美ちゃんが、席を立ってのんびりと農園を見て回る――。

「お父様、カスタードクリームはこんな感じで良いでしょうか」
「ああ、いい具合だ。ありがとうミリア、ここからは私がやろう」
 ミリィ・フォレスト(みりぃ・ふぉれすと)からタルト生地を受け取り、涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)が農園で採れた葡萄や林檎、洋梨といった秋のフルーツを飾り付けていく。
「それにしても、おにいちゃんとミリアさんの子供かぁ。
 ……アレ、それってミリィの事になるのかな?」
 と、テーブルの向こうで栗ご飯の仕込みをしていたクレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)が一段落ついてやって来る。今日は涼介と一緒に料理はせず、ジーベル夫妻と談笑するミリア・フォレスト(みりあ・ふぉれすと)の宿している子は、ミリィの存在からミリィであるはずである。
「わたくしなのかそれともそうではないのかは分かりませんね。何はともあれ、やはり新たな命の誕生はうれしいものですわ。
 お父様、女の子が生まれたらどうなさいますか?」
 ミリィに問われて、涼介が手は動かしたまま思案して、口を開く。
「私としてはようやく最近、自分が父親になるのだ、ということを理解したばかりだからね。お腹が大きくなったミリアさんを見ると実感する。
 どう育てたらいいか、についてハッキリとした方針はまだ無いけれども、与えられる限りの愛情は注いであげたい。生まれたばかりの子供に大切なのは“物”ではなく“心”、私はそう思っているよ」
 涼介の言葉に、クレアとミリィ、それにミリアも笑顔を見せる。それが分かってさえいれば、十分に立派な父親として振る舞えるだろう。
(……そうですわ。お父様は誰であれ、生まれた子を立派に育て、幸せな未来を築いてくれます。
 だから、これからどのような事になったとしても、わたくしはそれを受け入れますわ)
 暖かな輪の中で、ミリィは心に浮かんだ『涼介とミリアの子供が生まれたら、自分という存在はどうなってしまうのか』という憂いをそっとしまい込む。今はこのキラキラと輝いて見えるタルトを囲んでお茶をすることが出来る幸せを、噛みしめよう。
「私は剣と礼儀を教えてあげたいな。私が教えてあげることが出来る、一番大切なものを教えてあげたい」
「はは、それは楽しみだ。油断していると妹に先を越されるかもしれないぞ?」
「流石にそれはまだ先じゃないかな? ふふ、でも、そのくらいまで身に付けてくれたなら、嬉しいな」
 涼介とクレアが話すのを見つめながら、ミリアは出来たてのタルトを一口、頬張る。
「……美味しい」
 幸せな味に、心が満たされていくようだった。



「外でも狩りが出来るようになったのは、いいわね。まあ、六兵衛が言わなければ外にすら出なかったでしょうけど」
「私もついつい篭りがちになっちゃって、コハクに連れ出されたんだよね〜。なのにコハクったら早々にダウンしちゃったの!
 なんか変なブドウがなってるみたいだから、魔穂香も気をつけてね」
 農園で久し振りに会った――リアルで、の話で、ネットゲームの中ではほぼ毎日顔を合わせている――小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)馬口 魔穂香が、ここでも携帯端末を操作して狩りに興じていた。互いに慣れたもので、二人とも殆ど画面を見ていない。
「うん、話には聞いてる。豊美ちゃんもやられちゃったみたい。私は全然平気なんだけどね」
「そうなの? 人によって効き目が違うのかな。
 ……あっそうだ、今日もベアトリーチェが収穫した果物でパイを作ってくれるって!」
「ホントに? それは楽しみだね。
 じゃあ、豊美ちゃんの代わり、ってわけじゃないけど、私達も収穫を手伝おっか」
「……うん、そうしようそうしよう」
「美羽、今ちょっとだけ躊躇ったでしょ。気持ちは分かるけどね」
「あはは、だよね〜。
 うん、魔法少女のお仕事、頑張ろっ!」
 ……そうして、美羽と魔穂香は魔法少女に変身し、ジーベル夫妻のために果物収穫を頑張るのだった。

「コハクさん、そんな姿勢でいたら二人のスカートの中、見えちゃうッスよ」
「あはは……そういえば去年は僕が、六兵衛の目を塞いだんだっけ。
 大丈夫だよ、距離あるから見えないと思う……多分」
 二人が収穫を行っている頃、コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)馬口 六兵衛は地面に寝っ転がっていた。二人の顔はほんのり上気しており、どうやら二人ともアッシュブドウのもたらす酔いの効果にやられてしまったようだった。
「魔穂香は大丈夫なの?」
「あー、大丈夫ッスね。魔穂香さん、そっちの耐性メッチャあるッス。詳しくは伏せるッスけど、そういう環境だったんスよ」
「……うん、詳しくは聞かないでおくけど、それとこれとは違うんじゃないかな?
 まあ、それにしても……魔穂香って前より元気になったよね。そう思わない?」
「そうッスね。僕と契約した頃より確実に、健康的になってるッス。豊美ちゃんとの出会いもそうだし、美羽さんとこうして仲良くなったのが大きいと思ってるッス。
 ホント、皆さんには感謝してるッスよ」
「そんな、こちらこそ美羽と仲良くしてくれて、嬉しいよ。
 願うなら来年も再来年も、またこうして一緒に来られたらいいな」
「そうッスね。それは僕もそう思うッス」
 コハクと六兵衛が横になった姿勢のまま、互いに顔を見合ってはは、と笑い合う。
 ――そのまま二人は、ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が焼き上がったパイを持ってくるまで、のんびりとした時間を過ごしていたのだった。

「うまいッス! ベアトリーチェさん、今年のはより一層美味しいッスよ!」
「それはよかったです。六兵衛さんに喜んでもらいたくて、頑張りました」
「ううっ……こんな事を言ってもらえるなんて、僕は幸せモノッス。
 これで明日からも会社勤め、頑張れるッスよ」
「六兵衛、なんかオジサン臭いよ」
「はうあっ!? ままま魔穂香さん、それはいくらなんでもヒドイっすよ!?
 どこをどう見たらそんなことが言えるッスか!?」
「うーん、雰囲気?」
「あ、分かる分かる〜。確かにそんな感じだよね〜」
「……うわぁあぁぁん! コハクさん、二人がイジメるッスよ〜」
「よしよし、ほら泣かないで、新しいパイだよ」
「はむはむ……コハクさんは優しいッスね」
「……ねぇ、あれって絶対、餌付けされてる図よね」
「「ふふ、これでこいつは俺から離れられないぜ……」そんなこと言ってるに違いないよ!」

(……聞こえてるんだけどなぁ)

 ベアトリーチェが作った果実のパイとマロンパイが、一行のお腹と心を満たしていく。
「では美羽さん、魔穂香さん、お願いしますね」
「任せといて! ベアトリーチェの作ったパイは凄いんだって、みんなに知らしめてあげる!」
「うん、行ってくるね、ベアトリーチェ」
 そして、ベアトリーチェに託されたパイを持って、美羽と魔穂香は他の人の所へ飛び立っていった。
「……ところでベアトリーチェ、その籠に入っているのってその……あのブドウを使ったパイだよね」
 二人が去った後で、コハクは気になっていた籠の中身をベアトリーチェに尋ねる。籠からは甘く、人を惑わせるような香りが漂っており、コハクと六兵衛は懸命に鼻を閉じて吸い込まないようにしていた。
「はい、アッシュパイと名付けました。ぜひアッシュさんにも食べてもらおうと思いまして」
 満面の笑みを浮かべるベアトリーチェ、そんな彼女を横目に、コハクと六兵衛がなにやらヒソヒソと小さな声を出し合う。
「なんか、含みのある笑みに見えるッスよ?」
「うーん、ベアトリーチェに限ってそんな事は無いはずだけどなぁ」

 ベアトリーチェの様子が気になった二人は、こっそり後をつけることにしたのであった――。