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温泉と鍋と妖怪でほっこりしよう

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温泉と鍋と妖怪でほっこりしよう

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 夜、廊下。

 宿に到着してしばらく部屋で過ごした後、入浴に良い時間が訪れるなり女湯に向かう乙女達がいた。
「はぁ、せっかくリースと二人でのんびり温泉で休めると思ったのに何でついて来るかなぁ」
 マーガレット・アップルリング(まーがれっと・あっぷるりんぐ)リース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)を挟んで横にいる涅槃イルカに乗って飛ぶ下半身が魚のルゥルゥ・ディナシー(るぅるぅ・でぃなしー)に不満を言った。
「それはあたしの台詞よ。計画を台無しにしたのはマーガレットの方でしょ」
 ルゥルゥもまた愛らしい顔を不満に歪めた。
「そ、その折角ですからみんなで楽しみましょう」
 何とか場を収めようとする真ん中のリース。
「そうね人数が多い方が温泉は楽しいかもだし」
 マーガレットはリースの意見に賛同し、
「……一人、足りないみたいだけど」
 ルゥルゥはいつの間にかいなくなったケルピー・アハイシュケ(けるぴー・あはいしゅけ)の行方を訊ねた。
「え、えと、外を散歩して来ると言って出て行きましたよ」
 リースは自分達より先に部屋を出た事を二人に伝えた。
「散歩ねぇ。臆病なのによく夜に散歩に出掛けたわね。まぁ、いいわ。あたし達は温泉を楽しもう」
 マーガレットは少し小首を傾げるもそれほど気に掛けはしなかった。
「あ、はい。みんなで行きましょう」
 リースはにっこりしながら二人と一緒に女湯に急いだ。
 その途中、
「あっ、お姉ちゃん、座敷童の華ちゃん、見なかった? 隠れんぼしてるんだけど、どこにもいなくて」
 廊下を走り回るキーアがリース達を発見し立ち止まり訊ねた。
「え、えと、ここに来るまで見ませんでした」
「見なかったわね」
 リースとマーガレットは来た道を思い出し確認してから答えた。
「心当たりというのなら途中で厨房を見かけたような……」
 ルゥルゥが隠れんぼに最適である場所を思いついた。
「じゃ、そこに行ってみる。ありがとう、お姉ちゃん達!」
 キーアは元気に隠れんぼを手伝ってくれたお姉ちゃん達に礼を言った。
「宿を冒険してるのね」
 マーガレットはキーアの様子から何をしているのかすっかり察してにっこり。
「うん。本当は散歩コースを冒険したかったけど夜は危ないってお母さんが言うから……お姉ちゃん達は温泉に行くの?」
 キーアは少し頬を膨らませ、不満そうに愚痴った。
「は、はい。温泉を楽しみに行くんです」
 リースは笑顔で答えた。
「お友達と温泉って素敵だね。それじゃ、華ちゃんを捜しに行くね。バイバイ」
 キーアは手を振ってから隠れんぼに戻った。
「バイバイ」
 マーガレットも手を振ってキーアを見送り、
「……お友達ねぇ」
 ルゥルゥは物言いたげにマーガレットをちろりと見ていた。
 とにもかくにもリース達は女湯に向かった。

 夜。

「フッ……露天風呂、そこは男のロマン溢れる場所、如何なる犯罪行為も○○君のエッチ!、で全てが済まされる唯一の場所だ。それを楽しまずとして何を楽しむか」
 ケルピーはリースに散歩に行くと嘘をこいて部屋を出るなりこっそり『迷彩塗装』で周囲の風景に溶け込みながらある場所を目指していた。
 それは
「俺様は女湯に忍び込みに行くぜぇええ!! これこそ温泉の醍醐味だ!!」
 女湯の覗き見に他ならなかった。しかも誰も入浴者がいないという幸運。
 脱衣所を抜け、温泉へ。
「昼間は人目につき過ぎるが夜だと誰も俺様だとはわからねぇはずだ」
 そういうなりケルピーは湯の中心にある岩の上に立ち、『迷彩塗装』で風呂の素材である岩と同じように自分を変化させた。
「ゆっくりじっくり堪能させて貰うぜ。もうそろそろ入浴にはもってこいの時間だ」
 ケルピーは乙女達が湯を堪能する姿を想像し、表情をゆるませた。
 そして、
「……俺様はただのオブジェ、ただのオブジェ」
 ケルピーは、はやる気持ちを落ち着かせた後、オブジェのように右前足を軽く曲げて立ち、やって来るだろう乙女達をひたすら待つのだった。

 賑やかとなる女湯、脱衣所。

「……?」
 リースは小首を傾げた。その視線の先には少し離れた所で色気のある女性がいそいそとダイバースーツを着込み、ゴーグルを装着していた。
「お風呂に入るのにおかしな格好よね。ここの温泉ってタオルとか持ち込み禁止なのに」
 マーガレットがこそこそとリースに耳打ちした。
 そのやり取りが聞こえたのか
「これでいいのです。隣は男湯だから」
 女性はリース達に振り向き、ゴーグルを上げてから言った。
「え、えと、どういう事ですか?」
「男性が私に群がってどんどん亡くなるのを見るが怖くて嫌ですから……飛縁魔(ひえんま)だから」
 訊ねるリースに女性は少しうつむき加減にとつとつと自分の正体を明かした。
「……それは、大変ですね」
 『博識』を有するリースは飛縁魔がどんな妖怪か知っているため深くは追求しなかった。
「ここの夫妻は知り合いだから来たんですけど……無意識でも引き寄せてしまうから……男性なんて……」
 繊細な横顔で語った後、再びゴーグルを装着し、温泉に消えた。
「……行ってしまいましたね」
「そうね。だけど、あんなの着込んでたらせっかくの効能も意味無いんじゃないのかな」
 リースとマーガレットはぼやっと飛縁魔の後ろ姿を見送っていた。
 そこに
「早く、あたし達も入るわよ」
 皆を急かすルゥルゥが割って入った。
「……そうですね」
「たっぷり美肌効果を楽しむわよ」
 リースとマーガレットは急いで準備してから三人は脱衣所を出た。