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温泉と鍋と妖怪でほっこりしよう

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温泉と鍋と妖怪でほっこりしよう

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 騒がしくなる女湯。

「ん〜、湯煙がひどくてさっきの女の人が見えないわね。こういう時は……」
 温泉に入るなりマーガレットは先に入浴したはずの飛縁魔を捜そうとするも湯煙で見えないため『風術』を使用して湯煙を追い払った。
 それにより現れたのは、飛縁魔と
「って、あのオブジェ……」
 見覚えのある顔を発見する事となったマーガレット。
 それは
「ちっ、無い奴ばっかかよ、マジねぇわ……」
 眼福には遠い光景にがっかりのあまりつぶやくケルピーだった。
「こ、ここの声、ケルピーさんですか!! ま、まさか女湯を覗きにッ!? って何が無いですか」
 岩陰から声を聞いたリースは真っ赤。
「誰の胸が洗濯板だぁあ! ルゥルゥよりはあるわよッ! ばかー!!」
「あたしは別に見せて恥ずかしい体じゃないから覗き見くらいなんとも思わないけど、胸の事を触れるなら容赦はしないわ」
 マーガレットもルゥルゥも殺気に満ちた声を上げる。
「失礼な事を言うケルピーさんには……」
 リースが桶をケルピー目がけて飛ばそうとするよりも先にガンガンと桶で殴りつける音が響いた。
「見ないで下さい、私の側に近付かないで下さい、私を見ないでぇええ!!」
 桶でケルピーを殴り付けていたのは飛縁魔であった。泣きが入った叫びを上げながら無我夢中で殴る。どうやら男性恐怖症のようである。
「うぉぉぉ、いてぇ、や、やめろぉ、マジ、勘弁」
 容赦の無い攻撃に身動きが取れぬケルピー。
「あぁ、飛縁魔さん、や、やめて下さい。ケルピーさんが壊れちゃいます」
 リースは手に持った桶を離して飛縁魔を止めに行った。
 しかし、
「は、離して下さい……男性に近くにいられると……だめなんですぅ……大変な事になってしまうんです!!」
 リースに羽交い締めにされこの場を離れさせられようとするも粘り、必死に桶を振り回し続ける飛縁魔。
「お、落ち着いて下さい……ケ、ケルピーさんもいつまでもここにいないで下さい!」
 リースは飛縁魔を抑え込みつつ、ケルピーに出て行くように言い放つ。ケルピーがいなくなれば飛縁魔も大人しくなるから。
「んな事言っても……ちょ、マジ、やめろって……いてぇって、し、仕方がねぇ」
 痛みに耐えながらリースに答えるケルピーは何とか隙を見て岩場を離れて脱兎の如く女湯を出て行った。
「……あ、あの、もう大丈夫ですよ」
 リースは、ケルピーの姿が見えなくなったのを確認してから飛縁魔を自由にし、優しく声をかけた。
「……はぁはぁ、い……いなくなったのですね」
 飛縁魔は呼吸を乱れさせながらケルピーがいなくなったのを確認するなり力無く半分壊れかけの桶から手を離した。
「散歩に行くとか言ってこれが目的だったのね。嘘までついて」
 マーガレットはケルピーが消えた方向をにらんでいた。
「……リース、さっきの事は忘れてゆっくり楽しむわよ」
 ルゥルゥは何とか楽しもうとリースに話しかけた。
 まったりとした乙女達の温泉が繰り広げられるかと思いきや、覗き魔はまだいた。
「……我は……こだわらぬのだ……無くとも……可愛いのである」
 外からぼそりと洩れる言葉。
「……この声、あの枝のタオルからね」
 声を耳に入れたルゥルゥはタオルが掛かっている枝に気付いた。
「何か賑やかと思えば、覗き魔か。あれはもしや」
 ルシェイメアが湯に浸かりながらルゥルゥの視線の先を辿りながら言った。
「一反木綿ね。妖怪だろうと……許さないわ」
「不届きな妖怪がいたものじゃな」
 ルゥルゥがルシェイメアが言わんとする事を先回りし、『ヴェイパースチーム』を使用して蒸しタオルにして仕上げにルシェイメアが容赦なく『天のいかづち』で稲妻を落としてこんがりと黒こげにした。
「うぉぉぉぉ、あ、熱いのである……焦げてしまっ……」
 女湯の洗礼を受けた覗き魔一反木綿はふらりと危険走行で男湯に飛んで行った。
「男湯に向かったわね」
 ルゥルゥは臨戦態勢のまま一反木綿の行方を確認。
「そうじゃな。あの様子ではこちらに来るのは無理であろう。もし来たとしてもまた成敗すればよい事じゃ」
 ルシェイメアも二撃目の構えをしながら言った。
 この後、男湯から無邪気な少年が訊ねて来るもルシェイメアがそつなく対応し、乙女達は仲良く湯を楽しんだ。

 寛げない予感する男湯。

「……温泉かぁ……偶にはこういうのもいいよな……超癒される」
 唯斗はのんびりと湯に浸かり、深い溜息を吐き出していた。すっかり寛ぎモードである。
「女湯の方が何か騒がしくないか?」
 同じく温泉に入っているアキラが隣の女湯が妙に騒がしいのに気付いた。
「ん?」
 唯斗も気付き、二つを隔てる仕切りに目を向けた。
 確かに戦闘をしているかのような激しい音が聞こえたりする。
「桶を殴り付ける音とか雷が落ちる音がする……ってあの雷ってルーシェ?」
 心当たりのある音にアキラはパートナーの一人を思い浮かべる。
 激しい音が収まってから
「おい、それって」
 唯斗は騒ぎの原因を口にしようとするも
「ねぇ、何かあったのー?」
 無邪気な5歳ぐらいのシャンバラ人の少年に阻まれた。
 問いかけは唯斗やアキラではなく仕切りの向こうのお姉ちゃん達に向けられていた。
「……」
 黙って事の成り行きを見守る唯斗とアキラ。
 仕切りの向こう、女湯から
「気にするな。何でも無いのじゃ。温泉を楽しむがよい」
 ルーシェリアの少年を気遣う声が返って来た。
 その答えを聞くなり
「何でも無いってお兄ちゃん達、大丈夫だよ」
 少年はにぱぁとしながら二人のお兄ちゃんに教えた。
「……さすが子供だな」
「あれは何でもあたって感じだったな」
 唯斗とアキラは子供の無邪気さを感心すると共に誰かが無謀にも覗き見をしたと悟った。
「……とばっちりこっちに来ないよな」
「……何かすごい殺気を感じる気が」
 唯斗とアキラの声が心無しか音量小になる。覗き見成敗で殺気立っている女湯の隣とはあまりにも寛げない。
「……あれ? 何かこっちに来るよ! 妖怪かな?」
 少年が女湯からふらりとやって来る布切れを指さしながら言った。
「少し落ち着け……えと」
 唯斗は少年を落ち着かせようとするも名前を知らぬ事に気付いた。
「僕、ヨルギだよ。今日はね、お父さんとお母さんと来たんだよ。二人共疲れてお部屋で休んでるんだ」
 ヨルギはにこにこと笑顔で答えた。
 そうこうしている内に布切れは男湯の湯船に着地した。
「すごいボロボロだけど、これ一反木綿だな」
 近付き正体を確認したアキラが皆に報告した。
 すると
「……我が名は……イッタンである……崇高なる任務を……果たした……我の骨を……拾ってくれ」
 憐れなほど震える声でイッタンはろくでもない事を口走った。
「いや、骨無いだろ、布なんだからよ」
 唯斗は思わずツッコミを入れ
「崇高な任務ってただの……」
 アキラも覗き見だろとツッコミを入れようした時、
「どうしたんだろうね。お姉ちゃんが何も無いって言ってたのに」
 何も知らぬヨルギが不思議そうに小首を傾げた。
「……お前は知らなくていい。ほら、大人しく湯に浸かってろ」
「はーい」
 少年は唯斗に言われた通り大人しく湯に浸かった。子供に話すには少しろくでもない事で情けないので。
 男湯のドアが開き、
「あー、イッタン、お前、またやったんだな」
 がんぎ小僧が現れた。
「…………」
 がんぎ小僧を確認するなりイッタンはただの布のふりをする。
「この一反木綿の知り合いか」
 唯斗が新たな妖怪に訊ねた。
「みたいなもん。俺はがんき小僧の銀太だ。ん、久しぶりだな」
 銀太は名乗った後、花見の時に知り合ったアキラを発見し、鋭い歯を見せながら軽く挨拶をした。
「元気そうだね、銀太」
 アキラも親しそうに挨拶を返した。この地で行われた花見にて魚を御馳走になった事があるのだ。
「まぁね。で、間違っても他の一反木綿がこいつと同じとか思わないでくれよ。こいつ一反木綿の中でもおかしくて人間がいる所に降りてはただのタオルのふりをして女の観察をしているんだ」
 銀太は心底呆れたようにイッタンを睨んだ。
「……人間の……女……美麗である……」
 イッタンはぺろりと体を上げてろくでもない事を口走った。女湯の前に混浴でもやらかしている強者である。
「……ろくでもないな」
「おいおい」
 唯斗とアキラは心底呆れた。
「適当に括り付けて男湯にでも沈めておくか」
 銀太は湯底の石の縁などに括り付けた。
「や、やめるのである……わ、我はむさい男の裸など見たくないのである」
「だってまた覗き見するだろう。少し懲りた方がいいからな。それに他の一反木綿に迷惑だろ。きちんと宿の人には言っておくから」
 先っぽを括り付けられ、身動きが取れぬイッタンは悲痛の叫びを上げるも銀太は一切相手にしない。
「さすが、妖怪容赦がない」
「同じ一反木綿でもいろいろあるんだなぁ」
 唯斗とアキラは静かに見守っていた。
「嫌である……我を解放するのだ……せねば……巻き巻きの刑に処すぞ」
 イッタンは負け犬の遠吠えよろしく吠え立てた。
「はいはい。そうだ、俺が捕った魚、こっちに卸したから食べてみてくれ。こいつに気にせず、温泉も楽しんでくれ」
 銀太は適当にイッタンをあしらった後、唯斗とアキラに挨拶をした。
「銀太は楽しまないの?」
「あぁ、俺は魚持って来ただけで温泉の方が騒がしかったから様子を見に来ただけだ。一反木綿とは仲良くしてるから気になってさ。そんじゃ、また」
 訊ねるアキラに銀太はにこやかに答えてから男湯を出て行った。
 残されたイッタンは
「……早く……我を解放するのだ……我は……崇光なるイッタンであるぞ」
 唯斗とアキラに悲しげな声で助けを求めるのだった。
「……」
 唯斗とアキラはろくでもない一反木綿を静かに見守り
「この一反木綿さん、面白いね」
 ヨルギは無邪気に笑っていた。
 この後、一反木綿は今日の営業が終わるまで放置され解放された時にはぐったりとしていた。唯斗とアキラはそれぞれ部屋に戻った。