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イルミンスール大図書室、その深層は!?

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イルミンスール大図書室、その深層は!?

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「ここが、ゴチメイたちが行方不明になったという禁書保管庫ね。まあ、イルミンスールだから、本の中に紛れ込んだと聞いても、そんなものだと思うけれど、まさかほんとに本の中とはね……」
 魔方陣を前にして、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が言いました。
 イルミンスール魔法学校にいたら、また遭難者が出たと騒いでいたので、これは助けなくちゃならないだろうなと思ってやってきたわけですが。
「のりで捜索隊に名乗りをあげたりして、大丈夫なの?」
 いつもの勢いだけで行動してしまったセレンフィリティ・シャーレットに、恋人のセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)はちょっと心配そうです。もちろん、遭難者を助けようという志はりっぱなのですが……。
「大丈夫。あたしに任せておけば、万事解決よ」
 根拠のない自信に満ちあふれて、セレンフィリティ・シャーレットが答えました。
「で、どのページに入ればいいのかしら?」
 いきなり、セレンフィリティ・シャーレットがよいしょっと巨大魔道書のページをめくろうとしました。
「ちょっと、そんなことして大丈夫なの?」
 ページって、何か関係があるのかとセレアナ・ミアキスが少し焦りました。だいたい、勝手にページを変えてしまってもいいものなのでしょうか。
「あれっ? 変よね、この本、ページがめくれないよ。仕方ない、とりあえず、このページに飛び込んでみましょ。行くわよ、えいっ!」
 ページをめくろうとしたのにびくともしないので諦めると、セレンフィリティ・シャーレットがセレアナ・ミアキスの返事も待たずに魔方陣の中へと飛び込んでいきました。
「ちょっと、勝手に先に行かないで!」
 おいて行かれては大変と、セレアナ・ミアキスはあわててセレンフィリティ・シャーレットの後を追いかけていきました。

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「禁書……保管庫……うっ、頭が……」
 ゴチメイたちが遭難した大図書室の秘部はここだ……きゃっ♪ と聞いてやってきたリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)が、そこが禁書保管庫だと知って頭をかかえました。なぜか、思いっきり黒歴史にしたはずのことが、頭をキリキリと締めつけます。
「どうかしたのか。さっさと進まないか」
 リカイン・フェルマータのお尻のあたりにぴったりとひっつきながら、禁書写本 河馬吸虎(きんしょしゃほん・かうますうとら)が偉そうに言いました。またギリギリとリカイン・フェルマータの頭が痛くなります。
「とりあえず、大図書室の深層と言うことになれば、あの噂の大司書もいるはず。マッピングを名目に、その正体を確かめるのよ。さあ、明日香、案内しなさい!」
 ちょっとした野望を心に、リカイン・フェルマータがまたたび 明日風(またたび・あすか)に言いました。
「案内と言われても……」
 どうしろというのかと、またたび明日風がちょっと口籠もります。
「何よ、いつもふらふらしているんだから、秘境には強いはずでしょ。まがりなりにも花妖精を名乗っているんだから、世界樹とお話ぐらいできるはずでしょ。殺したって生きてるんだから、いざというときには盾になれるでしょ。いろいろと憑依されやすい体質なんだから、悪霊が出て来たら人柱にだってなれるでしょ。それからそれから……」
「ちょ、ちょっと、拙者はいったいなんのために……」
「人はあばら屋、人は生け垣、人は水たまり……」
 引きつるまたたび明日風に、リカイン・フェルマータが容赦なく言いました。なんだか、元ネタよりも数段ランクダウンしている気もしますが……。
「さあ、とっとと秘技を教わりに行くわよ。しゃきっと行きなさい。えいっ!」
 そう言って、リカイン・フェルマータはまたたび明日風を魔方陣の中へと突き飛ばしました。

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「図書館の構造なんて、校長か大ババ様に聞けば一発じゃないのか? なんで、あの編集部はいちいち自分で調べてるんだ?」
 ぶつくさと文句を言いながら、アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)が禁書保管庫に入ってきました。
「だいたいさあ、あの月刊誌、本当に売れているのかあ」
 現在、葦原明倫館に籍をおいているアキラ・セイルーンとしては、バイトを引き受けたとは言え、その実用性には懐疑的なようです。
「そうネ。一時間程度でマップがぐちゃぐちゃになる世界樹の地図なんて、作ったって意味があるノカ?」
 アキラ・セイルーンの頭の上に垂れるようにして乗っかったアリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)が同意しました。
「これこれ、仕事として引き受けたのじゃから、真面目にやらぬか。だいたい、何やら新しいエリアが出現したようじゃから、新規に調査するしかなかろう。遭難者は他の者たちに任せて、わしらはマップ制作に専念するのじゃぞ」
 そんなことでは、こちらが遭難してしまうと、ルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)がアキラ・セイルーンとアリス・ドロワーズに釘を刺しました。
 実際には、月刊世界樹内部案内図はイルミンスール魔法学校の購買で結構売れています。まあ、某時刻表のようなものですね。
 現実問題としては、世界樹の内部が一時間ごとに全部変化しているというわけではありませんから、いきなり地図が全て使い物にならなくなるというわけではありません。変化はもの凄くゆっくりと部屋や通路が変形していったり、突然壁が現れたりすると言う感じです。全体的には生活に支障のない程度の変化なわけです。とはいえ、変化のまっただ中に巻き込まれた場合は遭難の危険もありますし、長い目で見たら、目的の部屋に行くまでの経路が変わっていたら迷子になってしまいます。やはり、イルミンスール魔法学校の生徒たちにとっては、案内図は必携品です。
 アキラ・セイルーンの言うように、エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)アーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)であれば、ある程度把握は可能ですが、だからといって、変化した場所をいちいち編集部に報告するなどと言うことはやってられません。それほど暇ではないわけですし、そんな雑用は生徒たちに押しつければいいだけのことです。
「一応、ちゃんとまっぴんぐはするネ」
 仕事はするよと、アリス・ドロワーズが言いました。けれども、アリス・ドロワーズを乗せているアキラ・セイルーンの方は、すでに眠たげです。
「それだけじゃないです。今回は、私が写真を撮ります」
 デジカメを持った、ヨン・ナイフィード(よん・ないふぃーど)が自慢げに言いました。
「月刊世界樹内部案内図がどんな物かは分かりませんが、きっと手書きのイラストなんかしかなくて、分かりにくいのでしょう。だから、写真とかをふんだんに使えば、現実味が増すのです。さあ、取材に出発です」
「んじゃ、行くかあ」
 そう言うと、アキラ・セイルーンは魔方陣に入っていきました。

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「待っててください、ココさん。今ごちそうを持っていきますよー。とうっ!」
 お弁当を詰めた巨大なリュックを背負って、風森巽が魔方陣に頭から飛び込んでいきました。
「元気だなあ。きっと、ココちゃんも、あんな風にノリノリで入っていったんだろうなあ」
 風森巽が魔方陣に飛び込むのを目撃した秋月 葵(あきづき・あおい)が、なんだか凄く納得してうんうんとうなずきました。
「そんなことは、どうでもよい!」
 なぜかドきっぱりと、フォン・ユンツト著 『無銘祭祀書』(ゆんつとちょ・むめいさいししょ)が言い切りました。
「そんなことって……。黒子ちゃんは、迷子になったゴチメイたちが心配じゃないの?」
 ちょっと酷いなあと、秋月葵がフォン・ユンツト著『無銘祭祀書』に聞き返しました。
「何を言っておる、周りにある物が目に入らぬのか?」
 目を好奇心でキラキラと輝かせながら、フォン・ユンツト著『無銘祭祀書』が言いました。
「目に入らぬかって、本だよ。魔道書じゃない」
「そう、魔道書! 禁じられた知識の宝庫が、我が目の前に! これが興奮せずにいられようかあ。はあはあはあ……」
 フォン・ユンツト著『無銘祭祀書』が、興奮しすぎて思わず息を切らします。
「でも、あのおっきな本の先に進まないと……。それに、あれも魔道書かもしれないよ」
「何!? そう言われてみれば、そうではないか。あの中には、さらなる魔道書が……。よし、行くぞ、禁断の知識にダイブじゃあ!」
 今さらながらに気がついたと言う感じのフォン・ユンツト著『無銘祭祀書』が、風森巽と同じように魔方陣の中に飛び込んでいきました。
「ああ、黒子ちゃん、待ってえー」
 秋月葵は、あわててフォン・ユンツト著『無銘祭祀書』の後を追いかけていきました。