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リアクション
山中。
「まずは情報収集からだ」
素材採取のために来たエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)は情報集めとばかりに付近の植物に駆け寄った。
「採取は始まったばかりですからほどほどに……もう情報収集ですか」
植物愛に溢れるエースが繰り広げる展開など周知済みであるエオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)は釘を刺そうとするが、その言葉は予想通り届かずじまい。
エースはひたすら『人の心、草の心』で植物とお喋りを始めた。その間エオリアは周囲の警戒をしながら待機。
しばらくして
「夜に咲く子と人の形をしている子を教えて貰ったよ」
嬉々とした様子のエースが戻って来た。
「では、急ぎましょう」
詳細を聞き終えたエオリアは一刻も早く採取を終えるため急いだ。何せ周囲はエースが愛する植物だらけお喋りだけで夜明けを迎える事になってもおかしくない状況なのだ。
「……気を引き締めなければいけませんね」
エースの補佐として本日同行したエオリアは前を歩く楽しそうな後ろ姿に溜息をついた。
しばらく経過後。
「……この近くで本当に間違いありませんか」
エオリアは周囲を確認するも見えるのは明らかに植物の形をした物ばかり。探しているのは人型に擬態した植物だ。
「間違い無いよ。あんな綺麗な子が嘘をつくはずはないからね」
植物好きのエースは先程の植物から得た情報を信じて疑わない。
「……そうですか」
エースの言い分にエオリアが呆れていた時、泣きじゃくる少女の声が周囲に響いた。
「……僕達の存在に気付いて呼んでいるみたいですね」
エオリアは先程までは聞こえなかった泣き声に明らかな不信感を抱いた。エースが得た情報と完全に一致しているため尚更だ。
「あぁ。行ってみよう」
エースは生き生きとした様子で泣き声を辿って行くのだった。その後ろをエオリアが警戒色強く追った。
辿った先にいたのは、幹に座り込んで泣きじゃくる幼女だった。思わず手を差し伸べたくなるような愛らしさ。
「幹の下に子供の形をした植物、間違いありませんね」
冷静に状況を確認するエオリア。当然、植物からはかなり距離を取っている。
「あぁ。聞いた通りだ。早速……」
エースはお喋りをしたくてうずうず。
「エース、気を付けて下さいよ。食獣植物なのですから」
エオリアは効果は薄いと分かりつつも注意喚起は怠らない。相手はただの植物ではないので。
「分かっているさ。少し話を聞いて素材を分けて貰えるように頼んでみるよ」
エースは軽く流し擬態植物の所へ喜び勇んで行ってしまった。
「……見張っておいた方がいいですね。しかし、警戒を抱き難い幼い姿に擬態するとは上手いやり方です」
エオリアは幼女に擬態した植物に軽く感心してから離れた所からエースの警護を開始した。
擬態植物の前に立つなり
「可愛い花のお嬢さん、少しお話しいいかな?」
エースは視線を同じくするために屈み、敵ではないと示すために笑顔を湛えた。
「……」
植物はエースを視界に入れるもひたすら泣きじゃくる。なぜなら獲物が近付いた時に行う反応であるからだ。
「頭の花、素敵だね」
エースは幼女の頭にある愛らしい花を褒める他、擬態によって生存競争上どう有利になるのかを問いかけた。返事はエオリアのつぶやきと同じであった。それが終わると何やかんやと雑談に夢中になる。
エースのお喋りが始まってしばらくが経過。
「……長い……これは完全に素材採取の事を失念していますね。このまま好きにさせると」
エオリアは溜息を洩らしながら止めに向かった。泣きじゃくる幼女と会話する笑顔の紳士という妙な光景の所へ。
しかし、エースに接近する前にエオリアの足が止まった。
「……あれはまずいですね」
エースの足元から根が静かに顔出し、足に絡み続けている事に気付いたのだ。つまり動きを封じ餌を捕縛する準備が整いつつあるという事。
「エース、離れて下さい」
エオリアは声を上げると同時に『クロスファイア』で地面から伸びる根を燃やし尽くした。
「エオリア、一体……」
ただならぬエオリアの声に反応したエースは思わず立ち上がった。足に絡みついた根には気付いていない。
「無事ですか? エース」
「エオリア、何て事をしたんだ。この子をこんなに傷付けて」
エオリアの安否確認にエースは自分に絡まった根を優しく解きながら怒りで返事した。愛する植物を傷付けられたためだ。
「……もう少し遅れていたら餌になっていましたよ」
エオリアは冷静に切り返す。怒られる事は承知の上でした事なので後悔はしていない。大事なのは自分達の身の安全だから。
「そんな事よりもこの子を何とかしてあげなくちゃ」
エースは『エバーグリーン』で擬態植物の根を成長させ元に戻すという手当を始めた。
その間、エオリアは
「……素材は確か根でしたね」
エースが解き払った根を回収し仕事に励んでいた。
擬態植物は無事に元に戻り、エースは胸を撫で下ろし素材採取に戻った。
次の目的地に向かう道々、『薬学』を有するエースは話しかけた植物の中で素材に成り得る子達に頼んで花や葉などを分けて貰ったりアラウネのような植物に遭遇し予め宿で入手した耳栓を装着したエオリアが素材回収をしたりした。採取した全植物はエースの『エバーグリーン』で元に戻した。エオリアは変わらず警戒のし通しだった。
そして、夜だけ咲く花の群生地に到着した。
一面、ほの白く輝く幻想的な花畑。
「これはなかなかの光景だね」
光輝く花々に感動を洩らすエース。
「話すのはいいですが、一晩中はやめて下さいね」
エオリアは念のためにとエースにお決まりの注意喚起をした。
「分かっているさ」
そう言うなりエースは屈み花とのお喋りを開始した。
まずは
「君達のような優美な花達に会えて幸せだよ」
美しい姿を褒めてから会話は始まる。
褒め終えてから口にしたのは昼間の姿と栄養分についてだった。その答えは、昼間地中に潜り地下から栄養を吸収している事、太陽の下では枯れてしまう事。
「……本当に綺麗ですね」
エオリアは改めて目の前に広がる光景に感動を洩らした。この間も警戒は怠らない。
この後、エースは花に頼んで輝く花弁を数枚貰い、他の植物の採取を続けた。もちろん、採取した部分はきちんと元に戻す事は忘れず。多少時間はかかれど何とか夜明けを迎える事無く採取を終えて宿に戻る事が出来た。
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