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パートナーの飯が不味いんだがもう限界かもしれない

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パートナーの飯が不味いんだがもう限界かもしれない

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■まずは材料と基礎■


 牛肉を選ぶルシェン。
「いつも朝斗に作って貰ってばかりだし、私も朝斗や他の人に食べてもらいたいからね。折角だしビーフシチューを作ってみようかしら……」
 ジャガイモ、人参玉葱とローリエの葉と、ビーフシチューの為の材料を手にしていく。
「誰でも食べられると思うし、嫌いな人はいないと思うから」
 穏やかな笑みのまま、赤ワインで手が止まる。
「そうね、まずはパラミタ大蛇の生き血を――」
 なるほど、考えてみれば、赤ワインよりも蛇の血の方が栄養価は高い。
 しかし、残念な事にここには蛇は準備されていなかった。
 それじゃ、と、取りに行こうと材料を置いて外へ行こうとするルシェンは、それはもちろん皆に止められた。
「お料理は本の通りにやるのが一番の筈ですから!」
 ね、ね、と高峰に必死な顔でしがみつかれて、ルシェンは思い直した。
 それに、狩りに行くにしても時間が掛かる。
「す・すみませんー」
 何故か謝る高峰に、ルシェンは苦笑をもらした。


 美緒達が作る料理を少し遠くから見ていたのは、ミリーネである。
 手伝いに行こうとしても――、 
(あの時の目は、今思い出しても恐ろしい……)
 確かに自分は料理が下手である。自覚もある。
「しかし、美緒殿の手伝いでなければ問題はないはず! 私は私の料理を作ろう!」
 立ち直って、張り切るミリーネ。
 ユリナが美緒に気を取られていたのと、レシピ通りに料理を作っているはずの高峰が、何故か爆音出していたりで、ミリーネの声がユリナに届く事はなかった。
「いつもお世話になっている主殿とユリナ殿、そしてハルカ殿に私の料理を振舞おう! 特訓はしたのだ、腕前は上がっているはずだ!」
 燃えるミリーネ。
 腕は上がっている。上がってはいたが、マイナス方向だ。
 ……竜斗がミリーネの料理に気付いて止めに来た時には、もう遅かった。


 やる気満々で材料を選ぶ芦原。
(えっと……お手伝いってお料理じゃない……ていうか、のはずがないと思うです……)
 美緒の料理の手伝いを頼まれたような気がするのだが、荀の目の前では芦原の背が楽しそうに揺れている。
 お姉ちゃんが料理を作るワケではないんじゃないかと、言うかどうか悩んでいる間に、芦原は包丁を持って料理し始めている。
(どうしよう……お姉ちゃんと料理の組み合わせなんて、ジョーカーじゃないですか!! いけないです!)
 芦原の料理は見た目はまともだが、味は壊滅的なのだ。兵器認定された事もある。悪魔の料理人とも言われる。
 以前に、食べたら気を失った事もある。舌の上に乗せた直後意識がブラックアウト。
 困惑と恐怖に、荀は立ち尽くした。
 言葉が出ない。楽しそうな芦原を見ると、あうあうと何も言う事が出来ない。
 横を通り過ぎていく料理。
 ビリリリッと、雷が落ちたような衝撃が走る。
(何? 今の料理……。いや、本当に料理だったのかな……)
 料理に何も仕込んでいなければ、見た目だけで鳥肌が立つような料理なのだ。
 皿に乗っていなければ、料理とは思わなかっただろう。
(もしかして見た目はまともなだけお姉ちゃんの方がましなのかな? そんなことないか……結果一緒ですし)


 会場で皆が談話している中、シリウスは落ち着かなさ気に椅子に座ってた。
「相棒は待ってろっていうけどさー…上げかけた腰が落ち着かないんだよなぁ。……ちょっと覗き見るくらいいいよな?」
「堂々と見に行ってもいいと思いますよ」
 桜葉 香奈(さくらば・かな)は、くすりと笑った。
「行った方が気も楽になるんじゃないか」
 俺達も行こうか、と、桜葉 忍(さくらば・しのぶ)が立ち上がる。
「こっそりと……、いや、一応名目もあって……美緒の料理を見れば、メシマズの原因はわかるかなってさ。本格的な矯正はラナさん次第だけど……」
 ラナを見れば、無限と一緒に逃げようとしては、他のメンバーに捕まって――を繰り返している。
 美緒のパートナーのラナがしっかりしてないと、多分きっと半永久的に美緒の料理下手は直らないんじゃないだろうか。
 ずーっと一緒にいるワケでもない他のメンバーだと、時間が掛けられない分、難しい。
 ……あの様子だと、あんまり期待できない気がする。
 ラナの様子は見なかった事にして、三人は厨房へと向かった。