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進撃の兄タロウ

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進撃の兄タロウ

リアクション

 後日。
 爆弾事件で迷惑を被った仲間の契約者達は、プラヴダ基地の中のとある一室を訪れていた。
 8畳程の布ばりの床の部屋に、お人形遊びの道具のような小さな家具が並んでいる。
 その部屋の中央にあるバスケットの中で、兄タロウがにんぎょちゃんと手を繋いですやすや寝息を立てていた。
「ちっちゃいお兄ちゃんとお姉ちゃん、とっても可愛い!」
「もふもふー!」
 ティエンとミリアが興奮してそう声を上げると、輝が慌てて人差し指を唇に当てる。
 そんな風に皆が頬を緩ませて二匹を見守る中、ノーンが沁み沁みと呟いた。
「……獣でさえリア充なのにかつみときたら」
 その一言に、かつみの背中に斜が掛かった。
「――かつみさんまた凹んでる」
(リア充ってなんだろう……?)首を捻るナオだったが、腕をひかれてそちらを見ると、ミリツァが端末の画面を示していた。
 彼女も言葉の意味が分かっていなかったようで、何時ものようにわからない言葉を辞書でひいていたのだ。
「『リア充とは、現実の生活が充実している人物のこと』
 ……主に恋人が居る人の事を言うようね」
「ああ。かつみさんには恋人が居ないから、凹んでいるんですね」
「じゃあかつみは、この『非リア充』という中に入るのだわ」
「それかこっちの『ソロ充』の方かも……」
「違いが良く分からないわ。どちらにしろ生活が充実していないという事に変わりないみたいだけれど」
「そうですね。どっちも恋人が居ないって意味みたいですし」
 悪意の無い二人の言葉の刃でかつみがオーバーキルを受けていた頃、部屋の隅に立っていたアレクが今回の経緯をかいつまんで説明した。
 元々兄タロウを作った研究者はアレクの知り合いだったようで、殺処分が決定した際にエリートコースを行き様々な人物にコネを持つアレクを巻き込む事で、自らの作品を救おうと考えたらしい。
「そんな奴だからな。上に知られないでもう一匹作って貰うくらい訳無いんだ。そうでなきゃジゼルのデータなんて危なくて渡せない」
「お兄ちゃん、データって何? どうやってにんぎょちゃんを作って貰ったの?」
 腕を引くジゼルに、アレクは微笑むだけだ。
「ついでに、ちっちゃい陣も作ってもらえないかしら」
「まあ……無理じゃないぞ。ユピリアなら材料も手に入れられるだろ」
「材料? どんな!?」
 ユピリアが目を輝かせるのに、陣が遠くで謎の寒気に背筋を凍らせている。
 そんな折、兄タロウとにんぎょちゃんを見守る輪の中から、真がこちらへ端末を片手にやってきた。
「アレクさん、あにたろうさんの写真撮ってもいいかな?
 友達に見せたいんだ」
「ああ、何枚でも」
 真がにこにこ笑いながら二匹をカメラに収めていると、隣にアレクが立ち言った。
「他のも撮るか?」と。
 『他』とは何の事だろう。
 皆揃って首を傾げる中、アレクは部屋の奥にある扉を開く。
 地続きの部屋の中では、十数匹のK.O.H.が噛み付き引っ掻き争いながらヒマワリの種を奪い合っていた。
 何れもスヴェトラーナそっくりの容姿に、どのようにしてこれらが誕生したのか、質問せずとも分かってしまう。
 そう。
 鼠は、鼠算式に増えるのだ。
 その事実を思い出した仲間達が言葉を失う中、目を覚ました兄タロウがてててっとやってきて、アレクの腕に登っていった。
「おはようあれく。
 おれのむすめたちは、きょうもみんな、げんきでかわいいな」
「ああ。俺の娘そっくりだ。
 『ちょっと』やんちゃなところもな」
「そうだな!」
 そうして同じような顔で笑い出す一人と一匹のケラケラした声を聞きながら、仲間達はがくりと肩を落としたという……。



 おしまい。

担当マスターより

▼担当マスター

東安曇

▼マスターコメント

シナリオへの参加頂いた皆様、ここまで読んで下さった皆様、有り難う御座いました。

※なおこのシナリオでリア充は爆発致しません。