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特別なレシピで作製された魔法薬

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特別なレシピで作製された魔法薬

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事件解決後の様子


 公共機関の一室。

「……あれを……あそこで加え加熱すれば威力は上がるが、効能が落ちる」
 椅子に座る黒亜はぶつぶとつぶやいていた。その内容は彼女がこよなく愛する調薬だ。連行された黒亜は調薬を取り上げられたが彼女の調薬の腕などもあって命は奪われずこの一室に軟禁状態となった。陽一の証言があってもそれは変わらなかった。
「……しかし……即効性を優先すると……」
 最初は調薬出来ぬ事に絶望していたが、すぐに順応し脳内で調薬を楽しみ始めた。この様子を見る度に機関の者は彼女を野に放つのは危険だと気を引き締めるという。
 時折
「……君は相変わらずだね。会長として監督不行届が君をここに入れてしまった。申し訳なかったね」
 彼女の末路に多少の責任を感じるシンリや
「……両調薬会が設立した時にあなたを止めておけば、騒ぎもあなたも……」
 彼女と関わった過去に何も出来なかったヨシノが面会に来る。もちろん他の者達も。ただ調薬探求会の面会だけは厳重な監視がしかれるが。
 それ以外は
「……精度を上げるとしたら……」
 一日中、調薬を頭の中で繰り返すばかり。環境が変わっただけで彼女自身は何も変わらなかった。

 一方、イルミンスールのミモラ。
「それで私に何の用だ?」
 ミモラは紙に何やら調薬関連の事を記しながら来客を迎えた。
 黒亜より比較的騒ぎに危険性が無かったためとシリウスの便宜によって調薬は許されていた。唯一の禁止事項はイルミンスールから出る事。なぜなら何をしでかすか分からぬ魔法中毒者という事だからだ。とはいえ、何をするにも常に監視は付き、人に会うには校長の許可がいるがそれ以外は一般人と変わらぬ生活。
「……色々話したい事があってな」
「元気そうですわね」
 客人として現れたのはシリウスとリーブラだった。
「……おかげさまで」
 ミモラは素っ気なく答えるも作業の手は止まらない。
「……お前が昔住んでいた場所がどうなっているか知っているか?」
「あぁ、ここで生活をする事になってすぐに知った」
 シリウスの問い掛けにミモラは変わらず素っ気なく答えた。
「そうか。悪かったな、お前の住んでいた場所を失わせて」
 シリウスは申し訳なさそうに謝った。取り壊し予定はシリウスのせいではないが言わずにはいれなかった。情に厚いから。
「あんた達が謝っても何も意味は無い」
 顔を向ける事無く悲しみや怒りのないただの事実を述べるミモラ。
「そりゃ、分かっているが謝りたかったんだ」
 シリウスは感傷を見せないミモラの言葉に苦笑した。
「成り行きであなたの記憶を見ました。研究所で名も無き旅団と楽しく語らう幸せな記憶を」
 次はリーブラがミモラの記憶を話題にした。
「……あぁ、何とかの旅団にいたクリスとかいう奴か。随分昔の事で忘れていた。ここで生活する前に散々聞かれてようやく思い出した」
 ミモラは少しだけ手を止めるもすぐに動かし、エリザベート達に追求された事を思い出していた。
 その時、
「顔を見たくて来ました」
 クナイが現れた。隣には北都もいた。
「……新たな客人達か」
 ミモラは作業をしながら対応する。
「やっぱり、ここが懐かしくて調薬の場所に選んだのかな?」
 北都の質問に
「……さぁな」
 素っ気なく答えるも心無しか懐かしむ様子がちらりと見えた。
 この後、他愛もない雑談をした後、客人達は帰った。

 イルミンスール魔法学校、校長室。

「まさかこんな時が来るとはね」
「それは私の言葉です」
 調薬探求会のシンリと調薬友愛会のヨシノが向き合う形で座っていた。
 そんな二人を見守るようにエリザベート達が立ち、ヨシノの横にはマリナレーゼ達、シンリの横にはグラキエス達がいた。
「先の騒ぎを教訓として今後、緊急時は速やかにあらゆる面において協力をし解決にのぞむ事、その際は互いの不利益になるような事はしない、これでいいかのう」
 代表としてアーデルハイトが条約内容を読み上げた。本日、先の騒ぎをきっかけとして緊急時の対応について条約を結ぶ事となった。事件解決後すぐにマリナレーゼが『根回し』で調薬探求会にヨシノに提案した一組織二部門の案を持ちかけたのだ。両調薬会とも即答ではなかったが仲間との検討の末、緊急時だけならと了承したのだ。
「本当は人道に関する事を入れるべきですが」
 ヨシノは向かいのシンリをにらみ付けた。
「……それは勘弁して貰いたいね。緊急時のみと聞いたから他のみんなも賛同したんだ。こちらのする事にもの申すようであれば、破棄するよ」
 シンリは穏やかな笑みを浮かべながらさらりと対応する。
「……それなら」
 ヨシノがさらに言葉を重ねようとした時、
「ヨシノちゃんもシンちゃんも落ち着くさね」
 マリナレーゼが間に入り、場を収めた。
「これは緊急時のみという事なら平時はこれまでと変わらないという事か?」
 グラキエスが条約の内容について訊ねた。調薬探求会の扱う素材や魔法薬に価値を見出す者としては気になる所。
「そういう事になるさ」
 マリナレーゼはこくりとうなずいた。
「そうしてくれないと……全て共有となれば困るからね。こちらの調薬の情報が伝わるというのは。調薬の情報は調薬を嗜む者として大切な物だから」
 シンリは肩をすくめながら答えた。調薬友愛会以上に調薬に誇りを持つ者が多いのが調薬探求会なのだ。
「とにかく、二人共署名を頼むさ」
 マリナレーゼが署名を促し、
「条約の効力は無期限。破った際は、臨機応変に対応じゃ」
 アーデルハイトが条約に記載されている重要な項目を読み上げた。
「分かりました」
「分かったよ」
 ヨシノとシンリは大人しく署名した。
 これにて両調薬会の緊急時の協力条約は締結された。
「これで少しだけ仲良くなりましたね。マリナさん」
 フレンディスは和解に一歩近付いた事が嬉しくてマリナレーゼに声をかけた。
「そうさね(今は緊急時のみ一組織二部門だけど、おいおい全て合併してその相談役になれたらいいさね。とはいえそれは無理そうさね)」
 マリナレーゼはうなずきながらも胸中では現在はこれが限界だろうと思っていた。何せヨシノとシンリの調薬に対する考え方が違い、歩み寄る気配が無いから。
「まさか緊急時の協力条約とはな」
「しかし、それ以外は何も変わらないそうなので安心しました」
 ウルディカとロアは自分達の思惑に影響が少ない形で終わった事に安堵していた。

 とにもかくにも調薬友愛会と調薬探求会は少しだけ近付いた。

担当マスターより

▼担当マスター

夜月天音

▼マスターコメント

 参加者の皆様お疲れ様でした。そしてありがとうございました。
 皆様のおかげでイルミンスールも妖怪の山も救われました。これにて特別なレシピを巡る一連の騒ぎは解決となります。
 犯人である黒亜と魔法中毒者は今後騒ぎが起こせない形となり、今回の騒ぎをきっかけに両調薬会は妥協として緊急時のみ協力する条約を結ぶ運びとなりました。これも尽力して下さりました皆様のおかげです。ただ、騒ぎの元となりました特別なレシピこと、記憶素材化魔法薬の改良を調薬探求会が考えたり魔法中毒者が名も無き旅団の一人を知っていたりとどうなる事やらが残っていますが、長くかかりました特別なレシピを巡る事件を無事に解決となりましたのは、皆様のおかげです。ここまでお付き合い頂きありがとうございました。