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ゾンビの館! 救出を求む調査隊

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ゾンビの館! 救出を求む調査隊

リアクション

 第 8 章

「ハデス様〜〜〜、ハデス様良かったです〜〜〜!」
 洋館の外で待機していた教導団の救護隊と、ルカルカ達が研究者達を逮捕した部屋で確保したデータの中にゾンビ化した人間を戻す方法がかろうじて残されており、それを元に作られた薬でハデスはゾンビから人間へと戻る事が出来た。泣きじゃくるアルテミスにハデスも記憶が追い付かず、ゾンビに襲われてからの出来事が曖昧なため自分の身に何が起きたかは良くわかっていなかったのである。
「ふむ? まあ、この洋館はアジトとしては使えんな。あんなものがうろついているとは知らなかった」
(……俺が投げ飛ばした事も覚えていないなら、黙っておこう。その方が平和です……うん)
 1人、ハデスの反応に色々と黙っている事にした唯斗でした。
「よし、ここのゾンビも一応役に立ったわね。今度はパワーを上げる為に柔いモンスターじゃなくて、もっと堅いヤツを実験台にしましょ!」
「……透乃ちゃんが殴って原型を留めていられる相手がいいですね」
 こっそり透乃へ要求じみた独り言を洩らす陽子だが、それもまた難しそうだという事を彼女自身が良くわかっていた。
 遅れて洋館から出てきた朱鷺は、何やら大きな布袋を持っている。もぞもぞと動いているからには生きている「何か」――彼女の姿を目に留めた唯斗は思わず見なかった振りをしてしまった。何より、朱鷺の機嫌がすこぶる良さそうに見えたからである。
「あの様子だと見つけたんですね……頑丈なゾンビ(ペット)」
 朱鷺が何を見つけたのか―――どうやってペットにするのかしたのかと思考を巡らしてみるも、知らない方がいいかもしれないという結論に達した彼でした。

 捕縛した研究者達を護送したルカルカと淵、セレンフィリティ、セレアナ、鉄心、ティーとイコナは調査団と一緒に雑談に耽るイーシャンとシルヴァニーへ視線を向ける。淵の手には1つのディスクが握られていた――。


 ◇   ◇   ◇


 金 鋭峰(じん・るいふぉん)の執務室では捕縛した研究員は首謀者の直属、またはその下にいる者達で研究成功の暁にはバイオハザードのデータを譲り受ける事を条件に共同研究に携わっていた者達であった。
「理解に苦しむところだ……そのような研究のデータを交換条件に協力するなどとな」
「それが研究者というものなのかもしれません、団長。以前、青の書……彼を誘拐した者もおそらく同じ思考の人種ではないかと」
 溜息を洩らす鋭峰にルカルカも遠慮がちに進言してみる。だが、彼女に装備された2本の霊刀を見ると鋭峰の表情も僅かに険しさが和らいだ。
「その霊刀は……役に立ったようだな」
「はい、とても」
 報告は終えたが、淵は持ち帰ったディスクを鋭峰に渡した。首謀者と刹那達には逃げられてしまったものの、その後研究室を調べて【サイコメトリ】で得た情報をディスク化したものである。
「首謀者とイーシャン、シルヴァニー……彼らには何らかの繋がりがあるみたいなのだ」
 淵の言葉に黙ってディスクを受け取った鋭峰は、ただ一言「ご苦労だった」と告げて調査と救助に参加した団員達を労うのでした。


「さあ! 命名タイムだよ♪」
 待機していた魔道書2人がいる部屋へルカルカが努めて明るく言いながら戻ってきた。イーシャンとシルヴァニーをぎゅっと抱きしめると慌てふためく2人に笑ってしまう。
「命名って……?」
「シルヴァニー、この間言ってたじゃないか。「イーシャンだけ『ロート』って名前もらってズルい、俺も欲しい!」って……」
 カルが笑いながらその時を再現するように、シルヴァニーの物真似をするとティーとイコナが似てる似てるとつられて笑ってしまう。
「と、いうわけで考えてきたのよ。『ブラウ』っていうの、どうかな?」
「ブラウ、か……いいじゃん、気に入った! ありがとな、ルカルカ!」
「ふう、これで私も毎日煩く言われずに済みます……ありがとう、ルカルカ」
 ご機嫌なシルヴァニーと肩の力を抜くイーシャンの姿に、刹那達が護衛していた研究者の事を告げられないまま、事件は首謀者逃亡の結末で終結したのでした。


 ◇   ◇   ◇


 洋館から程近い小さな町に辿り着いていた刹那達と研究者は、そこで護衛の契約を一旦解除する事となった。
「このデータは君にあげるよファンドラ君。遺伝子操作など結局研究の通り道でしかないのでね」
 研究者からデータを受け取ったファンドラは満足気に笑みを深める。
「――これから、どうするのじゃ? 依頼主には教導団の追手がかかると思うのじゃが」
「そうですね、じゃあ……顔や声を変えておきましょうかね。彼ら相手にどれだけ通用するか解りませんが―――刹那さん、あなたが知りたい事は、それだけですか?」
 見透かしたように目を細める研究者に僅かな居心地の悪さを感じた刹那であったが、訊ねてもいいと言われているような気がした事から思い切って聞いてみた。
「あの双子の魔道書と、依頼主……知らぬ仲ではないと見受けたが……」
「ええ……そうですね。知っていますよ、彼らの事は……それに、私もあなたと同じ地球人です。私からの答えはこんな所ですね、さてお互い追手がかかる身……私も潜伏先を吟味しなくてはならないのでね、縁があればまたお会いする事もあるでしょう――」
 刹那に背を向け、日も暮れた町の薄闇に研究者の姿は溶けこんでいった。

担当マスターより

▼担当マスター

小湊たまご

▼マスターコメント

初めましての皆様、再びお目にかかれた皆様ご参加頂きありがとうございます。
第5作目「ゾンビの館! 救出を求む調査隊」をお目通し頂きありがとうございます。
やはりといいますか、ゾンビの描写が中々出来ず物足りなさを感じたかもしれません。その点は大変申し訳ありませんでした。
また、今回は悪役でご登場頂いたPC様方にイニシアティブを置いた傾向となっております。首謀者逃亡成功という結末については、私自身執筆しながら悩んでしまった点ですが次回への布石が必要か否かと考えた結果、布石の設置を決めたためです。

首謀者の人物像については、次回明らかになる予定です。見当が付いている方もいらっしゃるかもしれませんね。
再び、皆様にお会い出来る事を願っております。

春めいてきましたが、季節の変わり目であり花粉症に悩まされる時期でもあります。皆様も健康にはお気をつけて過ごしてください。