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リアクション
「これが未来への自分に宛てて書く手紙。この便箋に未来体験薬という物が染み込んでいるそうだけど」
松本 恵(まつもと・めぐむ)に連れて来られた高天原 卑弥呼(たかまがはら・ひみこ)は便箋を手に取っていた。
「そうみたいだね。みんな書いているみたいだよ。そういや卑弥呼は未来から来たんだったね。確か怨殺寺院に殺されたお兄さんを助けるため、だったね」
恵は熱心に手紙書きをする参加者達を見回してから卑弥呼に話題を向けた。
「はい。お兄さんの運命を変えるために……」
卑弥呼は便箋から顔を上げ、恵にうなずいた。未来人卑弥呼は鏖殺寺院の手に掛かり命を落とした兄の運命を変えるべくタイムトラベルをしてきたのだ。しかし、平行する自分の世界での兄は普通に科学者を目指していたが、こちらでは世界征服を企む自称悪の天才科学者になっていたり。
「卑弥呼、良かったら君のお兄さんを守り切った未来に手紙を書いてみたら?」
恵は卑弥呼に書くように勧めてみる。実はこれが目的で卑弥呼を連れて来たのだ。
「お兄さんを守り切った未来……」
卑弥呼は再び便箋とにらめっこをする。
「でも目の前で八つ裂きにされるのを見た私にはお兄さんを守り切った未来を想像する事は難しいわ。一番に頭に浮かぶのは変えるべき未来だもの」
卑弥呼はそっと掛けている兄の遺品である眼鏡に触れて思い出していた。あまりにも恐ろしい瞬間、少し前まで科学者を目指していた兄が命を失い死者となる瞬間を。それを止める事が出来きなかった自分。
「それならこの便箋の特性を使ったらどうかな? それだけじゃなくて、想像する未来がここで迎える姿でなくて卑弥呼の世界で迎える未来だとしても卑弥呼にとって何か意味があるかもしれないよ」
恵は卑弥呼を励まそうと優しい笑みを浮かべ手紙の特性の利用を提案した。ただ、卑弥呼が望む未来はこの世界で迎える事は出来ないと分かりながらも。
「そうね……書いてみるわ。5年後の私に。お兄さんの運命を変えて……何とかして自分の世界に戻っている自分の姿を」
卑弥呼はこくりとうなずき、運命の改変が成功し、兄は生きて兄の命を奪った怨殺寺院は壊滅する未来を想像し、便箋に染み込ませた匂いから助力を得てさらに想像を鮮やかにしながら書き始めた。
その間
「……明るい未来を想像しているといいな」
恵は静かに卑弥呼を見守っていた。
そんな恵の元に
「お菓子とお茶はどうですか?」
参加者にお菓子や茶を振る舞って回る参加者の一人に声をかけに来た。
「ありがとう」
礼を言って恵は受け取り、茶を飲みお菓子を楽しみながらゆっくりと卑弥呼を待つ事にした。
■■■
5年後、科学者を目指す青年が研究に没頭する場所。
「……お兄さん、少し息抜きをしたらどう?」
卑弥呼は科学者を目指す兄の息抜きのためにお茶やお菓子を手に現れた。
その卑弥呼の視線の先にはよく知る兄がいた。
兄は研究で手が離せないため適当に置いておくように言った。
「分かったわ」
卑弥呼は邪魔しないように近くの台に置き用事を終えたにも関わらずこの場を立ち去る事はせず研究をしている兄の姿を静かに眺めていた。
「…………(お兄さんは生きてる。そして怨殺寺院は壊滅してる)」
卑弥呼は見守りながらこれまでの事を振り返っていた。
「…………(運命を変える事は簡単ではなかったし、この世界に戻る方法を探し出すのも大変だったけど。それでも何とか)」
怨殺寺院に兄の命を目の前で奪われ、その運命を変えるためにタイムトラベルをして時間は掛かれど無事に運命を変える事に成功し、さらに自分の出身である平行世界に戻る方法を探るにもさらに時間が掛かったが何とか無事に帰還を果たせた。
「…………(向こうの人達のおかげで目的を果たしてこうして無事に戻る事が出来た)」
卑弥呼はタイムトラベルで行った世界の人々の事を思い出し、感慨に耽った。多くの協力を得て卑弥呼は自分の力で未来を取り戻したのだ。
そして、
「お兄さん、頑張るのはいいけど、無理はしないでね」
卑弥呼は笑顔で研究に没頭する兄の背中に言ってから邪魔をしないように退散した。
兄は遅くなるも妹の気遣いの言葉が届いたのか去る卑弥呼の背中に視線を向けていた。
■■■
想像から帰還後。
「……」
現実に帰還した卑弥呼はじっと想像の世界に迷い込みつつ書いた手紙を静かに見ていた。
「卑弥呼、明るい未来を想像出来たみたいだね。そんな表情をしていたから」
恵が笑みを浮かべながら訊ねた。想像中の卑弥呼の顔は明るかった事から恵は大方の予想をしていた。
「えぇ、明るい未来を想像出来たわ。私が求めてる未来を」
恵の声に気付いた卑弥呼は便箋から恵の方に顔を向け、報告した。
「それなら良かった。お菓子でもどう?」
恵は嬉しそうに笑み、残っているお菓子を卑弥呼に勧めた。
「ありがとう。あとは……」
卑弥呼は礼を言ってからシフォンケーキを貰い
「想像ではなく本当にするだけ……」
決意めいた事を洩らし食べた。
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