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リアクション
「未来体験薬かぁ。想像して便箋の匂いを嗅いだら鮮やかになるんだね」
ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)はじぃと便箋を見つめていつの未来を想像するのかを思案していた。
その結果
「それなら5年後にしよう!」
御神楽夫妻の愛娘が幼稚園生になっているだろう年数に決めた。
「5年後ってどんな感じだろ? 楽しみだね!」
ノーンは幸せな光景を想像し、優しい匂いを楽しんだ。
■■■
5年後、ツァンダ。
「おにーちゃん、環菜おねーちゃん、楽しみだねー、陽菜(ひな)ちゃんの参観日」
ノーンは御神楽 陽太(みかぐら・ようた)と御神楽 環菜(みかぐら・かんな)と一緒に5歳になった陽菜が通うあおぞら幼稚園の参観日に向かう途中であった。ちなみに陽菜はあおぞら幼稚園卒園後は蒼空学園に入学予定でもある。
「あの子、大丈夫かしら。幼稚園では先生の言う事を聞いて真面目にしていると言うけど」
「俺達と一緒の時は甘えんぼさんですからね」
陽太と環菜は娘の事が心配な様子。
「おにーちゃん、環菜おねーちゃん、早く行って陽菜ちゃんを応援しよう!」
ノーンはにっこり笑うなり御神楽夫妻を抜いて駆け出した。
「ノーン!」
御神楽夫妻はノーンを追いかけた。
あおぞら幼稚園。
ノーンと御神楽夫妻が到着した時、すでに他の園児達の親も来ており、教室の後ろに立っていた。
「あっ」
陽菜は廊下側の窓から両親とノーンが来た事を知り、行儀良く座って前を向いていたのが、家族を目で追い、最後は後ろを向いていた。ちなみに髪型はセミロングで環菜に似て美人さんである。ただ、ノーンの想像なので陽菜に契約者の相手や超小型結界装置付きのアクセサリーの有無は不明である。
「陽菜」
「頑張って下さいね」
愛娘に笑いかける環菜と陽太。
「陽菜ちゃん、頑張って」
ノーンもしっかりエールを送る。
「うん!」
陽菜は嬉しそうに力強くうなずいていた。
丁度、その時
「はい、みんな後ろが気になるのは分かるけど前を向いて」
ナコが現れ、手を叩いて見学する家族にそわそわする子供達の注意を自分に向けた。
「今日は参観日でみんなのお家の方が来られているから頑張った姿を見せようね」
ナコは笑顔で園児達に言った。昔のように焦る様子は無くしっかりと幼稚園の先生をしていた。
「まずは好きなものの絵を描きましょう。クレヨンを用意して」
ナコは画用紙を園児達に配りながら書く道具の準備を指示した。
道具を用意する園児達。クレヨンを出す時に落として中身をばらまく子や突然他の子と喧嘩をする子もいたり。ナコや子供達が手伝いをしていた。
その様子を見て
「大丈夫かしら」
「怪我をしたりしないでしょうか」
御神楽夫妻は娘がやんちゃな他の子に怪我をさせられないか余所事をしないかとハラハラドキドキしている。
「おにーちゃんと環菜おねーちゃん、大丈夫だよ」
ノーンは御神楽夫妻を陽気に応援する。
「ノーン、ありがとう」
「環菜、あの子、お友達を手伝っていますよ」
環菜は励ますノーンに礼を言う中、陽太が陽菜がクレヨンをばらまいて泣いている子供を慰めクレヨンを拾っていた。
「本当ね」
「さすが俺達の娘です」
御神楽夫妻は陽菜の挙動に一喜一憂。
絵を描き始めるとまたまたトラブルが起きる。騒がしい子や落ち着きのない子もいてナコは奮闘ばかり。
「赤が無いよぉ」
使いたい色が紛失している事に気付き泣き始める少女。
「使っていいよ。赤色使わないから」
陽菜がそっと自分のクレヨンを差し出した。利発な彼女は相手が借り易いように一言言葉を添えた。
「ありがとう、陽菜ちゃん」
少女は涙を拭いて陽菜からクレヨンを借りて絵を描いた。
「どういたしまして」
にっこりとお礼を言い、陽菜はお絵かきを始めた。真面目で結構意思が強い性格のため絵を描くという何でも無い作業にも余所事をせず落ち着いて取り組んでいた。
そして
「……出来た」
陽菜は出来上がった絵を後ろにいる両親に見せた。なぜなら陽菜が描いたのは両親だったから。
御神楽夫妻は邪魔にならぬように笑顔で陽菜に答えた。
陽菜が前を向いてから
「嬉しいわね」
「そうですね」
自分達を描いてくれた事に御神楽夫妻は大層喜んでいた。
「良かったねー」
ノーンも嬉しそうであった。
絵が終わるとナコがオルガンを弾いて子供達と一緒に童謡を歌い始めた。
「しっかり歌ってるわね」
「上手ですね」
御神楽夫妻は歌う娘の姿を目に映し、耳を澄まして多くの園児の歌声の中から我が子の声だけをしっかり聞き入れていた。
「みんな上手!」
ノーンは手を叩いて応援していた。
この後、あれこれと時間は進み、参加日もあっという間に終わった。
幼稚園を出る前。
「陽菜ちゃん、今日はありがとう。先生とっても助かったよ」
ナコは色々と手伝ってくれた陽菜を褒めた。
「はい!」
陽菜は嬉しそうに返事をしてから両親と手を繋いで幼稚園を出て行った。
ノーンはニコニコと見守っていた。
参観日の帰り道。
「どうだった? ちゃんと見てた。一番上手に絵描けてたでしょ」
両親と手を繋ぐ陽菜は大好きな顔を見上げて褒めて貰おうとする。両親にたっぷりと愛情を注がれてるため両親に対しては甘えんぼさんなのだ。
「えぇ、陽菜が一番上手だったわ。自慢高々よ」
環菜は少し大仰に陽菜を褒める。
「うん。歌は?」
母親に褒められて嬉しい顔をしたかと思ったら父親に顔を向けておねだり。
「歌も一番上手でしたよ。パパ、びっくりしました」
陽太も環菜と同じく少々大仰に褒める。夫婦共々娘が可愛くて仕方が無いといった感じだ。
「だって、パパとママの子供だもん!」
陽菜は最高の笑顔で両親に笑いかけた。陽菜もまた両親が誰よりも大好きなのだ。
「……幸せだねー」
笑みをこぼすノーンは三人から一歩後ろを歩きあたたかな家族の姿を微笑ましく見守っていた。
「ずっとずっと続くといいなー」
いつまでも目の前で繰り広げられている幸せが続きますようにとノーンは願った。
親子はしっかりと手を繋いだまま、あれこれとお喋りをしながら自宅への帰途についた。
■■■
想像から帰還後。
「書けた。陽菜ちゃんも大きくなっておにーちゃんも環菜おねーちゃんも幸せそうだった。わたしも頑張らなきゃ、想像した幸せな未来になるように」
ノーンは手紙に脱字誤字が無いか確認してから無事に手紙書きを終了にし、想像した未来が現実になるように尽力するぞと決意した。
ノーンの手紙の内容は
『5年後のわたしへ
5年後だと、陽菜ちゃんもあおぞら幼稚園に通って、おにーちゃんと環菜おねーちゃんも嬉しそうだよね、きっと。今と同じでおねーちゃんや舞花ちゃんも一緒に、みんなで楽しく過ごせてたら嬉しいな!
そうなるように、今のわたしもいろいろ頑張ってみるつもりだよ!』
という未来の自分を励ます物であった。
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