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第四回葦原明倫館御前試合

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第四回葦原明倫館御前試合

リアクション

○第四試合
リンゼイ・アリス 対 夏侯 淵

「リン! 久し振り!」
 試合開始前、控室にやってきたのはセルマ・アリス(せるま・ありす)だった。
「セル……いつ来たのです?」
「一試合目の前からいたよ。声かけようかと思ったけど、緊張させたらよくないかなと思って」
「緊張などするわけないじゃありませんか。それより、応援ということは試合には出ないのですね。相変わらず、腑抜けていますね」
「腑抜け……いやだって、俺もう、明倫館の生徒じゃないし」
「それを言うなら、私もですよ。それに一般参加者も何人かいます。……まあいいです、それでこそセルなのでしょう。分かりました。ちゃんと応援してくださいね」
 相変わらずの毒舌に、セルマは一気に凹んだ。が、くるりと背を向けたリンゼイに、慌てて、
「待って! これ!」
と、「ドラゴンティアーズ」を渡した。
「お守り」
「……」
「特に効果はないけど、まあ、あったら武器として取り上げられるかもしれないし。だからこそ、ただのお守りってことで」
 リンゼイは黙ってそれを受け取った。束の間迷い、懐に入れる。
「……セルらしいですね」
「え?」
 小さく、呟くような言葉は、セルマにはよく聞こえなかった。
「今、何て?」
「別に。ちゃんと応援してくださいね」
「もちろん!――あれ?」
 再び背を向けたリンゼイが、その瞬間、微笑んだような気がして――セルマは目を瞬かせた。
「気のせい、だよな?」
 いつも笑顔のリンゼイが、更に笑うなんて。セルマは、首を傾げながら観客席へ向かった。

 試合は、木刀対弓という、明らかにリンゼイに不利なものだった。
 初手こそ、飛んできた矢を弾き返したものの、淵はリンゼイが間合いを詰める度に同じだけ離れる。これでは、攻撃の仕様がない。ままよとばかりに、リンゼイは淵目掛けて駆けだした。
 淵はにやりとした。自分の間合いを確実に保ったまま、矢を放つ。リンゼイは切り捨てるが、淵は全く動じず、立て続けに矢を番えた。
 その内の二本が肩と腰に当たり、プラチナムが淵の勝利を告げる。
 リンゼイは試合場の真ん中で嘆息した。何も出来なかったことが悔しくてならない。ふと、懐が熱くなっている気がした。「ドラゴンティアーズ」が入れてある辺りだ。何の効果もない宝石だ。気のせいなのは間違いない。それでも、ふと気持ちが安らいだ。
 目の前に立つ淵に右手を差し出し、微笑みを浮かべたままリンゼイは言った。
「まだまだ未熟だったようです……。次も頑張って下さい」
 おう、と淵も笑って応えた。
 観客席のセルマが、泣きそうな顔をしてこちらを見ていた。大丈夫ですよ、と言ってやろうか、それとも、もっと別の……。

勝者:夏侯 淵


   審判:紫月 唯斗
○第五試合
セリス・ファーランド 対 正義の騎士セレーネ

「次の試合は【アワビ養殖場勤務】――何じゃこりゃ――セリス・ファーランド対【正義の騎士】セレーネだああ!」
「ほう、正義の騎士か。なかなか楽しみだな」
 ――前言を撤回する。ドクター・ハデス以外にもセレーネの正体に気付かぬ者がいた。
「正義の騎士セレーネ、参ります!」
 二人は同時に地面を蹴った。セリスの木刀とセレーネの大剣が、二度、三度と打ち合う。
 実力が拮抗しているようで、なかなか決着がつかず、二人は睨み合った。
「どうした二人とも!? ファイッ! ファイッ!!」
 唯斗が戦うよう指示するが、ぴくりとも動かない。先に動いた方が負けとでも思っているようだ。
 そうして、遂に時間切れとなった。

引き分け


○第六試合
ペルセポネ・エレウシス 対 エメリヤン・ロッソー

「フハハハ! 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクターハデス! くくく、今回の御前試合こそ、我らオリュンポスが制し、葦原を支配してくれよう!」
 毎度おなじみドクター・ハデスの名乗りに、観客席からぱらぱらと拍手が起きた。住民もすっかり慣れっこになってしまったらしく、
「いよっ、待ってました!」
「もっとやれっ。いいぞっ」
など応援の声がかかる。ハデスはそれを聞いていたく満足だった。
「ふふふ。葦原における我らオリュンポスの知名度も高まった。後は実行あるのみ! さあ、我がオリュンポスの秘密兵器、ペルセポネよ、行くがよい!」
 しかしながら、一試合目でパワードスーツをボッシュされてしまった、ペルセポネは、今や完全にただの女の子である。先の試合は勢いで勝ったが、二試合目ともなると――。
 困ったのはエメリヤンも同様で、こんないたいけな少女に攻撃することなど、心優しいこの獣人には出来なかった。
「ええと……あの、動かないで、いてくれる?」
「えっ?」
「そしたら、……痛くないようにするから」
 ペルセポネはこくりと頷いた。
 エメリヤンは木刀を握り、ごめんね、と小さく謝ると、ペルセポネの頭、腰、足元を続け様にぽんぽんと叩いていった。
「……えーと、勝者、エメリヤン・ロッソー!」
「何じゃそりゃあああ!!???」
 これほど盛り上がらない試合もないだろう。憤った観客席からは、弁当や湯飲みがぼんぼんと投げ込まれた。ハデスにもぼかすか当たり、逃げ出す羽目になったほどだ。
 だがペルセポネは、エメリヤンに感謝した。エメリヤンもこれでよかったと思った。
 直後に八百長の疑いが持たれたが、全く戦闘能力のないペルセポネが無気力試合をしたということで、決着がついた。

勝者:エメリヤン・ロッソー