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現れた名も無き旅団

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現れた名も無き旅団

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■ようやく出会う名も無き旅団


 イルミンスールの街、通り。

「いるかもしれないと聞いたけど、いたらどんな人達なんだろうね」
「話がまともに出来る相手だといいが」
 エリザベート達の話を聞き協力を決めた遠野 歌菜(とおの・かな)月崎 羽純(つきざき・はすみ)はぶらりと街を歩き回りつついるかもしれない名も無き旅団を捜していた。

 歩き回ってすぐ。
「歌菜、あの人じゃないか?」
 『ホークアイ』で注意深く広範囲を捜索していた羽純が真っ先に黒い本を持つ16歳ぐらいの少女を発見した。
「さすが羽純くん、あの人だよ! 見覚えのある本。行こう!!」
 歌菜は少女の手にある本を確認するなり超特急で駆けて行った。
「歌菜!」
 置いてけぼり気味の羽純は慌てて追いかけた。

「ちょっと待って!」
 歌菜は少女に近付くなり大声で声をかけると
「?」
 少女は驚いたように恐る恐る歌菜の方に振り返った。
「あの、もしかして……名も無き旅団の方ですか? 私、遠野歌菜といいます。イルミンの生徒で名も無き旅団の手記で貴方方の事を知りました。少し、お話を聞かせて頂きたいんです」
 歌菜は挨拶を後回しにストレートに少女の正体に迫る事を聞いたり自己紹介したりと立て続けの賑やかさ。それでも初対面という礼儀は忘れない。
「……歌菜、偽っても仕方無いのは分かるが」
 追い付いた羽純は直球に問いただす妻に呆れの溜息。
 しかし、
「いいえ、いいですよ。私はジナです。一応、名も無き旅団では調薬師をしています」
 相手は気を害した様子は無くにこにこと名乗った。
「そうですか。先程の事ですが、勿論、タダでとは言いません! ここは私の庭のような所ですから、お買い物スポットや美味しいデザートのお店等紹介します! 楽しく買い物しつつ、お話でもどうですか?」
 歌菜は身を乗り出し気味に乗っている交渉を繰り出す。
「美味しいデザートですか?」
 ジナは甘い物にピクリと反応。
 これは脈有りと見た羽純が
「もしかして甘い物は好きか?」
 とどめを刺しにかかる。
「好きだし……これから食べたいと思っていた所」
 ジナは羽純の予想通りの返答をした。
「それなら和風と洋風、好みに合わせて俺と歌菜のお勧めのケーキ屋や喫茶店を紹介しよう」
 かなりの甘党故に人より多くのスイーツ店を網羅している事を交渉の場に出す。
「和風も洋風も美味しくて迷うから両方教えて。甘い物は別腹だからいくらでも入るから!」
 テンションが高くなりすっかりジナは最初のかしこまった様子は消え年相応の女の子になった。
「だよね♪」
 歌菜もつられ砕けた口調になる。何せ相手は年上ではないので。
「それなら片っ端から食べ歩きをするか」
 ジナが決められないという事で羽純がこの場を仕切り、店に案内する流れとなった。

 店。

「ん〜、美味しい。まさか、期間限定を食べられるなんてぇ」
 ほくほくと小豆と生クリームたっぷりのスイーツに蕩けるジナと
「女の子は期間限定に弱いもんね♪」
 甘い甘い飾りの果物を頬張る歌菜。
「そうそう、これって美味しいのかな?」
 ジナは同意とばかりに激しくうなずいた後、気になるスイーツの評価を歌菜に求めた。
「美味しいよ。さっぱりした甘みと程よい酸味が癖になるよ。オススメだよ!」
 食した事がある歌菜はオススメとばかりに推す。そのためジナは迷わずその甘味を注文した。きゃっきゃと放課後の女子学生の如く二人の周りには和やかな空気が流れていた。
「……情報収集という感じではないな……この甘さの隠し味はもしかして……」
 女子二人の空気から外れ気味の羽純は呆れつつも甘味を美味しく頂いていた。

 そして、このままでは唯の食べ歩きで終わるかと思いきや
「……和んでいる所悪いが、そろそろ本題を」
 羽純が本題を口にした。そもそも楽しむためでなく情報を貰うために店に入ったのだから。
「あぁ、そうだった。それで何だっけ……うわぁ、本当にこれ美味しそう♪」
 ジナは歌菜に勧められた甘味が運ばれるやいなやすっかり虜に。
「でしょう! 本当に癖になるから! じゃなくて、聞きたいのは旅の目的とか理由とか。特殊な平行世界と関わりがあると聞いたけど」
 ジナにつられ思わず浮かれるも本題を忘れずに訊ねる歌菜。自分が美味しいと思う物を誰かに美味しいと思って貰う事はとても楽しい事である。
「記憶を集めて旅の目的地の特殊な平行世界に返すだけというのが目的で理由。取り憑いている知的生命体に何もかも支配されてるって事だよ。私もその前の人もこの先もずっと……嫌でなった訳じゃ無いけど、そういう気持ちになる時もあって」
 ジナは多少の諦めを含みながら質問に答えた。
「きっと大丈夫だよ。みんなが色々動いているみたいだから……それで、調薬師さんって言っていたけど何か特別なレシピとかある?」
 歌菜がジナを励まし、別の話題を振った。
「ありがとう。レシピというなら疲れを和らげるレシピはどうかな……」
 ジナは歌菜にどこにでもある素材と簡単な手順で作製出来る栄養剤的なレシピを教えた。
「お手軽なレシピだね。よく作ったりするの?」
 歌菜は教えて貰ったレシピの簡単さに頻繁に使用する実用性を感じた。
「うん。メンバーのガスタフ爺ちゃんによく作ってる。高齢で顔色が悪いから……その事もあって早く終わればいいのにと思ってる。人が辛そうなのを見るのは嫌だから」
 ジナは少し沈み気味の調薬師の顔になっていた。
 ジナの言葉に
「そうだね(私も羽純くんが辛そうにしているのを見るのは嫌だし)」
「……(俺も歌菜が辛そうな顔をしていたら)」
 歌菜と羽純は同じ事を考えていた。さすが以心伝心の仲良し夫婦である。
「団員数はともかく何故役目があるんだ。自分達で決めた事なのか?」
 羽純の追加の質問に
「……それは取り憑いている奴が決めた事だよ。旅が円滑に行くようにと……ただの寄せ集めじゃ成果を出せないと思ったんじゃないかな。それより、可愛い雑貨とか売ってるお店知らない?」
 ジナは少しだけ忌々しそうに自分なりに考えた理由を答えたら年相応の笑顔で買い物の話に話題を変えた。
「知ってるよ。これが終わったら案内してあげる♪」
 歌菜は弾んだ声で即答するなり甘味を頬張った。
「うん、ありがとう。それが終わったら今度は洋風のスイーツをお願い♪」
 ジナも嬉しそうに言うなりスイーツの事でまたお世話になる羽純の方に顔を向けた。
「あぁ、任せろ」
 羽純も甘味を食べながらもしっかりと引き受けた。
 食べ終わった後、歌菜の案内でジナはササカが経営する雑貨店『ククト』を訪れた。

 雑貨店『ククト』。

「ササカさん、こんにちはー!」
 歌菜は元気に登場。
「いらっしゃい」
 顔見知りの歌菜達の訪問にササカの挨拶も弾んでいた。
「……これは何かあったのか」
 羽純は注意を呼び掛ける立て札と床の穴の事を訊ねた。
「それが、オルナが持って来た商品が容器から漏れて床を溶かして今修理中なのよ。作製手順を忘れて一カ所抜いたせいで」
 ササカは超忘れやすい親友の仕業を疲れ気味の溜息を交えて言った。
「それは災難だったな」
 オルナも知る羽純はササカに同情した。
 店にて歌菜とジナはあれ可愛いこれ可愛いと時間を潰した後、羽純達の案内で洋風スイーツの店で楽しく過ごしたという。ジナと別れた後に羽純が『テレパシー』で得た情報を皆に伝達した。