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現れた名も無き旅団

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現れた名も無き旅団

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 イルミンスールの街、通り。

「話を聞く限り軍隊的な物じゃなくて旅人の団体って事らしいけど、どうにも繋がらないな。悪人では無さそうだけど……」
 シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)は少々参った顔。
「けど?」
 隣を歩くサビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)が言葉を促すと
「廃棄物から生まれた人工的な知的生命体に取り憑かれている割には統一感がないし、面子に入れ替わりもあるみたいだしな。しかし、入れ替わりの件は宿主に寿命や不幸事で別の身体に取り替える必要があると考えたら有りかもしれねぇが……今一つ分からねぇ」
 シリウスはあれこれと明確な事が無く頭がごちゃごちゃしていた。
「まぁ、意図的したものであれ、結果としてであれ……シャンバラで騒動の元になっているのはたしかだからボクとしても名も無き旅団の一件は注視したいね。とにかく得体のしれない連中にはさっさとお引き取り願いたいけど……(話して拒否するなら実力行使も辞さないつもりだけどあんまり悪意剥き出しだとシリウスがうるさいかな)」
 シリウスに比べサビクにとって大事なのはシャンバラであり動機は護国の使命感というあっさりとしたものである。
 名も無き旅団の事も気掛かりだが
「何より原因があいつらっていうのがなぁ。らしいと言やらしいが、本当に何やってんだか……ん、あの本は、サビク行くぞ」
 よく知る双子が関わっている事に呆れるばかりのシリウスは屋外カフェで和む女性の手元に見覚えある紫表紙の本に気付いた。
「……噂をすれば何とやら」
 サビクも続いた。

 屋外カフェ。

「お楽しみ中、いきなりで悪いが、名も無き旅団に所属する者か?」
 シリウスは挨拶よりも先に女性の素性を訊ねると
「えぇ、そうです。私はリリアンヌ、団長を務めている者ですが、何か?」
 リリアンヌは柔和な笑みを湛え名乗り見知らぬ二人を迎えた。
「込み入った事があってね。少しばかり事情を聞かせて欲しいんだ。ボクはサビク・オルタナティヴ」
「オレは、シリウス・バイナリスタだ。もちろんタダで話して貰おうとは思ってはいねぇ。実はこちらには手土産がある(ようやく名前じゃなく本物にお目見えか)」
 サビクとシリウスはそれぞれ名乗った。シリウスはようやく姿を見る事が出来た名も無き旅団の団員の姿をじっと見ていた。二人は相手が真実を話すとは限らないかもと警戒しシリウスは『ソウルビジュアライズ』、サビクは『嘘感知』で嘘や誤魔化しを察知出来るように整え済みだ。
「……手土産ですか」
 リリアンヌが手土産に食い付くなり
「あぁ、魔法中毒者のミモラがここにいるのは知っているな?」
 シリウスが相手の反応を見ながらじわりと言葉を継ぐ。
「えぇ、仲間のガスタフが会いに行きました。彼は……」
 リリアンヌはガスタフの事情を打ち明けた。
「そうか。一応、拘束させてもらってるけどオレの方で便宜を図って、けっこう自由はある。引き取りたいってなら交渉の窓口くらいにはなれるぜ。どうかな、団長さん?」
 シリウスはミモラに関しての自分の立場を伝え、相手の様子を伺う。乗るようであればそのまま話を続け無理なら話題を変更だ。
 そしてリリアンヌは
「そうですね。ガスタフと彼女次第ですが、両方が望めば引き取りたいと思います。その時、私達の旅が終わっていようがいまいが。ですから、ガスタフが戻り確認した後、お知らせしますね」
 シリウスの話に乗った。
 この調子で事情を聞き出そうと
「正体と目的、今までの行動理由を教えて貰おうかな。特殊な平行世界と関わりがあるとか、なかなか複雑な事情もあるようだから協力できることには協力するよ。騒ぎを起こさずすむようにね」
 サビクがいくつかの疑問の答えを求めた。
「えぇ、この世界に迫る彷徨い遭遇した世界に侵食し存在を消す特殊な世界を追い返すために命懸けの旅をしています。まぁ、命懸けというのは大袈裟かもしまれせんが、私達の命は取り憑いている生命体に握られていますので。彼が言うには大量の記憶を引き渡せば退ける事が出来ると共に私達も自由になると……そのために寿命や病、事故などに遭い、旅が出来なくなるまで旅をし次の人に託して終わりが来るまで続くのです」
 リリアンヌは厳しくも使命感に満ちた口調で淡々とシリウス達に答えを渡した。
「……大量の記憶を引き渡す……この世界の代わりにって事かな?」
 サビクはリリアンヌの物言いから集める記憶の役目について察した。
「えぇ、世界には人や動物、植物、建物が建ち並び、そのどれにも記憶がありますよね。だから記憶を引き渡すと言う事は世界を引き渡すと同じという事」
 リリアンヌはうなずいた。ここまで彼女は真実を口にし続けている。
「特殊な平行世界が訪れるまでか。しかし、その時もすぐかもしれないよ。あれこれと動いている者達がいるからね」
 サビクは肩をすくめながら言った。調子は軽いが込められているものはしっかりとしている。エリザベート達が奔走しているという事は展開があったという事でありどんな最後かは分からぬが近いという事。
「そうであればいいのですが」
 とリリアンヌは厳しい顔のまま。
「終わったらどうするんだ?」
 シリウスの肝心な問い掛けに
「語り部のガスタフは高齢ですからどうなるか分かりませんが、私と副団長のラールは旅をするつもりです。調薬師のジナは旅をやめてムヒカは考え中です」
 リリアンヌはこれまでの旅の中で幾度となく語った旅が終わったらのもしもの話で出た団員達の行き先を伝えた。
「そうか。何にしても無事に解決したらいいな」
 シリウスがリリアンヌに今言えるのは彼女達が旅から解放される事を願う事だけだった。
「えぇ、私もそう思います」
 リリアンヌはこくりとうなずいた。
 
 この後、ガスタフは戻り、ミモラとの面会結果をリリアンヌに報告した。その結果、旅終了後にミモラを引き取る事が出来るようにして欲しいと言うガスタフの希望によりリリアヌはシリウスに連絡を入れ、便宜を図って貰った。