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訪れた特殊な平行世界

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訪れた特殊な平行世界

リアクション

 イルミンスール魔法学校内、廊下。

「……これが終わったらゆっくりとケーキが食べたいわねぇ」
 オリヴィエは歩きながら呑気な事を洩らした。
「それは以前買い出ししていた物ですか?」
 舞花は以前会った時オリヴィエが買い出ししていた事を思い出した。
「そうよ。作ってみたらとても美味しくて、良かったら御馳走するわ。本当に美味しいのよ」
 オリヴィエはにこにこと言った。
「そうですね。この事件が終わったら是非」
 断る理由もないので舞花はオリヴィエの誘いを喜んで受けた。
「えぇ。あぁ、そうだわ。レシピを教えてくれたあの二人にも御馳走したいわぁ」
 オリヴィエは手を叩いて舞花の返事に喜び、ふとレシピを教えてくれた者達の事を思い出しさらに呑気にしていた。
 そうこうしている内に実験室に到着し、舞花はシャンバラ電機のノートパソコンを起動させ、情報管理体勢を整えて籠手型HC弐式の通信機能を利用した連絡調整役としての体勢も完了した。オリヴィエはあちこち仲間の調薬状況を見学していた。

 しばらくして
「待たせたね」
「助力しに来ました」
 シンリとロアが現れた。
 それによりぐっと戦力が増した上にそのすぐ後にグラキエス達が捕縛した数体のサンプルが届き、早速分析作業が行われた。
 その中には
「…………これは」
 ロアもいた。熱心に分析を続ける中、双子の廃棄物少しに対して不完全ながら見慣れたものが多く記憶食いに含まれている事に気付いていた。
「何か分かったかい?」
 ロアの様子が気になったシンリが様子を見に来た。
「これは不完全な失敗した記憶素材化魔法薬のようなのですが……」
「……確かに。多分これは、君達に以前話した廃棄物かもしれない。残りの見慣れない随分質の悪そうなのは……」
 調薬関連の魔道書であるシンリはすぐにロアの言葉通りだと確認するなりもう一つ別の物が混じっている事にも気付いた。
 それについては
「おそらく魔法中毒者が廃棄した物ですね(推測が正しかったという事ですか)」
 情報管理を担う舞花が口と情報を挟んだ。パソコンにはこれまでの騒ぎで入手した情報が入っていたのだ。
 結果、
「これなら元になった魔法薬をあわせて三種類の魔法薬を中和する効果を持たせた魔法薬を作製すればいいかな」
 消滅薬の内容はすぐさま決まった。
「そうですね。ただ形状は爆弾や弾丸などに使用出来る物にしたいのですが」
 『説得』を有するロアが形状について細かい希望を出すと
「あぁ、構わないよ。ただ、素材が足りそうにないかな。何せ形状の種類を増やす上に三種類含まれているからね」
 シンリはあっさりと承諾するも少々困った顔になった。
 そこに
「場所を教えて頂ければ私が収集に行きますし、手配も整っています」
 舞花が名乗り出た。双子が出した廃棄物に関しては『根回し』でイルミンスール魔法学校に予め問い合わせ、その際に『用意は整っています』で必要素材を準備し配達するよう手配しておいたのだ。
「それならお願いするよ。オリヴィエは一度戻って保管している素材を持って来てくれ。連絡もお願いしようかな」
 シンリは舞花に収集の一部を任せ、オリヴィエに自分達の拠点から素材を持参するよう指示を出すと共に舞花に連絡を入れるように頼んだ。
「はい、準備を整えるように伝達しますね。ついでにヘルプも入れておきます」
 舞花籠手型HC弐式の通信機能を使って準備のお願いと共に手が空いている調薬探求会の会員に連絡を入れた。話から今の人数では足りないと判断したからだ。
「すまないね。オリヴィエ、頼む」
 舞花に礼を言ってからシンリはオリヴィエの方に向き直った。
「任せてシンリちゃん」
 オリヴィエは柔和な笑みで引き受けるなり急いだ。
「行く前に分析結果の詳細の報告を……」
 舞花はまだしていなかった記憶食いの分析結果拡散をしようとするが
「報告は私が引き受けますので素材収集に取り掛かって下さい」
 この場に残るロアが間に入り引き受けようと声を掛けたため
「はい。お願いします」
 舞花は安心してこの場を離れる事が出来た。
 記憶食いの情報は無事にロアによって拡散された。

 少しして
「ただいま」
 オリヴィエが先に帰還した。
 それからしばらく後に
「戻りました」
 舞花が素材を手に戻って来た。トランスフォームカーで迅速に現場に向かい『トレジャーセンス』と『捜索』で貴重な素材を見つけ出したのだ。
「じゃ、始めようか。一種類は出来ているからすぐだ」
 シンリは皆に合図を出すなり調薬を始めた。口にした一種類とは対双子廃棄物である。残り二種類を完成させ合成すれば完成である。
「不在の間、ありがとうございました。交代しますね」
「お願いします」
 舞花とロアは役目を交代した。
 素材も揃い、舞花が呼び寄せた人手とシンリとロアが加わっているため作業は速やかに進み、ロアは『機晶技術』と持てる知識を活かして形状について様々な工夫を入れた。
 何とか無事に記憶食い消滅薬を完成させる事が出来た。

 完成後。
「配達して来ますので、皆さんは量産をお願いします」
 調薬部分担当外の舞花は記憶食い消滅薬配達を名乗り出た。皆の場所は情報のやり取りで判明しているので。
「頼むよ。記憶素材化魔法薬の方も量産しないといけないかな。そうなると……」
 配達は舞花に任せるもシンリは何もかも忙しい事に困るが
「それでしたら記憶食い消滅薬の方は私が量産しましょう」
 察したロアの申し出に
「助かるよ」
 救われてシンリは何の心配もなく記憶素材化魔法薬の量産の方に回った。
 舞花と両調薬会によって記憶食い消滅薬は満遍なく配布され、ロアの協力により記憶食い消滅薬の量産は滞りなく進められた。

 一方、イルミンスールの街。

 記憶食い消滅薬配布後。
「ようやく捕縛でなく消滅が出来るな。さすがだ」
 グラキエスは配布された魔法薬を見てロアが役目を見事に果たした事を知り、届かぬ労いの言葉をつぶやいてから弾丸に詰めたり刃に塗ったりと準備をした。
「あぁ(消滅か……あれより多く記憶食いを叩き潰さなければ)」
 ウルディカは適当にうなずくなり魔法薬詰めの機晶爆弾と弾丸を使用出来るよう準備するが、それよりも本格的な記憶食い駆除に移行するこれからグラキエスが調子に乗って疲弊しないようにしっかり目を光らさなければと気を引き締めていた。グラキエスが心無しか楽しそうにする様子を見るとますますである。

 とにもかくにも準備が整った後迅速に記憶食い駆除に移った。
「早速、威力を試してみるか」
 魔法薬を詰め込んだ魔銃バルセムを構えた『銃器』を有するグラキエスは『行動予測』で付近の素材持ちを狙う記憶食いの数秒先の行き場所に『スプレーショット』で弾丸を外す事なく撃ち込んだ。
 命中すると
「……消えた。凄いな。あの厄介な記憶食いを一瞬にして消すとは」
 一瞬にして記憶食いは消失しグラキエスの好奇心を刺激する。魔法薬の威力は抜群である。
「弾丸の次は……」
 弾丸の次に試すのは刃である。
 ネロアンジェロを使い天を駆ける記憶食い達に迫り、『一騎当千』で刃に塗り付けた薬の威力を確かめる。これまた刃がわずかに触れるだけで記憶食いは消え失せていった。
「……記憶食いが弱いのか薬が強いのか面白いぐらいに消滅するな」
 進み過ぎる記憶食い駆除にグラキエスは思わず感想を洩らした後、標的を発見するなり次々と撃ち抜き斬り付け消滅させていった。

 一方。
「……さて」
 ウルディカも続いて魔法薬弾丸を使った銃で『スプレーショット』を放ち弾丸の効果を実感したり『サイコキネシス』で魔法薬詰めの機晶爆弾を操り普通の弾丸で撃ち爆破させ弾丸よりも広範囲に威力を見せ数体の記憶食いを駆除する。
「……これほどの威力ならばすぐに全て駆除出来るな」
 記憶食い消滅薬にウルディカもご満悦の様子。
 グラキエスと同じくウルディカも記憶食い駆除に邁進する。
 しかし途中で
「……あれでは」
 空で頑張るグラキエスの様子にウルディカは苦労人の溜息を吐き
「エンドロア、キープセイクに言われていただろう」
 役目を果たすのであった。
 注意されたグラキエスはウルディカの元にやって来るなり
「大丈夫だ、ウルディカ。それよりかなりの数撃破した」
 グラキエスは大丈夫だと主張するだけでなく撃破数も口にした。
 それに対し
「撃破するのはいいが、体調を崩さぬよう気に掛けろ。エンドロア、こちらの撃破数も結構な数だ」
 何とウルディカは注意だけなく撃破数も言い出した。何気に楽しんでいるらしい。
 その結果、
「……(ウルディカよりも多く撃破する)」
「…………(小型だが数体巻き込める爆弾がある分あれより有利か)」
 グラキエスとウルディカは撃破数を競い出しそれなりに楽しみながら記憶食い駆除に勤しんでいた。もちろん、記憶食い消滅の進捗状況など共有要の情報のやり取りは忘れずにポチの助とした。