波羅蜜多実業高等学校へ

葦原明倫館

校長室

空京大学へ

死神動画 後編

リアクション公開中!

死神動画 後編

リアクション

■死神動画の最後はこんなもの

「さて、お邪魔するわよ!」
 リネンが飛び込むのとほとんど同時に、ヘリワードとセレンがドアから内部に雪崩れ込む。
 貴仁が前もって仕掛けていた間接攻撃は予想以上の効果を発揮し、立ってこちらを向いているのは5人程。
 下の階層でも騒ぎが起きているのは、同様に踏み込んでくれたからだろう。
「貴様等、我らの邪魔をしに来たか!」
「えぇ、拒否権はないわよっ!」
 鈍い音を立て、いち早く踏み込んだリネンの拳が先程から口答えしてくる男の顔面にめり込んだ。
 相手は机に閉まっていた銃を取り出そうとしていたが、間に合うはずもなく崩れ落ちる。
「ひ、ひぃぃっ! バケモノだ!」
 別の方向からは、居るはずのない『何か』に怯える男達の姿があった。
 彼らはの周りにはどんよりとした闇が漂い、セレンが発動した術によってその身を幻覚に蝕まれているようだ。
「人の死に様を勝手に撮るなんて、趣味悪いったらありゃしないわ!」
「に、逃げろぉ!」
 幻覚に怯えるうちの1人がベランダへの窓を破り、転がり出るが即座に背中を踏みつけられる。
「と、ここまでは予想通りね」
 ベランダの壁に寄りかかりながら待機していたセレアナだった。
 構造上、ドアから入れば彼らに残された逃げ道はドアの向かい側にあるベランダ。
 1階にはヘリワードの仕掛けた不可視の罠が用意してあり、2階はセレアナが完全にカバーしていた。
「さて、残りはアンタだけね?」
「う、あうあ……」
 部屋の中で、1人意識を残しているのは彼女達が部屋に乗り込んでいち早く物陰に隠れた男だけ。
 そんな彼も視界を共有し、万が一の猟犬の襲撃に備えていたヘリワードとリネンにより発見されていた。
「さて、洗いざらいはいてもらおうかしら?」
「ひぃっ、まっ、ごふっ」
 両手を鳴らしながら近づくヘリワードは、男が口答えするよりも早く顔面に一撃、気絶しない程度に加減した打撃を叩きこむ。
「あんたらに話す権利はない。あるのは答える義務。OK?」
 ヘリワードの言葉にすっかりおびえてしまったのか、男は素直に頷き返す。


 時を同じくして1階。
「て、敵襲!? 逃げろぉ!」
 部屋に突入した貴仁の姿を見て、まだ意識の残っている運営メンバーは驚いて立ち上がると、慌てて1階のベランダへと走り出す。
 だが、ベランダにはエリワードの仕掛けた魔力による罠が設置されている。
 それを知らないのは彼らのみ、次の瞬間に魔力が爆発すると同時にいち早く逃げ出そうとした男が文字通り吹き飛び、机の上のパソコンを蹴散らしていく。
「っと、無駄な事はやめたほうがいいと思いますよ?」
 あまりにも滑稽な姿を晒した男を一瞥した貴仁は嘲笑するような言葉を立ち竦む男達に投げかける。
 残っているのは3人。
 他は侵入時には既に眠りに堕ち、1人は罠にかかって意識を飛ばしている。
「くそっ、お前1人なら、どうにでもっ」
 逃げ場を失った男のうち、1人が懐から銃を取り出す。
 しかし、貴仁はそれを見ても驚く様子も、身構える様子もない。
 何故なら―――。
「うおおっ―――っ」
 雄たけびを上げながら、男は銃を撃つよりも早く、側面から飛来した真空波によって衝撃を受けて昏倒した。
「御用改めです! 神妙にするのですー!」
 真空波を放ったのは、隠密状態にあった鉄心。
 あっけにとられた残り2人を取り押さえたのはティーとイコナ。
「ふう、全く」
 上での戦いも落ち着き、自分を囮にした作戦はうまく展開され、決着はついた。
 気が付けば2階から階段を伝ってセレンやリネン達が1人の男を引きずり、降りてきたようだ。
「別に、取って食おうってわけじゃなかったんだがここまで抵抗されるとはな。 素直に話してくれればこちらもある程度は協力できるかもしれんぞ?」
「き、協力…? ひ、必要ない、俺達は救世主なんだ!」
 鉄心が友好的な態度を見せたかと思えば、突然気が強くなったのか男は声を荒げだす。
「あのっ、何か事情があったんじゃないですか……?」
「ひ、ひひ、事情? 人々を救う為さっ、ははっ!」
 ティーが話しかけると、ますます気を強くして男は笑い出す。
「狂ってますの……」
 イコナは彼らの様子を見て、狂ったように何かを妄信する狂信者の様に感じ取れていた。


「はぁ、君達、いろいろ下手ですねぇ……」
 捕まえた運営から話を聞いた貴仁は、そう一言言い放った。
 実際、他の面子もその通りだ。
 結局普通には話してくれなかった為、力に訴えてしまうところはあったのだが。  
「本当に、自分達が救世主になったと思って、これだけの騒ぎを起こしたんですか……」
 ティーは彼らの言葉に嘘偽りがない事を確信し、それによって悲しそうな顔をしている。
 これだけの事をした彼らには何か事情があったのではないか、人はここまで欲に塗れた存在ではないと信じたかったところもあったのだろう。
「結局、世界を乱すのは悪魔ではなく人、か」
 優しくティーを肩を叩き、鉄心はそう呟いた。
 事件の発端は、彼らが世界の理を、『自らの死を伝える』という事で乱し、未来の世界は狂ってしまった。
 そして、今回の直接的な被害を生み出したのはそんな未来からやってきた人々なのだろう。
 他のメンバーが無事に彼らを捕縛できているのならば、話を聞くことも可能だ。
「まだ、悪魔が人々を唆した方が気楽だったよ」
「おや、疑われていましたか?」
「そういう態度をしているから、疑われる」
 気が付けば、ルナティックがドアを開けてやってきていた。
 だが、皆慣れてしまったのか、彼に対する態度は割とドライになっている。
「鋭峰様達は無事にローブの連中を捕まえました。これで無事に事件は解決、流石です」
「いや、まだですよ」
 ちらり、と貴仁は部屋の隅で稼働するサーバーに目をやった。
「おや、壊してしまうので?」
「当然よ、こんなのがあるから事件が起きるんじゃない」
 セレンの言葉に迷いはない。
「これでおしまいよっ!」
 リネンはサーバーに向けて、自らの剣を振り下ろす。
 ぐしゃり、そう音を立て、死神動画のデータが積まったサーバーは見事に打ち砕かれた。