リアクション
■エピローグ
死神動画。
自らの情報を登録する事で、自らの死に様を映した動画が投稿されるというサイト。
結局、それは自らを救世主と詠う愚かな人々によって構成された物。
社会的に死神動画はデータベースの破損と言う理由で閉鎖、という形で世の中から消え去った。
人々はそれを受けて、所詮嘘の動画だろうとか、ただの合成だけだったから犯罪にされたんだとか、プライバシーの侵害だったとか。
罵詈雑言を並べられて世の中からは悪として認識されている。
「しかし、最近でニュースとしても取り上げられなくなったな」
死神動画によって引き起こされた事件。
その情報を纏めながら鋭峰はテレビに放映される、至極一般的なニュースを見て呟いた。
「結局、死神動画の運営は救世主にでもなりたかったんでしょうかね?」
教導団の資料を纏めながら、鉄心はそう言った。
資料室の外ではイコナやティーがドーナツを奪い合って騒いでいるが、それよりも鉄心は真相が気になっていた。
結局彼らは自分達は救世主であるという事の一点張りで話は全く通じなかった。
「人々の為に尽くす。そういう考えが彼らの根本にはあったのだろうが、人々の感謝の気持ちが彼らを増長させたと私は思っている」
「結局、人も人が狂わすのか?」
「ええ、それが『人』だと思いますよ?」
2人の背後にはいつの間にかルナティックの姿があった。
「立ち入りを許可したつもりはないのだが?」
更に、ルナティックの後ろで刃を向けるのはダリル。
「丁度いい、お前の目的は一体なんだ? 何を目的として動いている?」
一度刃を向けたものの、争う気は無いと言った様子で刃を降ろすとルナティックに問いかけた。
「おや、私の目的は今回の事件の解決ですが?」
「そうじゃない、根本の目的だ」
はぐらかそうとしたルナティックだが、そう言い返されてふむ、と腕を組む。
「私は私の楽しみの為に、狂った感情を皆様が持つことを良しとします」
狂った、という単語に鉄心は眉をしかめる。
「おおっと、狂ったといっても発狂した状態とは違いますよ? 愛による熱狂、喜びによる狂喜、人々はそうやって数々の感情を見せてくれます」
ルナティックは淡々と言葉を紡ぐ。
「しかし、定められた未来を持つ、駒の様な者達では作られた感情しか発揮しません。私が求めるのは『皆様』の狂気なのです」
『皆様』という言葉を放つとき、ルナティックは鋭峰でも鉄心でもダリルでもなく、虚空を見つめてそう言い放った。
「これで十分でしょうか? では、またお会いできる日を楽しみにしております」
深々と一礼すると、ルナティックは手品の様に消え去った。
――――――――
空京の留置所。
未来からやってきて、未来を変えようとした女性は面会室で同じ顔をした人物と相対していた。
「まさか、エリザベート・ワルプルギスが双子だったなんて知らなかったわ」
「双子? よしてくれですぅ、こいつは私の電子データのコピーが勝手に動き出しただけですぅ」
エリザベートの言葉にムッとする魔王だが、話を遮るわけにもいかず口は紡いでいた。
「それで、何か?」
「アンタが事件を引き起こしたきっかけ、今後の処理にも関わるし聞かせて欲しいですぅ」
「いいわ、今更私の未来なんてなくなったも同然なんだし」
どこか、気力のない声で女性は語り始めた。
「私達は未来を知り、死を回避する事で平和になったような世界で生きてきた。けど、それは所詮上辺だけの平和だった。力あるものが未来を知り、自らの死を回避する為に人を、国を、世界を壊す。そんな未来」
そこまで言うと、一呼吸置いて決心したかのように再び口を開く。
「だけど、私も未来がわからなくなるのは怖かった。だからこうやって過去に戻って未来を知った『力ある者』を消していこうとした」
結局、返り討ちだけどね。と言って大きくため息をついて話を止めた。
「少なくとも、アンタ達の『警告』はしっかりと効いてるですぅ」
「えっ?」
女性は意外そうに声を上げた。
「あの団長が今回の事件の被害者を教導団の発展の為にって監視下で働かせることにしたらしいですぅ! 正直、その辺の魔王より魔王臭い気がするですぅ」
「うるせーです、このエセ魔王」
「ま、魔王には強大な部下がいるですぅ!」
ペットじゃねーか、と心の中で突っ込みを入れつつ、話が脱線する前にエリザベートは女性に向き直る。
「あんた、まだ未来を変えたいと思ってるですか?」
「……うん」
力弱く返した女性の言葉には嘘偽りはなさそうだ・
「なら、大丈夫ですぅ」
「え……」
何が大丈夫なのか、女性にはさっぱり理解が出来ていないようだ。
「そう考えた時点で未来は変わる、所詮世界なんてそんなもんですぅ」
「所詮、そんな物、か」
結局自分達は未来を変えることは出来たのだろうか。
もしも、知る事が出来たとしても、考えが変わるだけでその未来は全く異なってしまうのだ。
だからこそ、未来を知ることなど誰1人として出来ることは出来ないのだろう。
前編、後編続けてご参加いただいた皆様、誠にありがとうございます。
蘭鈴六(らん すずろく)です。
未来人を題材とし、自らの死を知った上で行動するという話でしたが如何でしたでしょうか。
皆様のおかげで、事件は無事に解決し、魔王も助けて頂けて感無量です。
今回の事件は、自らが救世主になろうと未来からやってきたグループと、
そんな彼らにって書き換えられた未来からやってきたローブの人物が引き起こした非常に入り混じった事件となっておりました。
しかし、自らの未来を知る事によって未来は変わり、結局自身の未来を正しく知ること等できはしないのでしょう。
もし、それが出来るのであれば、既に人などではなくなっているのでしょう。
どちらかというと、心にわだかまりが残るような話でありましたが、
ご参加いただけた事本当に感謝しております。
今後も参加いただけると幸いです。