葦原明倫館

リアクション

　２０２５年の秋も深まる中、七瀬　歩（ななせ・あゆむ）から友人たちそれぞれに手紙が届いた。
　季節の挨拶と友人たちの近況を訊ねる文章の後、彼女自身の近況報告が続いていた。


旅に出て約一年、カナンにしばらく滞在した後、今はシボラに来ています。
カナンはイナンナ様の力で豊かな土地に戻りそうになってるところも多くて、人の雰囲気もやわらかい感じになってました。
多分、今頃の時期は豊穣祭で盛り上がってると思うので、気が向いたら足を延ばしてみてはどうでしょうか。

シボラは前に一度行ったくらいでほとんど行ったことがなかったんですが、ジャングルでずっと暮らしてた人たちとかがいて、文化の違いに慣れるまでが大変でした。
でも、おかげでちょっとはたくましくなったんじゃないかなぁ。
今度そちらに戻る時は、シボラのご飯とかお土産に持って行きますね。
……皆のびっくりする顔がちょっと楽しみです。

あと、まだ一年で長く見てきてるわけじゃないですけど、やっぱり人の優しさは、ある程度自分に余裕があるかが大事なのかなって気がします。
自分のことで精一杯だったら、中々他の人のことにまで目が向かないので。

あたしは契約者で、普通の人なんかよりよっぽど丈夫だったりするんですけど、それでも心配してくれる人がいてくれて。
……もちろん悪い人もいますけど、それでも良い人の方が多いと思うんです。



　彼女の言葉で綴られた手紙の文字は楽しそうで、友人たちは歩の声を思い出す。
（それぞれの道を歩んでも、どの空の下にいても）
　……手紙を受け取った友人たちは、手紙を嬉しく思いながら、思いを馳せる。
　変わらないものがあるのだ、と。
　そして今日も。
　旅をする歩の足元に、庭で手紙を読む友人の花壇に、部屋の花瓶に、髪に、それぞれの百合が咲いている。