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白百合会と未来の話

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白百合会と未来の話

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 ――おかえりなさい。
 彼らも声を合わせたその後、その白百合は数多の白百合に囲まれて一際輝いているように見えた。
 彼女たちがひとしきり挨拶を終え、手が空いたのを見計らって、黒崎 天音(くろさき・あまね)は歩み寄った。
 傍らにはルドルフ・メンデルスゾーン(るどるふ・めんでるすぞーん)の姿もある。
「お帰りなさいと言えて良かったよ。今日は校長とラズィーヤさんの帰還を祝わせて貰いにきたよ」
「薔薇の学舎の校長として、僕個人としても、戻ってきてくれて嬉しく思う」
 天音の横で、ルドルフが恭しく礼を取る。
「僕だけでなく皆、特に百合園の生徒たちは帰還を待ちわびていたようだね」
 天音もその中の一人である。軽く頷き、ラズィーヤに向き直ると、
「久しぶりにその姿見た気がするよ、今日のドレスも素敵だね。……体調は?」
「……ええ、もうすっかり良くなりましたわ」
 その言葉は本当に見えた。勿論、彼女は弱味を見せないことに慣れているだろう。隣の静香に視線を送れば、静香は心配要らないというように微笑んだ。
 それほど悪くないのだろう。天音はほっとすると、そうだ、と手土産の入った籠を掲げて見せた。
「お祝いにティーハニーを持って来たよ」
「あら、ありがとうございますわ。今度のお茶に使わせていただきますわね」
 天音のことだから普通のティーハニーではなく、内容も凝っている。籠のラッピングの中に地球から取り寄せたさまざまな産地、さまざまな花の蜜が集められたティーハニーを治めたセットで、花の図柄つき小瓶のデザインも可愛らしい。
 スプーンの柄の先にもミツバチの巣をアレンジした図柄のデザインがあり持ちやすいようになっていた。
 ルドルフも同様で、
「僕はタシガンコーヒーを」
 と軽く言ったものの、それは最高級品である。ルドルフのような立場の人間でなければ滅多に手に入らない逸品だ。
「ええ、嬉しいですわ。機会がありましたらコーヒーをご一緒したいですわね」
 天音は土産を渡しながらラズィーヤに問いかける。
「この先、どんな風に世界が変わっていくのか分からないけれど……シャンバラだけじゃなく世界のあちこちに足を伸ばしてみるつもりだから、帰ってきたら土産話を持って訪ねても構わないかな」
「ええ、ではその時は一緒に蜂蜜とコーヒーを頂きましょう?」
 二人はラズィーヤの前を丁重に辞すると、端の席に着いた。
「一緒に来てくれてありがとう。百合園女学院の女帝、ヴァイシャリー家の姫の復帰祝いに僕だけだと片手落ちな気もしたんだ」
「いや、僕も一度挨拶をと思っていたんだ、切っ掛けをくれてありがとう」
 紅茶のカップを持ち上げるルドルフを静香に眺めながら、天音は切り出した。
「……ところで、さっき話したことだけど――」
「ああ、旅に出るってね」
 持ち上げかけたカップを置いて、ルドルフは天音を見つめた。
 かつて、『ルドルフのイエニチェリ』とも呼ばれた天音に、彼は以前と変わらぬ信用を置いていたが、それをルドルフに伝える意味を推し量ろうとしているようだった。
「今迄とあまり変わりないけどね。ルドルフの代わりに見て回って来ようと思う。シャンバラの民が学ぶ場を作る夢も諦めていないし」
 天音は、昔のように学舎を空けられないルドルフの目や耳として世界を回るつもりなのだ。
「それは、君自身の好奇心の発露でもあるだろう?」
 ルドルフは視線を少しだけ逸らすと、仮面の奥で楽しげに笑った。
「戻ってきた君の話を楽しみにしているよ」
 何を見よう、何を聞こう。何が見え、何が聞こえるだろう。
 何に出会うだろう。何が待っているだろう。
「うん」
 ……旅は、天音の知的好奇心を満足させてくれるだろうか。