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リアクション
別れ
繁華街に多くの若者の姿が見られた。
友人、恋人同士でゴンドラに乗って景色を楽しんだり、ウィンドウショッピングや買い食いをしたり、クリスマスを皆、思い思い楽しく過ごしていた。
「寒いな〜、喫茶店でも入るか」
先を歩いていたウッド・ストーク(うっど・すとーく)が振り返り、パートナーのセレンス・ウェスト(せれんす・うぇすと)と、義理の妹のブランチェ・ストーク(アスパー・グローブ(あすぱー・ぐろーぶ))に尋ねた。
「ううん、このまま歩いていたい」
セレンスは静かに首を左右に振り。
「それじゃ、温かい飲み物でも買おう」
ブランチェが売店を指差した。
そして、3人はそれぞれ温かい飲み物を買って、また歩き出す。
ふとしたように……。
何の前触れもなく。
「私たちがこうして一緒にいられるも、いつまでかな……」
「……え?」
突然、セレンスが出した言葉に、ブランチェが不思議そうな顔をする。
「もし急に別れが来るとしたら、私たちにはどんな言葉が必要なのかしら?」
言って、セレンスはブランチェとウッドに寂しげな笑みを見せた。
「ん?」
ホットコーヒーを飲んでいたウッドも怪訝そうな顔をする。
(別れの時が近づいてくる。残された時間はもう少ない……)
セレンスはそんな2人を優しくてそれでいて寂しげな目で見つめていた。
(本当は別れたくない。いつまでも一緒でいたい。
今の気持ち、出来る事なら伝えたいけど……)
本当の気持ちを伝えたい。2人が大好きだ。
でも彼女の口から出ていく言葉は――。
「2人とも、すっかり落ち着いたみたいだし、もう私がいなくても大丈夫よね。
それに、私がこれ以上2人の邪魔になっちゃいけないわよね。
最後にあなた達が幸せになれて良かった…」
「な、何言ってるの?」
ブランチェは飲み物を飲むことを忘れ、ただただセレンスを見ていた。
「あなた達の素敵な物語……。
まだまだ先を読んでみたかったけど……。
あなた達とこの先を歩んでみたかったけど……」
2人に背を向けて少し歩いて、くるりと振り向き、セレンスはまた寂しげな笑みを見せる。
「私はこれから新しい物語のページを開くの。
けど、そのためには今見ている本を閉じないといけない」
「いや……なんだそれ。別れ? ちょ、ちょっとまてよ」
ウッドは混乱する。
それほどにセレンスが口にした言葉は唐突だった。
今までセレンスからは何も聞いていない。別れを匂わす言葉さえも聞いていない。
セレンスとは地球で出会い、契約をした。
大事な仲間であり、友人だ。
今もこれからも、何も変わらずに一緒にいられると思っていた。
だから、セレンスの言葉の意味が全く理解できない。
「私はこの先もずっと進んで行きたいから。
そして……あなた達と出会えたような、素敵な出会いをもう一度体験してみたいから
だから……」
「セレンス……」
ウッドは悲しげな目でセレンスを見る。
セレンスが自分達のもとから離れていくことが解って。
止められそうもないと、感じて。
「だからなんだっていうんだ。また『一緒に』冒険すればいいだろ」
「そうよ、一緒に出会えばいいのよ」
ウッドとブランチェの言葉にセレンスはそっと首を左右に振った。
「なんでだ……っ」
ウッドは悔しげで、心配そうな目をセレンスに向けてきた。
「2人とも、そんな顔しないで。大丈夫! 心配はいらないわ!
だって……」
セレンスは笑顔を見せた。
「だって、あなた達みたいな素敵な間柄なんて、そう居ないんだもの!
私はこの素晴らしい出会いを大切にしたい。
だから……、だから心配はしないで……ね」
「するに決まってるだろ」
ウッドが、セレンスの飲み物を持っている腕を掴んできた。
こんな風に、直ぐに触れられる距離に、今までいたのに――。
ブランチェもウッドと同じように、セレンスの腕をつかむ。
「……」
いかないで。
ブランチェの瞳は、そう語っていた。
ブランチェにとって、セレンスは辛い時期に心の支えになってくれた、大切な友人。
彼女には深い感謝の気持ちを抱いている。
(信じてる。きっとまた出会えるって、だから……その時まで。ちょっとの間だけ……)
セレンスは掴まれていない方の手で、2人の手に触れて。
自分の腕から離して、2人の手を繋がせてた。
ウッドとブランチェは顔を合わせて、少し赤くなる。
「ふふ……っ」
そんな二人の姿に、セレンスは明るい笑みを浮かべる。
「さて。はばたき広場に行ってみようか、クリスマスイベントが行われるそうだし」
彼女のいつも通りの言葉と笑顔に少し安心して。
ウッドとブランチェはセレンスと共に再び歩きはじめた。
3人、肩を並べて。
それが今の、いつも通りの3人の姿だけれど……。
その日常は、終わろうとしていた。
(廻る思いと、繰り返される出会いと別れ。月日が流れ、互いの姿かたちは変われども、変わらぬものは必ずあると、私は信じたい。
思いが繋がる場所の在処は……常に変わらずそこあると信じたい。思いは廃るものではなく、廻るものだと)
この別れが、彼女自身に予め知らされていた事か
それとも突然の出来事だったかは分からない
彼女から別れの理由を告げる事はなかった
ただ確かなのは
その時、別れはすぐ傍まで近づいていたという事
その別れは決して避けられないものだったという事
別れ際に彼女は言葉を残した
何か理由があったからか
それとも別れを惜しむ気持ちがそうさせたのか
彼女は最後まであやふやに言葉を濁した
そして……ほんの少し目を離した時だった
振り返った時には、彼女の姿はなかった
まるでキャンドルの火に映る陽炎だったかの様に
風にかき消されて消えてしまったかの様に
彼女はその日から突然姿を消した