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リアクション
パーティーが始まり
ホールは百合園の生徒や手伝いに訪れた参加者たちにより、綺麗に飾り付けられていた。
既に沢山の人々が集まっており、クリスマスツリーにオーナメントを飾り付けたり、挨拶をしあい、歓談を楽しんでいた。
「メリークリスマス!」
「メリークリスマスだ、ヒャッハー!」
「ヒャッハーはやめとけ今日は、可愛い女の子に避けられるだろー」
「それじゃ、メリークリスマスだ、ヒヤホー!」
帽子に、付け髭、赤い服とズボン、そして大きな袋を持ったパラ実生達が、サンタの格好で会場を歩き回っている。
「メリークリスマスだぜェ、おじょうちゃん。プレゼントをあげよう」
サンタの一人、若葉分校番長の吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)が、袋から取り出したお菓子を百合園の女の子に渡した。
「あ、ありがとう……サンタさん」
巨漢で粗暴な印象の竜司だが、サンタの格好をしているため怖がる子はいなかった。
竜司と同じようにサンタの格好で会場を回っているのは、竜司の舎弟――若葉分校に通うパラ実生たちだ。
「皆、成果出してるみてェだな! ヒャ……ホー!」
舎弟達が女の子にお菓子を渡して喜ばれている姿に、竜司はぐへへと笑いを漏らす。
「よぉし、メリークリスマスの歌を歌うぜェ!」
竜司はマイクを取り出すと、歌を歌いだす。
……彼の歌声は酷い騒音なのだが、優子からプレゼントされた音程補正装置付きのマイクを用いているため、マイクを通しての声はなんとか聞けるレベルである。
「メリークリスマス! クリスマスだぜェェェェ! オレは〜サイコーのイケメンクリスマスサンタだぜェェェェ♪ オレからのイカスプレゼントだぜェェェェ〜♪」
そんな風に歌いながら、プレゼントを配る竜司の姿に客達は笑みを漏らす。
その場にいるだけで、面白い存在だった。
「イケメンサンタさん、プレゼントください!」
「私たちもサンタさんたちにプレゼントあるので、交換で」
手作りお菓子を持って、百合園生が近づいてきた。
「もちろんいいぜェ! けど、てめェらの菓子は、別の微少年サンタに届けてやってくれェェェ〜。オレと優子のイカス舎弟たちをよろしくなァァァ♪」
竜司はプレゼントを配り、女の子達を舎弟のところへと向かわせる。
(アイツらにも、彼女が出来ればいいんだがなァ!)
ちなみに、竜司の女(竜司妄想)である神楽崎優子は、百合園の後輩達に取り囲まれていて、今は近づけそうもなかった。
「お、始まってるな。料理も運び終えたし、オレそろそろ……」
パーティーを楽しもうかと、シリウスがホールに足を踏み入れた時。
「や、もう始まってるみたいじゃないか」
「ふふ、なんだかみなさんすっかり盛り上がっていますわね」
後ろから二つ、声が響いてきた。
振り向かなくても分かる、この声の主は――自分の大切なパートナーたち。
「リーブラ、サビク!」
「ただいまですわ、シリウス」
「ただいま、シリウス」
リーブラ・オルタナティヴ(りーぶら・おるたなてぃぶ)とサビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)が笑みを浮かべて、シリウスに近づいてきた。
「……お帰り、リーブラ。そしてサビク」
シリウスの言葉に頷いた後、サビクは会場を眺める。
「優子ちゃんにアレナちゃんも元気そうで……」
「2人とも大変だったんだぞ?」
「いや、皮肉じゃないよ。見違えたじゃないか……ま、人のこといえた義理でもないか」
アレナは光条兵器を取り出せるようになっていた。
その話を、シリウスから軽くサビクも聞いていた。
アレナは外見も何も変わっていないけれど、彼女の成長をサビクは感じ取っていた。
「サビクさんも相変わらずで……ご無事でよかった」
リーブラが目を細めて、サビクに微笑を向けた。
「あぁ、ボクは相変わらずだよ」
「その様子じゃ、首尾は芳しくな……」
「いや、シャムシエルの足取りの方は全く。
ていうか、三か月なんて生活と足場固めるだけでほとんど終わっちゃったよ!」
「ぇ、そもそも探索はほとんどできてないってことか?」
「そういうことになるね」
サビクは大きくため息をついた。
「こんなことならニルヴァーナで開拓に協力しとくんだったな……まぁ戻ったら本格的に捜索再開する。
春には手がかりくらい掴んで、連絡するさ」
「ま、まぁそらそうか。まだ3ヶ月だもんな……けど、ちゃんと生活できてるみたいでよかった」
「ええ、ニルヴァーナからシリウスだけが戻って来た時は、本当に心配しましたわ……」
「命、大切にしろよサビク」
シリウス、リーブラの心配げな目に、ふっとサビクは笑みを漏らして不敵に言う。
「……大丈夫だよ。死ぬものか。ボクを誰だと思っている?」
「ああ、そうだな」
シリウスも不敵な目で、微笑み返した。
「それじゃ、優子ちゃんとアレナちゃんに挨拶でもして、ついでに何か料理貰ってくるよ」
ぽん、ぽん、と。
サビクはシリウス、リーブラの肩を叩き、優子とアレナのもとへと向かっていった。
彼女の背を見送った後、シリウスはリーブラと顔を合わせた。
「改めて、だ……お帰り、リーブラ」
「ただいま、シリウス」
「仕事、まだ大変か? 食事、大丈夫か? ティセラねーさんや優子さんたちとは……」
「えぇ。わたくしは大丈夫です。優子さんやティセラお姉さま、同じ侍女の皆様にもよくしていただいて……シリウス?」
話しの最中。シリウスは手を伸ばして、リーブラに軽く抱き着いてきた。
「きゃっ」
突然の事に驚いて、リーブラの口から小さな声が漏れた。
「野暮だよな。こんな話」
口を閉じると、シリウスはぎゅっとリーブラを抱きしめ直す。
「もう……どうしたのですの。シリウスらしくもない……」
「また会えて本当に嬉しかった。だから、しばらくこのままにさせてくれないか…?」
「ふふ。えぇ、はい。どうぞ、シリウスの気の済むまで…それであなたの心が安らぐなら……」
そう言って、リーブラは優しくシリウスを抱きしめて、彼女の背を労わるように撫でた。
「でも、ちょっとここじゃ恥ずかしいですよ……?」
そう囁くと、シリウスは苦笑のような笑みを漏らして。
「あと、少しだけ……」
リーブラの温かなぬくもりに包まれ、そっと目を閉じた。
あと少しだけ。もう少しだけ。
この安らぎの園の中にいたい――。