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「優子さん、元気になってよかったな! ……アレナはどうだ? 封印が解けてから、何か体調の変化とかないか?」
 少し心配気に康之がアレナに尋ねた。
「私はとっても元気です。優子さんも元気になって、康之さんとも今日、こうして会えて……嬉しですっ。
 あっ、これプレゼントです」
 アレナは康之に、康之だけのために作ってきたお菓子を渡した。
「サンキュ! 家に戻ってから大切にいただくぜ」
 康之が笑顔を浮かべて、その笑顔をみたアレナもとっても嬉しそうに微笑む。
「康之さんもアレナさんみたいな素敵な女性と出会えて本当に良かったですね」
 恋人のと共に楽しんでいる綾耶が、2人に声をかけてきた。
 康之とアレナが照れ笑いを浮かべたその時。
「……んっ」
 綾耶がかるく眉を顰める。
「綾耶、どうかしたのか?」
 すぐに某が気付き、心配げに声をかける。
「なんだか身体の節々が妙に痛いんです。
 まさかまだ私の身体に異常が? だとしたら……」
「噂をすれば影。つまり私の名あるところに私あり、というわけで我参上!」
 突如、男性の声が響いた。
「その小さき少女の異変についてだが、それは異変であって異変ではない」
 腕を組み少し離れた位置から、そう告げるのは。
「髭が出てきやがった……無視してもいいんだが、それだとアレナが危ない、か」
 某が皆の前に出て、声の主の男性に手を向けて紹介する。
「俺のパートナーの一人の髭です。一応無害ですが有害とほぼ変わりません。だからスルーしてください」
「は、はい?」
 アレナは不思議そうな顔をしている。
「結論を急くのならばずばりと核心を突くが……それはただの成長の兆しなのだよ」
 そんなことはお構いなしに髭――ミスター ジョーカー(みすたー・じょーかー)の説明は続いていく。
「私の脳髄には少女の身体情報が刻まれているが、現在彼女の身長は145センチ。
 だがしかし、実は数ヶ月前までは140センチ。その差はなんと5センチ!
 つまり、彼女はこの数ヶ月の間に5センチも成長しているという結論に達する!」
「確かにそうですけれど、どうしてそこまで知ってるのですか」
「ついでに言うならば胸囲は……」
「それについては言わなくてもいいです!」
 赤くなって綾耶が叫んだ。
「おっと、ここから先は機密のようだねぇ。
 ともあれ、彼女の矮躯から他者が想定する外見年齢を察すればさほど珍しくはない成長なのだろうが、この数年一切成長する兆しがなかった事を鑑みれば、此度の身長及び胸部の増長はまさに驚異!」
「だ、だから胸囲のことは触れないでください」
 周りの人の視線を受けて、綾耶はますます赤くなった。
「おそらくは名も無き想い人(某)とさらなる絆を深めた(意味深)事が心身になんらかの影響を及ぼしたと推測できるが、そこはまさしく推測。絆による成長かもしれぬし、遅れに遅れた成長期なのかもしれぬ」
「まあ、それはそうかも……」
 一応納得する某。
「さて、説明を終えたところでせっかくなので私も聖夜の祭を楽しませてもらおうかねぇ〜。
 では諸君、良き聖夜を過ごしたまえ! アデュー!」
 手を上げて背を向けると、ジョーカーはパーティー客の中に消えていき、そのまま姿を消した。
「というか意味深ってなんだ意味深って! 全くあの髭は……」
 ふうと某はため息をついた。
 綾耶はまだちょっと赤くなっている。
(成長した綾耶か。一体どんな風になるのかな)
 彼女を見詰めながら某は思っていた。
「成長、ですか……嬉しいですけれど、少し不安でもあります」
 綾耶は不安気な弱い笑みを見せた。
「綾耶がどんな風になるのか、想像できないが、どんな綾耶になろうと絶対大事にすることに変わりはないよ」
 某はそっと、綾耶の頭に手を置いた。
「むしろその時までのお楽しみって考えるんだよ。将来に楽しみがあるってのは素敵な事だろ?」
 彼の言葉に、綾耶はこくりと頷く。
「そうですね、それも将来の楽しみにしてしまいましょう!」
「綾耶の事だけじゃない。俺達自身の未来も同じだ。
 世界を巡る事件が終わりを迎えたけど、俺達の未来はまだまだ終わりには早すぎる……なんてね」
 某と綾耶は見つめ合って、微笑んだ。
「一時は某もちみっ子も苦労したんだよな……その点じゃある意味アレナも同じか」
 康之は綾耶がなんともなかったことに安堵し、自分の隣にいるアレナに目を向けた。
(でも、それを乗り越えた二人だからこそその分幸せにしてあげたい! というかしてみせる!)
 決意を込めた目でアレナを見ると、アレナも康之を見上げて笑みを浮かべる。
「某が言ったように、俺達の人生はこれからだ! これから先結婚して家庭を持って……やりたい事はいっぱいある!」
「はい。やりたいこと、沢山あります」
 この世界で、愛する人達と共に――。

 歌菜と羽純は、ドリンクで乾杯をして料理をいただくことにした。
「クリスマスといえば、クリスマスケーキ♪」
 テーブルには数種類のケーキがあって、どれにしようか迷ってしまう。
「クリスマスのケーキって、一年で一番華やかで美味しそうなのばかりよね」
 定番のショートケーキ、ショコラ、モンブラン、タルト、アイスケーキ……。
 見てるだけでも楽しくて、歌菜は目を輝かせている。
「どれにするか……別のを選んで半分ずつ食べるか?」
「うん!」
 羽純の提案に勢いよく頷いて、歌菜はショートケーキ、羽純はモンブランを選んで席に着いた。
「幼い頃は、クリスマスと誕生日を一緒くたにされて、何だか損してるみたいな気持ちだったりしたの」
 ケーキを食べて、歌菜は嬉しそうに微笑む。
 彼女の誕生日は12月23日。クリスマスとお祝いが一緒になってしまうことも多かった。
「でもね、この季節ならではのケーキを選べたり、クリスマスと一緒に祝って貰えるの、楽しいなって! 羽純くんもそう思わない?」
「俺は……歌菜に出会うまで、誕生日を祝って貰うという事が無かったから……」
「え? ケーキを食べることもなかったの?」
「いや、ケーキくらいは貰った事はある。
 ただ、クリスマスを祝ったり、誕生日にパーティーをしたり、なんて事は……歌菜とが初めてだった」
 ふっと羽純は微笑みを浮かべる。
「今は本当に楽しいし、幸せだと思う」
「……ね、踊ろう、羽純くん!」
 会場には明るいワルツが流れていて、踊っている人もいる。
 歌菜は羽純の腕を引っ張って立ち上がる。
「そうだな」
 羽純は歌菜の手を取って踊り始める。
「羽純くん、大好き」
「……!?」
 目が合った途端、歌菜の口から出た言葉に羽純は不覚にも照れてしまう。
「……お前、寄ってるか?
 顔、赤くなってるぞ」
「うん、酔ってるかもっ。会場の雰囲気に。
 ふわふわして気持ちが良いの!」
 歌菜は妊娠をしているため、アルコール飲料は飲んでいない。
 だけれど、お酒に酔っている時と同じような、気持ちの良さを感じていた。
「羽純くんもちょっと顔赤いよ」
「……俺も少し酔ってるかもしれん」
 歌菜の言葉に照れたのだとは、この場では言いにくかった。
「メリークリスマス、そして誕生日おめでとう。羽純くん。来年も再来年も……ずっと一緒に居ようね」
「メリークリスマス、そして誕生日おめでとう。歌菜。お前と共に生きる。これからもずっと。
 ……毎年、約束している気がするな」
「ふふっ、確かに毎年約束してるかも。約束なんて要らないね」
 ああ、と頷いた後。羽純は真剣な目で。
「俺がお前の傍を離れる事はない。お前の隣が、俺の生きる場所だから」
 近づいた歌菜に、そう囁いた。

「さ、俺らもクリスマスプレゼント配りに行くぞ〜。ミニスカな娘たちと一緒にな♪ ヒャッ……ホー!」
「ブラヌさん」
 お菓子の入った袋を手に、会場を回ろうとしていたブラヌを牡丹が引き止める。
「私という女がありながら……ブラヌさんはどうして……っ、どうしてサンタなのですか!?」
「は? あたたたたっ」
 牡丹はブラヌの腕をぎゅうううっと握りしめる。
「ドリンクいかが〜。未成年はお酒はだめよ」
 そこにセクシーなミニスカサンタ姿のティリア・イリアーノがドリンクを乗せたトレーを手に近づいてきた。
「おっ、さんきゅ。可愛いな、写真撮らせてくれよ」
「ブラヌさん!」
「うわっ」
 牡丹に強く引き寄せられ、ブラヌは受け取ったばかりのドリンクを自分の身体にかけてしまった。
「他の女からドリンクを受け取るなんて、浮気です」
「は? 怒るとこそこ?」
「ですので、私が飲ませていただきます」
 言って、牡丹はティリアからカクテルを受け取ると、ごくごくと飲み干した。
 そして。
「ブラヌさん、何故濡れているんですか? 悲しいです」
 突然牡丹は涙を浮かべる。
「ど、どどどうした? もしかして酔ってる?」
 とくに顔に変化はないが、牡丹の様子は明らかに変だ。
「酔ってないです。この豪華客船揺れませんから」
「豪華客船じゃないぞ、牡丹〜」
「ブラヌさん、ダンスを踊りましょう。あ、やっぱりこのお船、ゆれますね」
 牡丹はふわあっと微笑み、ふらふらと踊りだす。
「ああやっぱり、酔ってる! しっかりしろ、牡丹〜」
「ブラヌさん、他の女性と踊ったらいやですよ」
「うん、わかってる。わかってるよ、牡丹」
「……嘘をつきましたね! 今また、別の女性を見ました……うう、悲しいです……」
 しくしく、牡丹は泣き出してしまう。
「いや、ぶつからないように周りを見ただけだろ。牡丹、しっかりしろー。そだ、水を飲むか」
「ブラヌさんが、他の女性のところに……私たち、もう終わりなのですね」
「だっ、だから、水を貰いに行こうとしただけだって〜っ」
 ブラヌは困り果てながら、牡丹を座らせて介抱しようとする。
「ブラヌさん、ブラヌさん……」
 ……とはいえ。
「わかった。今日はずっと側にいるぜ、牡丹」
 自分を独占しようとする愛妻が可愛くて、困りながらも嬉しくて仕方がなかった。