波羅蜜多実業高等学校へ

葦原明倫館

校長室

空京大学へ

ネバーエンディング

リアクション公開中!

ネバーエンディング

リアクション



クリスマス・キャロル


「くしゅん!」
 ヴァイシャリーから遠く離れたツァンダの御神楽邸のソファで、御神楽 環菜(みかぐら・かんな)はくしゃみをしていた。
「風邪ですか、環菜?」
「……ううん、おかしいわね」
 寄せた唇を離して問いかける夫・御神楽 陽太(みかぐら・ようた)にそう言って、環菜は娘の陽菜を抱き直す。
「風邪をひいては大変です、暖かくしてください」
 陽太は立ち上がると、ブランケットを広げて妻の背中を、抱かれてすやすや眠っている11ヶ月の娘ごと包み込む。
「ありがとう陽太」
「疲れているんでしょうか。休める時には休んでください、今俺がターキーを切り分け――はくしょん!」
「あら、あなたも風邪?」
「いえ、おかしいな……」
「誰か、私たちの噂話でもしてるのかもね」
 陽太は鼻をこすりながら、送り出したパートナーたちに思いを巡らせた。
 エリシアとノーンはヴァイシャリーの百合園女学院のクリスマスパーティーに、御神楽舞花は別口で友人たちとクリスマスを楽しんでいるはずだ。
 陽太も一緒に参加したかったが、まだ幼い娘を連れて行くわけにもいかず、とこうして三人のクリスマスを過ごすことにしたのだった。
「何の話をしてるんでしょうか、楽しんでくれればいいですね」



 クリスマスパーティーが行われているホール。
 御神楽家代表?エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)と、ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)は軽く腹ごしらえしつつ、友人たちと談笑していた。
「パーティー楽しいね!」
「ええ、そうですわね」
 可愛らしい白いドレスの裾をひらめかせ、ノーンははしゃいでホールを歩く。答えるエリシアは正装らしく魔女らしく、黒色に真紅の薔薇をちりばめたドレス姿だった。
 エリシアはノーンがはしゃぎ過ぎないようにさりげなく気をつけつつ、桜井 静香(さくらい・しずか)ラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)の姿を見つけると、ノーンを促して近づいた。
「こんばんは、今日はご招待を頂きまして百合園の皆さんには感謝しておりますの」
「ごきげんよう」
 ラズィーヤが微笑むと、静香が問いかける。
「来てくれてありがとう。今日もお二人は……?」
「ええ。でも陽太が娘と一緒に、こちらを訪問したいと言ってましたわ。多分年明けになるかと思いますけれど」
「うん、楽しみにしているね。それじゃあ、また」
 エリシアが挨拶を済ませてホールを見渡したところで、彼女は声をあげた。
「あら、ハルカもパーティーに招かれていたのですわね」
 ハルカの姿を見つけ、二人は近寄っていく。
 ハルカはミニスカサンタ衣装を身に着け、パーティーを楽しんでいる様子だった。
「こんばんはハルカさん」
「あっ、ブルプルさん、ノーンさん! こんばんはなのです!」
 ちなみに「ブルプルさん」とは、ハルカがエリシアを呼ぶ時の名前である。
「さすがヴァイシャリーのクリスマスパーティー、華やかですわね」
「はい。さすがなのです」
 ハルカはこくこく頷く。
「ハルカさんも可愛らしいですよ、とてもよくお似合いですわ」
「ありがとうなのです」
 ハルカはにこにこ笑顔で、
「よーたさんやひなちゃん達はお元気なのです?」
「陽菜も大分大きくなってますます可愛くなりましたわよ」
 陽菜の名前が出るとエリシアは可愛くてたまらないといった表情になるが、ノーンにこう言われて軽く咳払いした。
「うん、陽菜ちゃんすごく可愛いよ! おねーちゃんって陽菜ちゃんのこと大好きだよね」
「今日は、陽太と環菜は陽菜のお世話もありますしお留守番ですわ。クリスマスですしイチャイチャ夫婦は普段にもましてイチャイチャしてそうですけれど」
 そうなのですか、と頷きつつ、ハルカは鞄をもぞもぞ探っていたかと思うと、
「これ、『ひなちゃんにクリスマスプレゼントなのです』と言って、渡して欲しいのです」
 とエリシアに小さな包みを渡す。
「これは……?」
「赤ちゃんのくつしたなのです。ハルカの手編みなのです」
「まあ、それは陽菜も陽太たちも喜ぶと思いますわ、ありがとうございます」
 大事そうに受け取ってそう言いながらも、一番嬉しそうなのはエリシアだった。ノーンはプレゼントに思いついたように、
「そうだ、おにーちゃんと環菜おねーちゃんにもお土産持って帰ってあげようか?」
「良い案ですけれど、今夜は遅くなるでしょうし止めておいた方がよいですわ。明日、渡しましょう」
 会話が一区切りついたところで、三人はお菓子をお皿にとりながら、とりとめもない話を続けた。「このケーキ、とっても美味しいのです」「うん、こっちのムースもいけるよ!」といったような。
 エリシアはふと思いついたように、ショートケーキをもぐもぐするハルカの横顔に話しかける。
「ハルカさん、今度またデュエルしましょう……陽太と環菜もこの間は楽しかったみたいですしね」
「次は負けないのです!」
 ノーンもフォークを置いて興味津々に目を輝かせて、
「パラミタオールスターズってゲーム、今度わたしもやってみたいな!」
「では、今度みんなでデュエルいたしましょう」
「楽しみなのです!」
 ところで、ノーンはいつの間にか、ハルカと同じようなミニスカサンタ衣装を借りて着替えていた。
 フォークを置いたついでに、お皿も置いて、こんな事を言いだした。
「みんなで歌を歌おうよ! クリスマスソング!」
「お歌うたうの? 私も歌う〜♪」
 ノーンの声を聞きつけて、ライナ・クラッキル(らいな・くらっきる)が薄い妖精の羽をパタパタさせて飛んできた。彼女は吟遊詩人なのだ。
「え、何? 歌うの?」
「じゃあ、私が指揮を執りましょうか」
 周囲の女生徒たちも集まって。即興で、女性の一人が指揮棒を指で取って。
 清いクリスマス・キャロルが会場に響く。
 どうやら、今夜は楽しいクリスマスになりそうだった。