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戦いの理由

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戦いの理由

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 屋上には、多くの機械獣が放たれていた。
 風見瑠奈を中心に、警備についていた者達が対応に当たるが防ぎきることはできない。
 更に、上空にはドラゴン3匹、ワイバーン数十匹の姿が在る。それぞれ龍騎士、従龍騎士が騎乗しているはずだ。
 彼らが降りてきたら、自分達などひとたまりもない。
 全力で攻撃を仕掛けてきたのなら、建物ごと破壊することも訳のないことだ。
 とてつもない緊張感の中、彼女達は奮闘していた。
「アイツに決めた」
 機械獣を打倒す瑠奈の耳に、そんな声が届いた。
 彼女が止める間もなく、空気が動いた。
 屋上に一番近い位置で地上の様子を窺っていた龍騎士が、下方からの攻撃に気付く。
 アシッドミストだ。
 手綱を強く握りしめたところ「上だ」と仲間の龍騎士が声を上げる。
 顔を上げようとした途端、体に重みを感じる。直後、龍騎士は強い衝撃を受ける。
「挨拶代りよ!」
 それは、ベルフラマントで姿を隠した伏見 明子(ふしみ・めいこ)のシーリングランスだった。
 明子はそのままロケットシューズで空を飛び、龍騎士にとびかかってドラゴンから引き離す。
 龍騎士が握っている手綱は九條 静佳(くじょう・しずか)が斬り落とした。
 空を飛ぶ、龍騎士、従龍騎士達が反応を示す。
「手出し無用! 一対一だ!」
 静佳が大声を上げる。
「集団で不意打ちをしておいて何を……。まあいいだろう。地球人の力、見せてもらおうか」
 そう言ったのは未だ、屋上で戦況を見ているアイアスだった。
「契約者だって、やり方次第で龍騎士にだって勝てるんだっ!」
 明子はアクセルギアを30倍で始動。
 纏っている魔鎧レヴィ・アガリアレプト(れう゛ぃ・あがりあれぷと)の力を借り、ショットランサーでランスバレスト、則天去私を5秒の間に連続で叩き込む。
 明子から見てゆっくりではあるが、龍騎士側も空に向かい、広範囲魔法を発動。
 光翼で躱そうとするが、完全に避けている時間はなく、明子の体の一部が凍りつく。
「時間が惜しいっ」
 それでも、明子は退かず再びランスバレスト。
「でぇぇぇぇーい!」
 そして、アクセルギアの効果が切れる直前、龍飛翔突を龍騎士に決めた。
 同時に、龍騎士の次の魔法が明子に浴びせられる。風刃の魔法だった。
 明子の体がズタズタに切り裂かれる。
 龍騎士は翼を広げて、その場から離れようとする。
「っ……」
 レヴィは人型に戻り、龍騎士にしがみついた。
 最初のアシッドミスト、そして奈落の鉄鎖で援護した人物――水蛭子 無縁(ひるこ・むえん)により、空飛ぶ魔法↑↑を施されている。
「てめェらに比べりゃゴミクズ程度の格下だがよ……! 最後の一押し押し込むぐれェの地力はついてんだよ!」
 レヴィは死力を尽くして、自らランスバレスト。
 明子の攻撃で深い傷を負っていた龍騎士は、衝撃で体勢を狂わす。
「荒野にだって……意地はあるっ」
 明子は消えかける意識を奮い立たせて、ロケットシューズで突撃。
 龍騎士ともつれ合ったまま、地上へと落ちた。
「明子……」
 邪魔はさせないよう、ドラゴンの注意を引いていた静佳は、戦いの終結を見て明子の元へと走っていく。
「バカ女……特大に無茶しやがって……」
 レヴィも倒れかけながら、地上へ落ちていく。
「相打ちというべきか。倒したことに違いない、か。くくく……」
 落ちかけるレヴィの体を、地獄の天使の翼で飛び、無縁が抱えて下りていく。
 明子も龍騎士も息はあった。

 屋上では、地上を見下ろすアイアスに近づく者がいた。
(ボクは……皆の輪を乱し、白百合団員として……そして、大きな戦力もなく、ロイヤルガードとしても自分が相応しいとは全く思ってない)
 真口 悠希(まぐち・ゆき)だった。
「悠希……」
 その後ろには、パートナーのカレイジャス アフェクシャナト(かれいじゃす・あふぇくしゃなと)の姿もある。
「けど……自分の発言や責から逃れるつもりはない」
 既に、機械獣、従龍騎士との戦いで体はボロボロだったが、目は死んではおらず、強い輝きを放っていた。
「……故に名乗る。白百合団にしてロイヤルガード、真口悠希……全力を持ち貴方達に抗います」
 振り向いたアイアスの眉がぴくりと動いた。
 屋上に放たれた機械獣を、アフェクシャナトのサポートを受けて斬り倒し、悠希はアイアスの下へ駆ける。
「ボクには貴方程の力はないでしょう……。そんなボクが必死に抗う様は、滑稽に見えるかもしれない」
 次々に襲い掛かる機械獣、そして従龍騎士に、スタンクラッシュでダメージを与え、幾人かを畏怖に陥らせる。
「けど……無理に相手を力で屈服させ平和を……なんて大義で全体の為に個を無視する……そんなやり方では、火種は残り続ける……真の平和はやって来ない!」
「ロイヤルガードか……」
 アイアスはドラゴンに騎乗したまま、武器を構える。
「ボクは……どんな時も困ってる誰かを見て見ぬフリはしない! ……それでも貴方達が正しいというのなら。全力でボクを屈せさせてみせろっ!」
「いいだろう。貴殿も帝国の為に殺いでおくべき力の一つだ」
 アイアスが槍を振るう。その瞬間、アフェクシャナトが光術を発動。
 ダメージを与えることが目的ではない――光が、アイアスの視界を阻んだ。
 だが、その程度の目眩ましは、何の障害にもならない。
 悠希はバーストダッシュで横に跳び、アイアスの攻撃を躱そうとする。
 無論、悠希の動きはアイアスには手に取るように分かる。
 移動した方向へとアイアスは強い衝撃波を放った。
 空気が震える。足下の建物さえも。
「悠希……っ」
 アフェクシャナトが声を上げる。
 アイアスの放った衝撃波は悠希の小さな体を――骨を砕き、吹き飛ばしていた。 
「ぐぬ……っ」
 しかし、一撃で悠希を倒したアイアスが、険しい顔つきで唸る。
 悠希は、全て解っていた。
 自分がアイアスに敵わないことも。
 光術程度で、アイアスの攻撃から逃れることは出来ないことも。
 全ては陽動だった。
 アイアスに、自分を攻撃させるための。
 悠希は、避けると見せかけて――敵の群れの中へと飛び込んでいた。
 故にアイアスの攻撃は悠希だけではなく、多くの機械獣を滅ぼしていた。

「悠希をキャッチして!」
 理紗から報告を受けた亜璃珠が、悠希が落ちてくる方向に向けて大声を上げる。
「任せておけ! ロイヤルガードを……仲間を死なせるものか!」
 ラルクが走り込み、屋上から落ちてきた悠希を両手で受け止めた。
 戦いで傷ついている体に強い衝撃が走るが、それでも悠希が負っている傷より傷は浅かった。
「俺もロイヤルガードとして、最後までここを守るぜ!」
「……ボク、も……まだ、たたか……」
「意志を尊重する。どれだけ傷つこうと、何度でも立ち上がる力を……!」
 薄く目を開けて言う悠希の元に、アフェクシャナトが駆け付ける。そして、ヒールを使った。
 悠希はぐらりと立ち上がる。
 体中が痛み、景色もねじ曲がって見える。
 それでも、剣を構えた。
「無茶はするな」
「そうだよ! ボクもいるから」
 ラルクが悠希の前に立ち、東シャンバラのロイヤルガードのカレンもその場に駆け付けた。彼女も、機械獣、従龍騎士との戦いで、疲労し、傷も負っている。
 そんな彼らの元に――。
「ロイヤルガードか。我等の障害になる者達よ」
 残りの龍騎士――3名が、降下してくる。
 更にその後ろに、険しい顔つきのアイアスの姿もあった。
「くっそ……数が多すぎる上に神クラスだからな……正直足止めが精一杯か?」
 だが負けられない。
 ラルクが構えながら問う。
「お前ら、何が目的だ!」
「貴様らが隠し持つ力だ。ロイヤルガードもその一つかもしれんな!」
 一斉に、龍騎士達が攻撃を仕掛けてくる。
 ラルク、悠希、カレンも防御より攻撃をとる。
 ラルクの真空波、悠希の剣技、カレンの魔法。どれも熟練した技であったが、龍騎士達に大きなダメージを与えるに至らない。
 対して、龍騎士達の攻撃は、3人に深いダメージを与える。
 その時。
「東シャンバラ、ロイヤルガード隊長、神楽崎優子だ。ロイヤルガードが狙いなら、私が相手になろう」
 通信機で瑠奈から状況を聞いていた優子が、その場に駆け付けた。
 彼女は無傷であったが、武器は愛刀一本のみ。
 手練れの剣士ではあるが、星剣もない状態では、神である龍騎士と渡り合えるレベルではない。
 だが……。
 何故か、龍騎士達の動きが止まった。
「うん、その人はスルーがいいよ」
 手薄になった入口から出てきた龍騎士団の一員である少年――マッシュ・ザ・ペトリファイアー(まっしゅ・ざぺとりふぁいあー)がそう言った。
「……というわけで、本物がある場所へ急ごっか」
 得た情報はテレパシーで既に伝えてある。
「どんなのだろうな? 気になるぜ」
 マッシュの後ろから、合流したも姿を現す。
「……退却する。ここには何もない」
 アイアスは、ドラゴンを操り龍騎士達と降下すると、倒れた仲間と、マッシュ、迫を回収する。
「手を出すな……」
 優子は警備についていた者達にそう指示を出し、慎重に彼らを見守る。
「じゃあね、神楽崎優子サン」
 笑みを残して、マッシュは龍騎士達と空の彼方へと消えていった。
「追撃もしないでくれ。反撃でこの建物が壊されたら犠牲者が出る。街中に敵が落ちれば、街に被害が出る」
 追撃しようとする者達を止めて、優子は険しく複雑な表情で騎士団を見つつ、負傷している者達の介抱に向う。

 龍騎士団退却後も、資料館の中に機械獣は数十体残っていた。
 契約者が避難したシェルターの中には大量の武器が置かれており、それを手に、契約者達は機械獣の討伐を手伝っている。
 龍騎士団退却の知らせを受けたラズィーヤはただ、沈黙した。
「……ここは任せて大丈夫だな。可能な者は要塞の援護に向え。残りの者は持ち場に帰還だ」
 金団長は教導団員にそう命じると、護衛と共に早々に資料館を発った。
「直ぐに落ち着きますよ。お披露目会の続きをされますか? ……お茶を淹れますよ」
 オレグが、黙っているラズィーヤに声をかけた。
「続きは……出来ませんわ。皆様にお見せできる映像ではないでしょうから……」
 ひっそりそう答えたラズィーヤは軽く自嘲気味な笑みを見せていた。
 お披露目会では、テスト中――戦場で戦う新型機の姿を、ライブで映し出すことも検討されていたのだった。

 数分前。
「魔法に関するものは……何もないのですねぇ」
 他の契約者達と共に、地下に下りていた明日香は、がらんとした地下の様子に、残念そうにため息をついた。
「でも、この部屋の造りは魔法や、大きなエネルギーに耐えられる造りになっているんですよね〜」
 壁にそっと触れてみる。
 厚く硬い壁だった、特殊な金属で覆われているようだ。
「って、なんだよ、クェイルじゃないかよ」
 契約者の一人が声をあげた。
 地下に入り込んだ契約者は数十人。明日香を除く全員が、イコンの元に駆け寄っていた。
 広い地下室の中には、イコンが2機置かれている。
 その一つを、讃岐院 顕仁(さぬきいん・あきひと)が、新型機であるかのように動かして見せていたのだが、それは彼が直前に持ち込んだイコンに、塗装をしたり金属を張り付けてごまかしただけの偽物だった。
「もう少し時間を稼げるかと思ったが、何分仕込みの時間がなかったからの」
 本来なら、クェイルを分解して、それっぽく作って囮にしたかったのだが、そこまでの作業を行う時間はなかったのだ。
 そして彼が用意したイコンの他に、もう1機、ここにはイコンが存在していた。
「……あ、あれ? こいつ……入る場所がないぞ!」
 地下に下りてすぐ、その炎色のイコンに近づいたのは、美由子だった。
 乗り込もうとしているのだが、乗り込める場所がない。
 コックピットが開かないし、開くようにできてもいないようだった。
「というか、これ、板切れ?」
 コンコンとイコンを叩いてみるが、金属で作られたものではないようだった。
「模型ってところだな」
 深くため息をついて、由美子はすぐにパートナーの陽一へ連絡をいれ、陽一から優子に報告を入れ指示を仰ごうとしたが、優子は手が離せない状況だった。
 龍騎士団が退却をしたのは、その僅か数分後だった。

 被害を受けていなかった給湯室で茶を入れて、オレグはラズィーヤの元に戻った。
 彼女は控室のソファーに一人、座っており、パソコンに映し出される動画を見ていた。
「被害が少なくてよかったと言うべきでしょうか?」
 用意してあった茶菓子と一緒に、ラズィーヤの前に並べる。
 ラズィーヤは何も答えずに、ティーカップを口へと運ぶ。
「名簿やデータからは怪しい人物は浮上しませんでしたが……」
 オレグは出席者の名簿をラズィーヤの前に置いた。
 カタン、とラズィーヤはカップを皿の上に置く。
 パラパラ名簿をめくりながら、彼女はこう言った。
「館内に入り込んだ龍騎士はいません。従龍騎士も、深く入り込もうとはしませんでした。機械獣を指揮しながら、様子を見ていたような……。やはり、内通者がいたようですわね」
 少し寂しげな顔をする。
 資料館の被害は少なかった。一般人、要人契約者で掠り傷以上の負傷した者もいない。
 だけれど彼女の策略は8割方失敗に終わった。