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戦いの理由

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戦いの理由

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「ラズィーヤはん、こっちの準備は終わったんやけど、他に手伝うことあるやろか?」
 会場に顔を出したラズィーヤに、大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)が問いかける。
「それでは、出来るだけ側にいてくださいます? 貴方が怪しまれないために」
「何かぎすぎすした雰囲気やなあ……まあ、しゃーないか」
 ラズィーヤに接触し、展示物の準備を手伝った泰輔は彼女とヴァイシャリー軍人の監視下に留まることになった。
「僕はBGMを担当させてもらうよ」
 そう申し出るフランツ・シューベルト(ふらんつ・しゅーべると)に、ラズィーヤは頷いて会場の隅に演奏者用の席を設けるよう、百合園生に指示を出した。
「き、金団長……っ」
 ラズィーヤと並んで歩いていた鋭峰は、上ずった声で呼び止められた。
 声を上げたのは、エルザルド・マーマン(えるざるど・まーまん)に引っ張られるようにして、こちらに向かっている教導団員の土御門 雲雀(つちみかど・ひばり)だ。
「……えっと、本日は招待客としてお邪魔しておりますですっ。あの……新しい開発品の御披露目もあるようだと耳にしましたが、団長は何かご存じで……? 急な話でしたし、他の学校の校長の方々はお見えでないようですが……」
 不安げな目で、雲雀は鋭峰に問いかけていく。
「急に決定したもので、都合がつかなかった為だ。他意はない」
「ですが」
 エルザルドは会場を見回して、こう話す。
「……お膝元であるはずのヴァイシャリーに、百合園校長の姿がない」
 声を落としてこう続けていく。
「……帝国に襲撃を受ける可能性がある為に、敢えて招待しなかったとも考えられますが……。それならなぜ、そこまで危険な晩餐会を、この最小限の貴賓の元で開催するのですか?」
「……団長……」
 エルザルドの言葉に、雲雀は更に不安げな顔になっていく。
「この晩餐会……まさかとは思いますが、開発品のお披露目よりも、別の目的があるのではないですか」
「……そうなんですか、団長……?」
「最小限のリスクで、敵の目を引く為の囮……」
「余計な詮索はしなくて良い」
 と、鋭峰は厳しい口調でエルザルドの言葉を遮る。
「ここは教導団の作戦会議室ではない」
 この場で話をすることの危険性を考えての制止だった。
「わかりました。すいません」
 雲雀は謝罪した後。禁猟区でお守りを作り出して、鋭峰へと差し出した。
「何があっても、あたしのやる事は変わんないです。もしもの時は……団長の背中は、必ずあたしが守ります。……守らせてください」
 雲雀は頭を下げる。
「土御門雲雀……」
 鋭峰は彼女が差し出したお守りを受け取って懐にしまう。
「無茶は控えるように」
 その言葉に、拒否の意味は含まれていないと察して、雲雀は「はいっ」と大きな声で返事をする。
(ホントは無茶しないとは……言えないけど、団長が無茶したら……あたしは……)

「この時期に晩餐会か……」
 教導団員の叶 白竜(よう・ぱいろん)は、怪訝そうにあたりを見回す。
 要塞へ加勢に向かうべきであり、普段の自分ならばそちらに志願していただろうが――どうもこの不自然な会の開催に違和感を感じて、パートナーの世 羅儀(せい・らぎ)と共に、こちらを訪れたのだった。
(やはり、そうことか)
 会場で、団長の金鋭峰の姿を発見し確信を覚える。
 この会が何か意図のある会だと。
 足は金団長の元へと向かうが、決して近づきすぎない。
 白竜には同じ中国の軍人として、金鋭峰の片腕となって働きたいという望みがあった。
 側近をほんの数名しか連れていない今は、その想いを……忠義の意を直接伝えるチャンスかもしれない。
 だけれど、任務を優先し必要以上に近づくことはなかった。
 ふと、鋭峰が白竜の方へと目を向ける。
 白竜は敬礼をして存在を明らかにする。
 鋭峰は軽く頷いた後、ラズィーヤと共に主催者席へと歩いていく。
「パーティーか。ヴィシャリーは華やかでいいっすね」
 羅儀の方は招待客を見回しながら、そんな感想を漏らした。
 何も知らされておらず、察してもいない招待客は和やかな雰囲気で談笑を楽しんでいる。
「そろそろ始まるね。それじゃ、オレいくよ?」
 羅儀の言葉に、白竜は軽く頷く。
「私はここに残り、団長をお守りしよう」
「じゃ、またあとで」
 羅儀はブラックコートを取り出すと、会場の入口へと戻っていった。
 白竜は主催者席後方の壁に、立つ。
 鋭峰と会場を見渡せる位置だ。

「ここから先は、立ち入り禁止ですよ」
 本を抱えた少女を、白百合団員の冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)が呼び止める。
 小夜子はパートナーのエノン・アイゼン(えのん・あいぜん)エンデ・フォルモント(えんで・ふぉるもんと)と共に、地下室に続く通路を警備していた。
「地下の魔法訓練ルームが現在どうなっているのか、知りたいんですぅ……」
 少女――神代 明日香(かみしろ・あすか)は、招待客として訪れていたのだけれど、晩餐会やお披露目されるものではなく、資料館に存在しているエリュシオン帝国の魔法技術に興味があった。
 一般人が閲覧できる書物は、さほど珍しいものはない。
 だけれど、現在は封鎖されている魔法訓練ルームがあったという、地下ならば、技術や知識の教義などの直接的なものは流石に残されていないとしても、知る鍵となる何かが残っているのではないかと考えて。
 どうしても、地下に行きたいと小夜子にお願いをする。
「すみません。お通しする権限は私にはありません……」
「どうしてもですかぁ?」
「どうしても、です」
 小夜子は申し訳なさそうに、頭を下げる。
 エリュシオン帝国の龍騎士団が仕掛けてくる可能性を、小夜子も感じ取っていた。
 狙われるのは、お披露目されると噂の、イコンだろうと小夜子は思った。
 それを奪われるわけにはいかないと。
 開催が急だったからか……それとも、何か理由があるのかわからないが、警備は手薄だ。
 特殊班員として任命されてた自分は、こういう時の為にいるのだと、小夜子は考える。
 軍人と同じように在らねばならず、情に流されるわけにはいかなかった。
「上の人に聞いてはもらえませんかぁ?」
「警備を申し出た時に、関係のない場所には非常時以外、誰も通してはいけないと言われました。申し訳ありません」
「そうですか……」
 明日香はとても残念そうな顔をする。
 知的好奇心や技術向上の為に、魔法技術を求めているわけではない。
 明日香にも、守りたいものがある。
 彼女の守りたいものは、身近な親しい人達。
 戦乱が続き、エリュシオンの神を相手にしているシャンバラに在って。
 どんなに努力をしていも、今のままでは力不足を否めない。
 相手が格上だからと諦めたくはない。
 だから。
 もう一度だけ、明日香は小夜子に聞いてみる。
「監視付きでも構わないですぅ。どうかお願いしますぅ……」
 小夜子は困った顔で、携帯電話で白百合団団長の桜谷鈴子に電話をかける。
 返答はやはり否。
 だけれど……。
「晩餐会中に、下りる機会があるかもしれません。なくても、晩餐会が終わった後でしたら、見学会を行ってもいいとラズィーヤ様が仰られたそうです。ただ、大したものはないそうですよ?」
「でも、自分の目で見てみたいですからぁ。楽しみにしていますぅ〜」
 ぺこりと頭を下げて、明日香は本を抱えたまま、会場へと入っていく。
 それまでの間は、借りたばかりのこの本を読んで待っていようと思って。

○     ○     ○


 警戒に務めている契約者も少なくはないが、晩餐会はおおむね和やかな雰囲気でまった。
 丸テーブルに、豪華な食事が並べられたビュッフェスタイルのパーティだ。
 開催が急であったためもあるだろう。
 料理の種類は多く、1品1品の量はさほど多くはない。
 さまざまな料理人により作られた、多国籍料理だった。
「お好みのものがありましたら、持ってまいりますので、御申しつけください」
 レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)は、給仕スタッフとして、皿や料理を運んだり、下げたりしている。
 イナンナの加護で、周囲に警戒を払っているが、今のところ危険は感じなかった。
(何事もなければ、それに越したことはないけれど……)
 纏っている旧百合園女学院の制服の下に、銃を隠し持っている。
 使わずにいられたら、それが一番。
 だけれど、何かの際には、すぐに抜けるようにしておかないと。
 そう思いつつ、来客、そして警備を担当する人々をも見回していく。
 金団長、ラズィーヤは勿論大切。
 だけれど、2人のことを護ろうとしている人は沢山いる。
 あと……神楽崎優子。
 彼女のことも、レキは心配していた。
(神楽崎先輩は強いけど、万人じゃない。先輩になにかあればゼスタさんにも影響が出るし……ゾディアックの中のアレナさんも。逆にアレナさんに何かあった時には、やっぱり神楽崎先輩に影響が出るわけで……)
 突然、倒れる可能性だって否めないのだ。
 彼女達は百合園の要人だから。
 レキにとっても、守る対象だった。
「わらわは迷子ではないっ、案内係なのじゃ」
 声を荒げないよう、自分を抑えながらパートナーのミア・マハ(みあ・まは)は、来賓の案内をしている。
 小さな彼女は、会場に迷い込んだ子供に見えるらしく、大人の客達によく迷子と間違えられている。
「こちらの席がよいぞ。直ぐに料理を用意させるから待っておれ」
 言って、ミアはレキの方へ早歩きで近づいてくる。
「お疲れ様」
 レキはミアに微笑んでそう声をかけた後、警戒を怠らずにワゴンを押して一旦厨房へと下がる。
「定期連絡〜。今のところ異常はないよ〜」
 同じく、メイド服姿で接客を行っていたミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)も厨房に戻ってきていた。
「お疲れ様。何もないといいね」
 レキはグラスにジュースを注ぎながらそう言い、ミルディアが「うん」と、頷く。
「お披露目が始まってから……その内容によっては何かが起きてしまうかもしれません」
 ミルディアと一緒に、パートナーの和泉 真奈(いずみ・まな)も接客をしながら、警戒をしている。
「だよね、以後はなるべく会場を離れないで、連絡は通信機で行うね」
 ミルディアはジュースをトレーに乗せると、真奈と一緒に晩餐会の会場へと戻っていく。
 彼女の提案で、白百合団員のみ、イヤホンマイク付きのトランシーバーをつけていた。