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【ニルヴァーナへの道】浮遊要塞アルカンシェル(前編)

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【ニルヴァーナへの道】浮遊要塞アルカンシェル(前編)

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 少し前。探索隊側。
「だ、第1班の皆、要塞の中に入ったね。大丈夫かな」
 空飛ぶ箒シーニュで、要塞を追いながら、皆川 陽(みなかわ・よう)が緊張した声で言った。
 怖くて、怖くて本当はすぐにこの場から逃げ出したかった。
 だけれど、多くの人を守り、学校の――薔薇学の名誉と尊厳を守れるような存在になりたい、から。
 一度やると決めたことを、撤回したくない。
(……でも、やる! やるって決めたもん!!)
 陽は時々額の汗をぬぐいながら、要塞を見据える。
「……ね、テディ大丈夫? 荷台は揺れるよね」
 自分を落ち着かせるためにも、荷台に乗っているパートナーのテディ・アルタヴィスタ(てでぃ・あるたう゛ぃすた)にも、積極的に話しかける。
「ふふん、パスファインダーを習得したラヴェイジャーにとって、空飛ぶ箒の揺れる荷台など、平地に等しいわ! うわはははは!」
 対照的にテディはとっても元気だった。
 呪縛の弓を構えて、敵の攻撃に備えている。
「戦わなきゃ、ならないんだよね」
 言って、陽は叡智の聖霊の能力で、皆の魔法攻撃力を上げた。
「っと、敵の攻撃確認、揺れるぞ」
「え、え?」
 驚きながら箒をぎゅっと握りしめる陽の後ろで、テディはエイミング、百戦練磨の能力を駆使して、要塞が放った砲弾に向けて勢いよく矢を放った。
 反動で、箒がぐらりと揺れる。
「わわっ、で、でもボクだって……!」
 陽は片手で巧みにコントロールし、すぐに揺れは治まった。
 テディが放った矢は、見事に砲弾に直撃。直後に、陽が召喚したフェニックスにより、炎に包まれて空中で爆発。
「矢の時をゆがめる効果が、生物以外にも有効なら、ミサイルだって止めてみせるんだけどな〜」
「さ、さすがに生身で要塞のミサイルを相手にするのはちょ、ちょっと!」
 陽はテディの言葉に慌てる。そしてまた、額の汗をぬぐって大きく息をつく。
 だけれど、緊張を解くことは出来ない。

「ゼスタ……たちは、突入を果たしたようだな」
 鬼院 尋人(きいん・ひろと)は、第一突入班が消えた方向を見ながら、複雑な気持ちだった。
「ああ、突入成功の知らせは届いている。その後、通信は出来なくなってしまったがな」
 物資を配って回っている輪廻が、答えた。
「そうか……」
 尋人は前方に……要塞より先に目を向ける。
 この方向には、先回りをしている黒崎天音がいるはずだ。
 薔薇学生であった、天音は、今は国軍の一員だ。
 彼は以前よりもさらに、軍人らしい機敏な行動をしているように、見える。
 さらに、一層遠くに駆けて行ってしまったような、彼が大人びたような感覚を受けていた。
 手の届きそうなところまで追いついたかと思うと、するりとさらにその先へ遠のいてしまう……。
「でも、オレだっていつまでも付いていくだけじゃない」
 早川呼雪、ゼスタ・レイランと前線に立ち、ゼスタの背を守るつもりで戦うつもりだった。
 ……が、呼雪とゼスタは第1班、自分は第二班と、別れてしまった。
 時折こちらにも飛んでくる攻撃を避けながら、浮遊要塞アルカンシェルを注意深く見る。
 アルカンシェル――。
 その名に何か意味があるのだろうかと、呼雪に尋ねてみたところ、仏語で『虹』に意味の言葉があると聞いた。
 レインボウボウには、『弓』という意味があるということも。
「虹の弓……か」
 要塞には関係がないとは思うけれど、物知りな呼雪に尋人は感心したのだった。
 自分は、その仲間達に。
 ついていけているだろうか。並んでいるのだろうか。
「ゼスタの戦いは見れない。だが、オレも同じだけ……それ以上の結果を得ることはできる」
 尋人はそう思いながら、ブランド(レッサーワイバーン)で、飛びながら仲間と共に、決行の時を待っていた。

「早川呼雪さん、皆さん、どうかご無事で」
 先に突入した仲間達を想いながら、鈴鹿は、イルと共に、レッサーワイバーンのルビーベルに乗り、要塞を追っていた。
「君達ももうすぐ突入だ。自分の心配もしておいた方がいいぞ? じゃないと、残っている奴らが心配する。……俺とかな」
 輪廻はそんな風に声をかけて、鈴鹿に治療薬を渡す。
「ありがとうございます」
 礼を言った後、鈴鹿は輪廻と共に要塞をまっすぐに見る……。
 この巨大な要塞にとっては、自分達の存在はゴミに等しいのだろう。
「ミサイルは恐ろしいという感覚が麻痺しそうなくらいの脅威ですね」
 鈴鹿の言葉に輪廻は無言で頷いた。
「あ……」
 皆の携帯電話に連絡が入る。
 電波の状態は悪いが、なんとか受信できたようだ。
「わらわ達の突入地点も決まったようじゃの」
 イルが片手で内容を確認し、もう片方の腕で鈴鹿の背につかまりながら要塞の一点を見詰める。
 制御室から比較的近く、空洞となっていると思われる場所を、狙うことに決まったようだ。
「始まるわよ」
 教導団からの連絡を受けた、ザウザリアスからのテレパシーが突入班に届く。
 飛行手段のない彼女と、悠希は、イコン部隊と合流し、地上からサポートに当たっている。
「了解いたしました」
 ロザリンドが答え、小型飛空艇ヘリファルテで、パートナーと共に、皆の前へと出る。
「イコンによる攻撃が開始されます。その直後に、こちらの班も突入いたします。心の準備はよろしいですか?」
「勿論だ、行くぜェ、優子ーー待ってろよォーーー!」
 先に突入をした、神楽崎優子に聞こえそうなほどの大声で、小型飛空艇ヘリファルテに乗った竜司が雄叫びを上げた。
 それを合図としたかのように、援軍のイコンによる攻撃が開始される。
「それでは、往こうか……!」
 ワイルドペガサスに乗ったヴァル・ゴライオン(う゛ぁる・ごらいおん)が、最大速度で要塞に接近していく。
「どんな状況に陥っても、たとえ、バラバラになってしまっても、一番大事な目的だけは、皆さん忘れずにいきましょう。つまり……」
 パートナーのキリカ・キリルク(きりか・きりるく)は、強化光翼で、ヴァルに続きながら、強く言い放つ。
「要塞を止める!」
「勿論です。必ず、止めます!」
 先陣を任された綾乃は、蹂躙飛空艇で、急接近。
 そして、イコン隊の攻撃が終わった直後。
「攻撃は振り切ります! 敵はいないようです!」
 綾乃はほぼ直進、速度の調整のみで攻撃を振り切り、歯を食いしばってバリアの先に突進していく。
「皆さん、ここを通ってください!」
 同時にバリア地点までたどり着いたキリカはラスターエクスードを構え、バリアの再構築を抑える。
「大丈夫、爆発物はありません! 敵と思われる存在もいません」
 先に突っ込んだ綾乃が突入口から顔を出し、皆に安全を知らせる。
「すぐに行く、追いついてみせる!」
「おうよ、第1班の背後はオレが護ってやるぜェ!」
 即、尋人、竜司が、飛び込んでいく。
「三船さん、行きますよ」
「ああ、頼む」
 は、パワードスーツに身を包んだ敬一を乗せた小型飛空艇を運転し、突入口へと迫る。
「攻撃がイコンに向いている今がチャンスです……!」
 イコンが要塞の攻撃を引き受けている間に、一気に速度を上げて接近。
 小型飛空艇は戦闘には向かない乗り物だが、運転に集中することでカバーし、敬一を無事突入口に送り届けた。
「後戻りはもう出来ないわよ、やるしかないわ」
 イリスは、鋭い目で要塞を睨む。
「うん、やるしかないよね!」
「戦闘でも、回復でも、何でもやるわ……っ。止める為に」
「うん!」
 クラウンも、小型飛空艇の後ろにイリスを乗せて、淋達に続いて突入を果たす。
「日奈々、大丈夫?」
「大丈夫ですぅ。行きますぅー!」
「うん、行くよ!」
 日奈々はエターナルコメットを操って、突入口へ。
 千百合は、光翼型可翔機・飛式(宮殿用飛行翼)で、日奈々の周りを飛び、庇いながら共に突入する。
「2班は全員まだ行動を開始しないでください。回復できる方は回復を!」
「さ、しばき倒して、要塞とブライドなんとか手に入れるよ〜!」
「盾で守ってくれて、ありがとー。早く入ろーっ」
 ロザリンドがテレサ、メリッサがキリカの脇をすり抜けて突入。
「回復は任せてください。イコンのバリア攻撃が続いています。落ちないよう気を付けてください」
「しっかり掴まっておくのじゃ。わらわのようにの」
 鈴鹿は大声で皆に呼びかける。
 イルは何が起こっても振り落とされないように、鈴鹿にしっかり掴まっていた。
「もういいだろう、全員無事だ」
 ヴァルが突入口から顔を出す。
「なんとか耐えられましたね」
 キリカはバリアに潰されそうになっていた盾を引き抜き、突入口へと急いだ。
「準備はいいな。行くぞ」
 ヴァルは激励、驚きの歌で皆の精神力を回復させる。
 大帝の目で、視界も増やし、仲間達に気を配っていた。
「この先は、治療をしている時間ないかもしれないからね」
「一気に行きましょう」
 陽と鈴鹿は完全回復、ヒールで、先陣を切って負傷した綾乃と、盾で皆を守ったキリカを回復した。
 その最中、突入口近くのバリア発生装置と噴射機がコア達により破壊され、要塞が軽く傾いた。
 壁の手すりにつかまりながら、一向は道の確保と、制圧に急ぐ。