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【ニルヴァーナへの道】浮遊要塞アルカンシェル(前編)

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【ニルヴァーナへの道】浮遊要塞アルカンシェル(前編)

リアクション


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 ヒラニプラの東に位置する荒野に、要塞の進行を止めるべく、教導団員と協力者が集まっていた。
「な〜にが『大丈夫、ゼスタが一緒』だ……」
 その場で、ロイヤルガード制服を纏いし変態……もとい隊員の変熊 仮面(へんくま・かめん)は激怒していた。
 アレナ・ミセファヌス(あれな・みせふぁぬす)との通信、通話記録は、国軍とロイヤルガードのメンバーに公開されている。
「ファビオ!」
 変熊は仲間と真剣に話し合いをしているファビオ・ヴィベルディ(ふぁびお・う゛ぃべるでぃ)の首に腕を回して、ぐいっと引き寄せる。
「そこは『変熊仮面様がいれば大丈夫』百歩譲って『頼りないけどファビオがいるからなんとか大丈夫』だろ普通。な!」
「……ソウデスネ」
 ファビオは変熊の腕を振りほどくと相談に戻っていく。
「後から入学したくせに……ぽっと出の奴にいいかっこされてたまるか!」
 変熊は下半身に巻いた前掛けをぴらぴら靡かせながら、対抗心で燃えていた。
「最近、表紙ゼスタばかりだもんにゃ〜」
 はあーと、にゃんくま 仮面(にゃんくま・かめん)がため息をつく。
 変熊が載りたくても絶対に載れないドコゾの表紙を、頻繁にゼスタが飾っているのだ。
 ここはロイヤルガードとして、いや、先発美少年として、女王にいい所を見せる為に! と変熊は奮い立つ。
「ファビオ、そして国軍の皆」
 変熊は再びファビオの背後に近づいて、彼の肩に腕を預けながら笑みを浮かべる。
「ふふふ……困っているな? 君達にプレゼントだ」
 そして、自分のイコン高機動型シパーヒーを指差す。
「見よ! 反ヨーコ爆弾!」
 変熊のイコンには、自称反陽子爆弾が搭載されている。
「ふふ、あれこそ、昔ヨーコにふられたテロリストが、都市ごと彼女の想い人を抹殺すべく……」
「変熊さん、全然違うから。それ、はんようしって読みますから」
 ファビオがつっこみを入れる。
「え、違う? 強力爆弾には違いないだろ!」
 変熊は爆弾設置場所に要塞進路を向けることはできないかと提案するが、要塞の高度が高い為、爆弾の爆風で阻むのは難しそうだ。
 タイミングを合わせて、投下での援護を求められる。
「探索隊側だけど、敵の攻撃に合わせてまず第1班が突入を目指すらしいよ」
 イスナーンに乗って駆けつけた黒崎 天音(くろさき・あまね)が、通信回線を開いて、現場にいる仲間に探索隊側の作戦を伝えていく。
 更に、国軍のメンバーや各地球の学校の協力者に間違いがないイコンに対しては、探索隊から送られてきたデータを直接転送していく。
「最初の作戦はすぐにでも決行に移すそうだ。サポートできるところはしていこうと思う。いいかな?」
「くっ、真っ先に乗り込んで、手柄を独り占めしようという考えだな、ゼスタの野郎!」
「師匠にとって、止めなければいけないのは、要塞にゃのか、ゼスタにゃのか」
 イコンに乗り込んだ変熊とにゃんくまは対ゼスタのことで頭がいっぱいで、天音の話が正しく伝わっていない。
 しかし他のメンバーには正常に伝わり、要塞のミサイル攻撃に合わせて、突入班の支援を行う作戦が立てられる。
 尤も、第1班の支援では、突入部への攻撃はあまり必要がない。援軍側の支援は主にその後の第2班の突入支援の方がメインとなる。
「しかし、なぜあの浮遊要塞は最初に、ミサイルを2発だけ発射したんだ?」
 ダーク・ヤングに搭乗した瓜生 コウ(うりゅう・こう)が疑問を口にする。
 声明などがないことから、コウはアルカンシェルがそのミサイル攻撃により、外界とのコミュニケーションをとろうとしていた可能性について、考えていた。
(2は素数の最初の数だ。ならば例えば、マジックカノンを3発、少し時間を置いて5発撃ちこみ、もし注意を向けることが出来たのなら、信号を7回点滅、11回、13回としていくことにより、コミュニケーションを取る準備があることを伝えていくことはできないか)
 そんなことを考え、コウは教導団の作戦に加わる前、探索隊が接近するより前に、要塞に対して当てるわけではない攻撃を行ってみる。
 しかし、要塞側からは特に反応はなかった。
「まあ、そう上手くはいかないか……何故動き出したのかもよく分かってないしな」
「ファビオ、ちょっと話がしたいんだけれど」
 コウがため息をつき、信号の打ち上げをやめた後、マリザ・システルース(まりざ・しすてるーす)は地上にいるファビオに話しかける。
 彼はすぐに翼を広げて、ダーク・ヤングの前に飛んできた。
「なんでこんなのが動き出したか、推測だけでもあれば教えてくれないかしら?」
「何者かが起動した、それしかわからない。話を聞く限り、外部から起動させるような行動は誰もしていないと思うし、要塞を使っていた十二星華が近づいたわけでもない。自動的に起動する理由はない、と思うから」
「そう、ありがとう」
「数分後、突入班の支援が開始される。手伝ってもらえますか?」
「勿論よ」
「了解」
 マリルとコウの返答に頷き、情報を送る旨約束すると、ファビオは皆の元に戻っていった。

 要塞に対しての断続的な攻撃も続けられており、本部からの解析結果が士官以上、指揮官の団員に次々に届いていた。
「要するに、こいつをブチやぶらないといけないんだよな」
「要塞は特殊なバリアに守られているようだが、攻撃を与えれば、進路を僅かに逸らすことは可能なようだな」
 エイミー・サンダース(えいみー・さんだーす)クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)は、ウンヴェッタで、要塞に攻撃を仕掛けながら独自に分析もしていく。
「つまり、このバリアは攻撃のエネルギーを『中和・無効化』しているわけではなく、『受け止めた上で、耐えている』ということになる」
「まずは小手調べってことで。弱点かあるいは効果的な攻め方がないかどうか探らないとな」
 クレアとエイミーは、そう考え、武器を使い分けて攻撃を繰り返してみる。
 マジックカノン……発射された魔力の弾丸は、バリアに衝突すると衝撃を与えた後に拡散されて消えた。
 20ミリレーザーバルカン……光輝属性のレーザー火器もほぼ同じだった。
 ミサイルポッド……バリア自体は破れないが、衝撃を与えていた。爆発時の爆風は要塞にも届いている。
「物理攻撃を受け止め、魔法エネルギーは霧散させるが、物質は弾くことしかできない、そして自然エネルギーは通過。ということだろうか」
 クレアは得たデータを教導団本部に送るととある存在に目を向ける――。
 こちらに合流をしたエリュシオンの龍騎士団。第七龍騎士団を率いているルヴィル・グリーズという人物にだ。
 彼の力――持つ、魔道書の力も必要かもしれない。
 そう考えながら、クレアは別の方向からの攻撃も仕掛けてみる。

「俺達が前に出る。だから、攻撃に集中してくれ」
 緋桜 ケイ(ひおう・けい)は、悠久ノ カナタ(とわの・かなた)と合流をし、アルマイン・マギウスに乗り込みながら、ルヴィルにそう言った。
 この場にいる者の中で、最も高い攻撃力を持っているのは、おそらく、神であり龍騎士団の副団長でもある、ルヴィルだ。
「逆の方が良いのではないのか? 我々が攻め、貴様らが背後から我々ごと撃つ。その方が都合がよさそうだが?」
 皮肉気な言葉が返ってくる。
「どこが都合がいいのかわからない」
 ケイはまっすぐそう答え。
「イコンは修理すめば済むが、龍騎士達はそうはいかぬ。わらわたちがより、前面に出るのが当然というもの」
 カナタはそう言った。
「甘いな――まあ、反対する理由はないがな」
「連携するために、龍騎士団側の作戦を教えてもらえないか? 可能な範囲でいい」
「遠距離から魔法で妨害を試みたが、効果はほとんどなかった。おそらく、あのバリアに阻まれている。魔法で物理攻撃力を上げて、バリアを発生させている箇所にダメージを与える。もしくは、バリアの内部に直接魔法を放ち、発生装置を破壊する。共に、接近せねば行えぬ。貴様らが盾となるというのなら、有効に使わせてもらおう」
「わかった。盾となり、剣となるよ」
 ケイは素直にそう言い、協力を約束する。
 ルヴィルはプライドが高そうで、嫌味な男だが、こちらから歩み寄れば協力できる人物と思われる。
「あなたは、『地』の強力な魔道書使いですね?」
 そう言ったのは、ファビオだった。
 彼は風の魔法を得意とし、エリュシオンの風の強力な魔道書と因縁のある人物だ。
「魔法は既に試みた。だが、バリアで無効化されてしまうようだ。バリアを破壊した後であれば、要塞の飛行に影響を与えることもできるかもしれん」
 ルヴィルは自身の特殊能力と、魔法で重力に影響を与えることが出来ると簡単に説明をする。
 基本的には地上から影響を与える魔法であり、高速で飛行している物体にはあまり適さない能力だとも説明する。
「わかりました。……ヴェントのような力はありませんが、俺は風魔法の使い手です。団長の代わりにサポートさせていただきます」
 ファビオはルヴィルにそう言った後、ケイに目配せをして要塞の方へと飛んでいく。
「ファビオ、無茶すんなよー」
 ケイも通信機とレーダーで状況を確認しながら、アルマインで後を追う。

 探索隊から、第1突入班、作戦開始の連絡が入る。
 浮遊要塞の砲身が上がっていき、中距離ミサイルが1発発射される。
 瞬間、探索隊が接近開始。
「穴を空ける場所はあそこだな。なるほど、バリアが薄いようだ」
 天音のパートナーブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)が、モニターに砲台を拡大して映し出す。
 砲台付近は、青いバリアの膜が、他の場所に比べて非常に薄いように見えた。
「電波の状態が悪いが、届くことを祈り、映像を送っておこう」
 天音とブルーズが乗るイコンは、情報を受発信しながら、空を飛び、要塞へと近づいていた。
「うん、イコンの援護はいらなそうだけれど、道だけは作っておいてあげないとね」
 天音は呼雪達と連絡を取り合いながら、タイミングを合わせ、能力を駆使し、絶対命中で命中精度を上げて『ちくわサーベル』を投げた。
 サーベルは砲台に深く突き刺さる。
 続いて、発射された光の弾を回避し、天音は即座に地上へと戻る。
「ゼスタごときに、先を越されるかー!」
 途中、突っ込もうとしている変熊とにゃんくまのイコンを見た天音は。
「あっ! あんな所にちくわが刺さってるよ」
 外部スピーカーを用い、大きな声で叫んだ。
「にゃッ!? チクワ!? にゃにゃッ、チクワみっけー!」
 にゃくまが照準を定める。
「ゆくぞ! 必殺、超機晶スピン!」
 変熊は真っ赤なイコンを回転させると、要塞に突撃していく。
「師匠いつも撃墜されて、回転しながら墜落してたものにゃ〜」
 にゃんくまが歓喜の声をあげる。
 そう、超機晶スピンは、その経験から会得した技なのだ。
「そういう前向きな所は勉強になるにゃ……にゃふんっ!」
 高機動型シパーヒーは、一輪の赤い薔薇が突き刺さるが如く、要塞の砲台部分に突き刺さった。
 凄まじい衝撃が2人を襲い、2人はしばし昏倒した。
「……にゃんくま仮面には、後で美味いものでも食わせてやろう」
 突き刺さっている高機動型シパーヒーを見ながら、ブルーズがぽそりとつぶやいた。