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【終焉の絆】禍つ大樹の歪夢

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【終焉の絆】禍つ大樹の歪夢

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【激戦 2】



 そんな、輸送艦の傍らで展開される戦線とはまた別に、最前線での戦いを繰り広げていたのは、リネン・エルフト(りねん・えるふと)ヘリワード・ザ・ウェイク(へりわーど・ざうぇいく)ミュート・エルゥ(みゅーと・えるぅ)ガーディアンヴァルキリーだ。
 護衛艦として倣うには、その特徴である機動力を失うこと、と、独自の遊撃部隊を展開中なのである。
「これだけの艦隊が通過できる……ってだけでも驚異的ね。この世界樹は」
 思わず、と言った調子で、『シャーウッドの森』空賊団を率いる、リネンが呟くと、ミュートも全くだとばかり頷いて、はあ、と溜息を吐き出した。
「艦の触手プレイというのは……ねぇ」
「違う」
 思わずツッコミを入れるリネンだったが、構わずミュートは「あ」と声を上げた。
「樹化イコン部隊、接近中。中型編成ですわねぇ」
 それに応じるように、続くのはヘリワードだ。
「側面から突破するつもりかな? ガーディアンバルキリー艦隊、これより迎撃に回る!」
「了解ですわぁ」
 答えて、ミュートが舵を切ると、船首を敵部隊の進路直上へと乗せるのに併せて、空賊団を率いてリネンが飛び出した。
「リネン隊、出るわよ!」
 隊長の声に、当然のように部下達も、ミュートの合図を受けながら、後へ続いて出撃していく。慣れた調子で、部下達が展開し終えるや否や、誰よりも速くリネンがイコン達の群れへと飛び込んで行った。
「私が引きつけるわ。誘い込んだところを狙って」
 その言葉に応じて、スピードを武器に撹乱するリネンの動きにつられるように、樹化イコン達が集った所で、部下達が一斉に襲い掛かり、あるいはガーディアンヴァルキリーからの強力な火力が猛威を振るって、確実に敵機を屠っていく。


 そんな彼女等とは逆に、輸送艦から離れない位置に陣取っていたのはハイコド・ジーバルス(はいこど・じーばるす)ソラン・ジーバルス(そらん・じーばるす)シアンだ。そのコクピットで、モニターの向こうに居るアールキングに向かって「本当にいい加減にして欲しいな」とハイコドは深い溜息を吐き出した。
「さっさとこういう奴倒して世界が平和にならないと、子供達が安全な暮らしできんだろーが!!」
 憤りを顕にするハイコドに、ポムクルたちが首を傾げると、ソランがその頭をちょいちょいと撫でた。
「……ポムクル、あなたが行った旅行とかお友達にお話してきていいのよ?」
 その言葉に重ねるように、少し表情を緩めて「今回みたいなのがさっさと終わって世界が平和になったら、きっと色んな所へ行ける様な装置が作れるさ」と、ハイコドは続ける。
「それまでは俺が色んな旅の話を聞かせてあげるよ。そうだ、そうなったら俺たちの里に来てくれよ。君らの技術とか喜びそうな人が多いんだ」
 だが、そんな風に和んでいられたのも僅かな間だけだ。
「! 来たわよハコ。存分に暴れなさい」
「了解」
 ソランの言葉に、ハイコドは表情を変えると、接近してきた機体を迎え撃った。
 こちらからも距離を詰め、ダブルビームサーベルで先制すると、その間に接近する別の樹化イコンを巻き込む形で、真・旋風回し蹴りを放った。吹き飛ばされた機体が再接近するより早く、その中心をサーベルが貫いていった。
 爆発音と共に落下していく機体を見ながら、近くに敵影のないか索敵する合間、ふと思い出したようにハイコドは首を傾げた。
「それにしても珍しいなソラ、いつもならこういう時下ネタ言うのに」
「……いくら私でも下ネタ言わない日位あるわよ」
 ソランは不機嫌そうに言うのに「えっ、うそだー」と思わずハイコドが漏らしたが、意図的にか本気でか聞き逃されたかと思うと「それよりねぇハコ」とその目をきらきらとさせた。
「後で戦い終わったら他の女子パイロット、ナンパしていい? あの子とかチョーエロい、おっぱいデカイ」
「やめなさい二児の母」
 結局下ネタに走るんじゃないか、と言うツッコミを心中で入れつつ、ハイコドは溜息と共に、気を取り直すようにしてモニターへと向き直ったのだった。





 そんな風に、各々が違う理由、違う態度で戦場へ赴く中。
 彼等もまた、違う意思と思いで、戦いに望んでいた。
 
「再戦はいつかあるだろうと研究は続けてきたが……お前はどうかな、アールキング?」

 シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)が呟いたのは、サビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)の駆るノイエ13のサブパイロット席だ。
 艦隊の前へ出、戦線の先端近くへ陣取るノイエ13のモニターからは、アールキングの姿が良く見える。
 エリュシオンで実際に戦った時より、一層グロテスクさを増したように見える姿に、皮肉げに口元を上げる。
「ま……奴の特徴は変わってねーなら問題ない」
 先だっての戦闘の折、アールキングについて判っていることは、その再生力の高さだ。多少抉られた程度では完全な破壊にはならず、直ぐにそれは塞がってしまう。
 ただしその再生は、所謂回復魔法で傷が塞がるという類のものではなく、その成長力によって、傷口を覆っているだけで、厳密には傷は残る。
「とはいえ……前みたいにその傷に小細工するにゃ、手数がたりねえな」
 そこは思案のしどころか、と一人漏らしていると、そこへ通信が入った。
『相手は樹だし……火炎は効かないかな?』
 清泉 北都(いずみ・ほくと)だ。こちらは、輸送艦側に機体を寄せるルドュテからの通信である。彼もまた、クナイ・アヤシ(くない・あやし)と共にアールキングと戦ったことのあるうちの一人だ。「効かないわけじゃないだろうが」とシリウスは難しい声で応じた。
「樹ではあるが、生樹だしな。エリュシオンの時でも決定打にはなってなかったし」
 多少の威力では、他の武器と大差は無いだろう。
 そう考えれば、現時点で最も有効なのは、艦隊が行っている荷電粒子砲のローテーションといったところだろうか。ただしそれはそれで、その周囲の細かな根が払えているわけではないのだが。
「まあ……考えてるだけじゃ始まらねえ、まずは邪魔な樹化イコンの殲滅だな」
 根を攻略するにしても、それを樹化イコンや樹化虚無霊が、黙って見過ごす筈は無い。そう言って、シリウスはパイロットであるサビクへと視線を向けると、その顔が頷いて見せたのに、に、と笑って戦場を見やった。
「【星】小隊、出るぜ!」
 そうして、自身を囮にしながら、部下イコンに止めをささせつつ、樹化イコンに応じていくシリウスたちの姿を、観察している暇も無く。
「敵影、接近。樹化イコンです、接触まで十一秒」
 輸送艦へ接近してくる機体をクナイが察知したのに、北都はルドュテを旋回させて、敵影に向き直った。
「さて、こっちも……頑張らないとね」
 呟き一声。
 急接近する樹化イコンの攻撃を、反転させて回避すると、翻ったマントで視界を阻害させ、一瞬で来た間で根の隙間へとすべり込む。枝に阻害されて動きが鈍った所で、ウィッチクラフトピストルでダメージを加算させた所で、接近と当時にソウルブレードをすれ違い様に急所を狙って突き抜き、撃墜させた。
 


 そんな、同時刻。

「グランツ教の全てを断罪し、浄化するしかありません。それが――聖人たる、わたくしの勤め」

 ザーヴィスチの操縦席で、エレナ・リューリク(えれな・りゅーりく)が呟くように言った。
 彼女のパートナーである富永 佐那(とみなが・さな)の駆るザーヴィスチは、艦隊の輪形陣のその隙間を埋めるべく、奮闘している真っ最中だ。
 四隻の戦艦は、輸送艦の護衛であり、内部侵攻のための矛であるが、小回りが聞くものではない。巨大な虚無霊相手には丁度良かろうが、周囲を飛び回っている樹化イコンに対しては不向きであるので、それを補うためだ。
「ここを突破される訳にはいかないからな」
 応じるように、大田川 龍一(おおたがわ・りゅういち)が呟く。
 戦線先端のシリウス、輸送艦側面の北都の、その中間に近い層に、ザーヴィスチと、龍一、天城 千歳(あまぎ・ちとせ)雷光と、笠置 生駒(かさぎ・いこま)、そしてシーニー・ポータートル(しーにー・ぽーたーとる)ジェファルコン特務仕様が展開していた。
 白兵戦への特化し、機動力に優れたサーヴィスチがその層の間を飛び回り、接近してくる敵影へ逆に急速接近をしかけては、迎撃をその機動力で回避しつつ、接触の瞬間に大型超高周波ブレードを振り払い、それで撃墜できなければ、数体を纏めて自らに引き寄せた所で、嵐の儀式による竜巻で動きを阻んだところで、その機動を確実に奪って無力化させていく。
「龍一さん、3時方向から敵イコン接近中です」 
「了解、迎撃する」
 千歳の言葉に応じて、龍一は照準の方向を合わせた。
 佐那たちのめまぐるしい機体の動きの傍らで、こちらは逆に腰を据えて位置を保ち、あらゆる機器を併用しながら索敵に意識を払い、艦隊の弾幕と、佐那の攻撃を抜けてくる敵を見定めると、ウィッチクラフトライフルとレーザーマシンガンで迎撃し、部下イコン達もそれに習う。佐那たちが動の壁なら、龍一は静の壁だ。
 そして、弾幕を張りながら、戦術データリンクへ向けて、千歳が逐一情報を更新し、同時にその情報を活用しながら、その配置の支持を受けて動くのは、生駒のジェファルコンだ。防御網の薄れた箇所へ、或いは攻撃の手の足りないところへ。身軽に飛び回っては、その「穴」を埋め、三者三様の戦いが、互いを補って連携し、輸送艦の守護を鉄壁にしていった。



 そうして――各自が各自の戦い方で奮闘することで、アールキング内部への突入は、順調かつ優勢にに推移していた。
 この時は、まだ。