リアクション
● ジェイコブ・バウアー(じぇいこぶ・ばうあー)は女房でありパートナーであるフィリシア・バウアー(ふぃりしあ・ばうあー)とエリザベート護衛の任務についていた。 もちろん、そこに特別な私情はない。 あえてあるとすれば、アールキングという存在に対する反抗心は少なからずあるぐらいだが……それとても、大した意味は持たないだろう。ジェイコブにとって何よりも大事なのは、目の前の任務だ。そしてそれはいま、エリザベートを守るという事だけに焦点が当てられていた。 「さあ、いくぞ……。フェリシア!」 「はい!」 ジェイコブとフェリシアの二人は呼応し、それからグランツ教徒達の排除に回った。 ジェイコブは己が拳を使い、軽身功や神速といったスキルで自身のスピードに加速を上乗せする。そのままグランツ教徒の胸元に近づいた彼は、鳳凰のごとき拳を打ち込んだ。それは、左右の拳による衝撃の一手だ。 吹き飛んだ敵。しかし、それに構わずジェイコブはすぐに後ろへ引き下がった。 (深追いは禁物だ……。こちらは出来ることをやるのみ……!) それが、ジェイコブの軍人としての役目であり、エリザベートを守るという任務の遂行であった。 一方フェリシアは、傷ついた仲間達の治癒をしている。 「この者を癒せ……グレーターヒールッ――!!」 癒やしの力が仲間達を包みこみ、その身に刻まれていた傷を癒していった。 そして――再び戦える。仲間達とともに、ジェイコブ達はまだ戦えると奮起した。 「センスだけで生き残れるかどうかは分からんが……、さあ、やるだけやってみようか!」 ● エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)はエリザベートの護衛についていた。 その胸中には、今回作戦に参加出来なかった御神楽 陽太(みかぐら・ようた)のことがあった。 (陽太達は、いったい今ごろ何をしているのでしょう……) 御神楽陽太と言えば、ツァンダでは有名な鉄道事業に着手した夫婦の片割れだ。一方の妻の名は環菜。彼女もまたツァンダでは有名人なご令嬢として知られていた。 二人はツァンダの御神楽邸に戻っていて、今回の作戦には参加していない。 その為、エリシアは一人で作戦に参加しなければならなかったのだが――決して、寂しいということはなかった。 「姐さん! こっちは片付きましたぜー!」 「姐さーん! 連中、どんどん湧いてくるぜー! きりがねえや!」 と、エリシアに声をかけるのは、彼女のもとに派遣されてきた傭兵団の団員達だった。 彼らは陽太に頼まれてエリシアのもとにやって来た、言わば援軍だった。 エリシアとしてもさほど寂しくないのには、こうした理由がある。 ドッグオブウォーの仲間達とともに、エリシアはエリザベート護衛の任務に全力を尽くしていた。 (…………まあ、それにしましても……) 星辰結界の力を一点に受けたユグドラシルの蔦でグランツ教徒を吹き飛ばしたエリシアは、傭兵達をちらりと見やった。 「姐さーん!? ヘルプミー! 死にそうだーっ!」 「ぎゃーす! 助けてー!」 「…………」 慕われるのはまだ良いとして、中には使えない傭兵もいるものである。 「……………………まったく……困りましたわね」 さほど困ってないような顔をしながら、エリシアは戦いを続けた。 ● 「さあ、来なさい――死者の迷い子達よ!」 そう言って、樹化したグランツ教徒達に立ち向かったのはリリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)だった。彼女はパートナーのララ・サーズデイ(らら・さーずでい)と共に、エリザベートを守る為に果敢に敵に挑みかかる。 「ハァァァァッ!!」 裂帛の声と共に魔力を紡ぐ。 「黒薔薇の魔導師、リリ・スノーウォーカーの名において命じる。来たれ! ロードニオン・ヒュパスピスタイ(薔薇の盾騎士団)よッ!」 呪文を詠唱するリリ。 すると、彼女の目の前に浮かんだのは無数の魔法陣だった。そこから、白銀の騎士団が次々に召喚される。それは召喚師(シーアルジスト)のリリだからこそ出来る、彼女特有の召喚術だった。 白銀の騎士団は雄叫びをあげてグランツ教徒達に攻めこみ、一気にその鼻っ柱を叩き潰す。さらにリリはフェニックスやサラマンダーという召喚獣を生み出し、その戦いに参加させた。 「さすがにやるね、リリ」 ララは聖騎士の槍を振るいながら、そう呟いた。 槍は近づいてきていたグランツ教徒を一瞬で斬り屠る。 「何ということはない」 リリは肩をすくめて言った。 「リリの使命はエリザベートを守る事だ。その為ならば、この身はいくらでも捧げよう」 その目に冗談の色はない。リリはいつだって本気だった。 (ふむ……。それが、足を引っ張らなければいいけれど……) ララはこれでもリリのパートナーだ。主のことは当然のように心配する。もっとも、今のリリにはそれほど必要ではなかったかもしれないが。 騎士や不死鳥といった召喚獣を操る彼女は、迸る炎のように戦場を駆け抜けた。 そしてそれを、ララは静かな目で見つめていた。 ● エリザベート直近の護衛はノート・シュヴェルトライテ(のーと・しゅう゛るとらいて)に任せ、風森 望(かぜもり・のぞみ)は不死者達の相手に回っていた。 その手に持つ武器は龍銃ヴィシャスだ。接近戦ではなく中距離からの射撃攻撃を与え、操られるグランツ教徒達を次々と撃ち抜いてゆく。そこには慈悲も情けもない。ただ、龍銃が宿すナラカの瘴気だけが、グランツ教徒達を葬り去っていた。 「闇を持って闇を祓う。そうすることが、今のあなた方には最良の方法なのかもしれませんね」 と、望は言う。銃口の定める先が、グランツ教徒達を的確に射貫いていた。 そして、ノートは―― 「…………」 そんな望の様子を見ながら、エリザベートからは離れずにいた。 近づく敵には無論、戦いを挑む。そこには望と同じく、容赦はない。しかし、覚悟が決まっているかと問われれば、どうかは自分では分からなかった。 「さあ、行きますわよ! このシュヴェルトライテ家当主、ノート・シュヴェルトライテが先陣を切ります! 皆様、それに続くのです!」 口ではそう言いながらも、しかし――。 ノートには死したグランツ教徒達さえも取り込んで戦うアールキングへの怒りがふつふつと湧き上がっていた。それは同時に、目の前を遮るグランツ教徒達への攻撃の逡巡に繋がる。一瞬の躊躇。が、ノートはそれを振り切った。 (悪いですが……いかせていただきます……!) 煌剣レーヴァテインと刻月のアイオーン。 二振りの剣がグランツ教徒の身を切り刻み、一瞬にして肉片へと屠る。すでに肉体としての素は失われていたのだろう。無へと消滅してくれることだけが、何よりの幸いだった。 (戦いますわ、わたくしは……。この先にきっと、道があることを信じて……!) ノートは一人、心の中でそう誓った。 ● 「エリザベート校長の出番は最後に! 今は僕らに任せてさがっていてください!」 そう言った湯上 凶司(ゆがみ・きょうじ)は前に出て、パワードスーツ姿のネフィリム三姉妹と合流した。 今回の彼の役目は、彼女達の指揮と後方支援だ。 バックアップ用の装備に身を包んだ彼は、ネフィリム三姉妹の後ろへついた。彼女達のパワードスーツは広報用の派手な装飾と装備に換装されている。というのも、敵の目を引きつける囮役を演じる為であった。 「エクス! ディミーア! セラフ! いけるな!?」 三姉妹へと声を張る凶司。 エクス・ネフィリム(えくす・ねふぃりむ)、ディミーア・ネフィリム(でぃみーあ・ねふぃりむ)、セラフ・ネフィリム(せらふ・ねふぃりむ)――という名の美人三姉妹は、彼のその声に応じた。 「もちろん! ボクらを誰だと思ってるの!?」 「前座は任せなさい。ここは私達が役目を務めるわ!」 「ま、凶司ちゃんに言われなくても、やっちゃうけどねぇ〜」 三種三様――それぞれに、個性の溢れる少女達である。 パワードスーツ姿の三姉妹は、一気に中空を駆け抜けてグランツ教徒達のもとに向かった。 その手にはそれぞれの武器がある。パワードスーツ用のランスを装備したディミーアは、武器と敵との相性が悪いことをすぐに見抜き、引きつけ役に従じた。 そのする後で、エクスとセラフが攻撃に転じる。ディミーアに引きつけられたグランツ教徒達へ、一気に接近した。 「いっくよーっ!!」 ギロチンアームを装備したエクスが、根ごと敵を粉砕する。 それから間もなくして―― 「さあ、みんな、どきなさい! 死にたくなければね!」 セラフがレーザーライフルの照準を合わせた。 「きゃあぁぁ! セラフお姉ちゃん、過激〜!?」 「ちょっとセラフ!? まっ――」 「食らいなさい! 発射あぁぁぁッ!」 ディミーアの声を待たず、セラフはレーザーライフルを射出した。 直線上に飛んだ光線は一気にグランツ教徒達を粉砕する。しかし同時に、周りも巻き込みかねない被害になっていた。 「セラフ、あんたね〜……!」 ぷすぷすと頭から焦げ付いた匂いを漂わせるディミーアが言った。 「ちったぁ手加減ってものをしなさいよ! こっちまで死んだらどーすんの!?」 「あらぁん、その時はその時でしょぉ? ふふん」 妖艶な笑みでディミーアの言葉をかわすセラフ。 「あわっ……あわわわっ……」 エクスがそれを止めようとしているが、どうにも間に入れずにおろおろしていた。 (まったく、あいつらは……) 凶司はそんな三姉妹の様子に呆れた様子である。 これでは先が思いやられる……。そう思って、凶司は静かにため息をついた。 ● やがて戦いも終盤に近づくと、少なくなったとは言えグランツ教徒達と虚無霊達とが群がるようになってきた。エリザベート達はそこで決断を迫られる。 このままここで時間を食うわけにもいかない。いまこうしている間にも、アールキングは邪悪な力を蓄えつつあるのだ。それを何としても阻止せねば……―― 「みんな……! ここは私達に任せて、先に行って!」 そこで仲間達に叫んだのは、プロレスを得意とする肉弾戦主体の少女、桜庭 愛(さくらば・まな)だった。そしてそのすぐ隣には、ドクター・ハデス(どくたー・はです)の姿がある。彼は愛と共に自らの悪の組織、秘密結社オリュンポスの戦闘員達を指揮して敵の掃討にかかっていた。 「フハハハ! エリザベートよ! ここは先に行け! 護衛は十六凪とカリバーンに任せてやる! 不本意だが、世界征服の為にはアールキングの排除は不可欠! 奴を倒す力のある貴様に、先に行かせてやらねばな! ハーッハッハッハッ!」 ハデスはそう言って、高らかな笑い声をあげる。 そんな彼を無視して、エリザベートは愛に視線を投げかけた。 「愛!? でも、あなた達を置いていけないですぅ……!」 エリザベートはそう言って引き留めようとする。 が、愛はそれを拒んだ。彼女は笑みを浮かべたままグランツ教徒達と対峙し、エリザベートに振り返った。 「いいのよ、エリザベート。あなたはアールキングを倒すために必要な人……。それに、みんなにとっても、これからの未来にとっても、必要な人なんだから……」 「愛…………で、でもですぅ……」 「いいから! 早く行って!」 愛は叫んだ。と、同時にグランツ教徒が接近してくる。 がっしと、彼女はプロレス仕込みの体術で勢いよく組み合った。 「ここであなたがやられたらどうするの!? いま大事なのは、アールキングを止めること! あいつの野望を止めることよ! さあ、早く!」 「…………」 「……エリザベート様、行きましょう」 ナナがエリザベートの肩を掴んで、囁いた。 そして、エリザベートは涙をこらえ、決死の表情で愛に背を向けた。 「必ず……必ず戻ってくるですぅ……。だから、愛……! 死ぬんじゃないですよぉ!」 そう言い残して、エリザベート達は去ってゆく。 その後ろ姿を見送って、愛は笑みを浮かべた。 「ふっ……。あそこまで言われたら、負けるわけにはいかないわよね!」 「そうとも!」 ハデスはエリザベートに無視されたのも気づかず、ニッと笑った。 「この世界は我らオリュンポスのものとなるのだ! それまでは、決して負けるわけにはいかーん!」 まったくもって愛達の目的とは似ても似つかないが、今はなぜかその自信満々の彼の様子がたくましく見えた。 「……ま、いいわ。頼りにしてあげる」 愛はそう言って、ハデスに笑みを向ける。 それから彼女は勢いそのまま、がっちとつかみ合っていたグランツ教徒を投げ飛ばした。 プロレス仕込みの戦いの構えを取る。ハデスとその部下の戦闘員達も構えを取り、敵を一歩も前に進ませないとばかりの鉄壁を作った。そして、愛は気合いと共に言い放った。 「さあ、どっからでもかかってきなさい!」 |
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