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【終焉の絆】禍つ大樹の歪夢

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【終焉の絆】禍つ大樹の歪夢

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【決戦、アールキングVS契約者】3

 桜庭愛を残して来たことは気がかりではあったが、エリザベート一行はなんとか腐死体達の猛追を退け、先へ進むことに成功した。もっとも、まだ先は長い。確実に核には近づいているとはいえ、油断は禁物だった。
 そんなとき、ダリルに声をかけたのはウォーレン・アルベルタ(うぉーれん・あるべるた)だった。
「ダリル、ちょっといいか?」
「ん? あ、ああ……構わんが……」
 ウォーレンは他人の痛みがよく分かる男だった。
 それはあるいは、戦い方にも活かされているのかもしれない。少ないながらも精鋭を集めた10名余りの部下を指揮する彼は、戦闘の際にもよく支援に回っていた。
 破壊工作、爆破はお手のものだが、それと同時にエリザベートの護衛をよく務めた。
 ジュノ・シェンノート(じゅの・しぇんのーと)と組むのもその要因である。ジュノはウォーレンの癖や目的意識をよく分かっている。その為、彼の的確な指示をさらに堅固なものに変えているのだった。
 そんなウォーレンが声をかける。
 その事自体がダリルには、多少の驚きを含んだものだった。
「それで? いったい、何の用なんだ?」
「ん……、ああ、いや……。ちょっとな……。聞きたいことがあっただけなんだ」
 ウォーレンは少し切り出しにくそうに鼻の頭を掻いた。
「あれから……あいつとちゃんと接してるかどうかをな……」
「あいつ? ……ああ……父さんのことか……」
 ダリルは目を細めて、思い出すように上を向いた。
 それはウォーレンにとっても、その他の仲間達にとっても驚くべきことだった。あのダリルが“父”と自然に呼んでいる? まさかと思って、目を丸くして見ていた。
「…………」
「そんな不思議そうな目で見るな。俺だって父の事ぐらいはちゃんとそう呼ぶさ」
「いや、まあ……これまでがこれまでだったからな……」
 ウォーレンは苦笑する。と、ダリルは今度は代わりと言わんばかりにじろっと見返した。
「それより、お前はどうなんだ?」
「俺か?」
「ちゃんと会いに行ってやれよ? それも親孝行なんだ」
 今度はこの台詞である。まったく、人は変われば変わるものだ……。
「ま、そうだな……。会いにはいかねえけど、手紙ぐらいは送ってるよ」
 ウォーレンは誤魔化すように笑いながら言った。
 それから彼はダリルと別れ、ジュノと合流した。
 ジュノは慈しむような微笑を浮かべている。それを見て、ウォーレンは眉をひそめた。
「…………なんだ?」
「いえ、あなたも、素直ではないと思いまして。――他人のことは言えないのでは?」
「ほっといてくれ。俺は俺のペースがあるんだよ」
 ひらひらと手を振って、ウォーレンはジュノを置いて先に行ってしまう。
「まったく……どちらも同じですね」
 ジュノはそう言って、小さなため息をついた。



 エリザベートを守るのは直近の契約者達に任せ、水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)マリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)は先に通路を先行して敵の排除に努めていた。
 もちろん彼女らだけというわけではない。ゆかりには30名余りの部下がいて、かつポムクルさん達という小さな心強い味方もいた。そのポムクルさん達はイーダフェルトに残っているような技術系のポムクルさんではなく、戦闘系――つまり、銃撃や偵察を得意とするポムクルさん達だった。
 そんな彼らとともに、罠や伏兵の存在に注意を払いつつ、ゆかりとマリエッタは先に進む。
 と、異変に気づいたのはその時だった。
「――来るッ!」
 マリエッタが叫び、ゆかりと部下達は一斉に飛び退いた。
 するとそこに、影が躍り出て、強烈な破砕音が響いた。それは人間とは思えないパワーで地面を穿った一撃によるものだ。斧や剣、それぞれに特有の武器を持ったそいつらは、アールキングの根に取り込まれてすっかり樹化していた。
「これは……、グランツ教の教徒達……!?」
 マリエッタが驚いた。ゆかりもそれに同意を示すよう頷いた。
「間違いないですね。どうやら……アールキングによって身体を乗っ取られているようです。もっとも、肉体そのものはすでに死に至っているようですが」
 そう。それらはすでに戦いによって息絶えたグランツ教徒達の遺体だった。
 言わば、アールキングによって生み出された腐死体(ゾンビ)とでも言おうか。身体中に根を張ったそいつらは赤い眼光を鋭く光らせて、ゆかり達を見据えてくる。
 そして――
「グガアアァァァァッ!!」
「!?」
 一瞬のうちに飛びかかってきた。
「くっ、戦闘準備! ポムクルさん達、銃撃をお願いします!」
「な、なのだ〜っ!」
 ゆかりが素早く指示を出すと、部下達とポムクル銃撃隊が一斉に射撃を開始した。
 銃弾の雨は一気に腐死体の身体を貫いてゆく。もちろん、それだけで一掃は無理だ。ゆかりとマリエッタもそれぞれ拳銃を構え、銃弾を撃ち込んだ。
「ガァァァァッ――――!」
 絶叫ともつくような悲鳴をあげて、倒れてゆく腐死体達。
 そうしてやがて、戦いを終えた頃には。辺りに無数のグランツ教徒達の死体が転がっていた。
「…………」
 あまり気分のいいものではない。ゆかりは顔をしかめる。
 幸いなのは、その腐死体がすぐに霧のようになって消滅したことだった。すでにアールキングに囚われた時点で、瘴気の塊のような存在になっていたのだろう。彼らの冥福を祈りつつ、ゆかりとマリエッタは銃をホルスターに戻した。
「カーリー……、大丈夫?」
 心配そうに声をかけるマリエッタ。
「ええ、大丈夫ですよ、マリー。ちょっと、混乱しただけですから」
 ゆかりはそれに笑顔を返して、うんっと自分をうなずかせた。
「それじゃ皆さん。気を取り直して、進みましょうか」
 部下達はゆかりの後に続き、更なる奥を目指して歩きはじめた。



「ふむ……。こっちも通路は遮断されてるってわけなのね」
 と、呟きながら歩く、一人の妖艶な美女がいた。
 いや、それは美女というよりはスポーティな美しさを保った美少女と言ったほうが正しいかもしれない。メタリックブルーのビキニにコートを羽織るだけという、およそその場には似つかわしくない姿をした少女が、籠手型HCから表示される地図を手に、一人静かに歩いているのだ。
 その名は、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)。エリザベート達よりも先にグランツ教本部に侵入し、ルート確保に努めている少女だった。
「通路が遮断されてるってことは、それだけ構造がややこしくなってるってことかしらね」
 セレンフィリティのすぐ傍にやって来た美女がそう言った。
 こちらは、セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)。セレンフィリティのパートナーにして、恋人でもある娘だ。こちらもセレンフィリティほどではないが、目の保養になるレオタードタイプのシルバー色の水着を着用していた。
 どうやら、一人だというのは間違いだったらしい。
 セレンフィリティ達には20名余りもの部下がいた。彼らはセレンフィリティ達の格好に意識を奪われながらも、なんとか軍人らしく辺りの警戒に気を配っている。それぞれの役目はセレン達が排除した根の回収と撤去だ。氷属性の攻撃で根を凍結させて切り刻んだセレンは、その残骸を邪魔にならない場所に運ぶよう、部下達に指示していた。
 まあ、何故か――その中には工作用ポムクルさん達もいたが。
「捕まったのだー」「強制労働なのだー」「ひどいのだー」
 どうやら、勝手に本部内をうろついていたところをセレンフィリティ達に見つかったらしい。
 もっともそのおかげで星辰結界の力が増幅されているのだから、棚からぼた餅というか何というかだった。
「!?」
 と、その瞬間。
 セレンフィリティとセレアナは同時に機晶兵が接近していることに気づいた。
「セレアナ!」
「ええ!」
 とっさの判断で二人は背中越しに分かれ、戦闘に入る。
 セレンフィリティは分身と共に加速をつけ、影の自分と同時に大剣を振るった。そして、セレアナはリターニングダガーを放っている。
「ギギッ、ガガッ――!!」
 機晶兵の姿を視認したところで、二人は一気に距離を詰めて仕留めにかかった。
 ダガーと大剣による一閃を受けた機晶兵は、動きが鈍っている。その隙に、セレアナは雷霆の拳と呼ばれる電光のごとき拳を放った。
「グイイイィィンッ!」
 絶叫をあげる機晶兵。そして、セレンフィリティが大剣でその身を一刀両断した。
「ハアァァァァッ――!!」
 ズシュッ、と叩き斬られる機晶兵。
 そして次の瞬間には、鈍い機械音を立てて、機晶兵はぷしゅーっとくずおれた。
「ふうっ……」
 息をつき、大剣をもとの鞘に戻すセレンフィリティ。
「やったわね、セレン」
 彼女はセレアナと笑みを交わし合い、それからポムクルさん達のほうを振り向いた。
「………………」
「……なにを震えてんのよ? あんたたち……」
 ポムクルさん達はガクガクブルブルと震えていた。
 その胸中には――
(この人達には一生逆らわないでいるのが懸命なのだ……)
 というような思考が見え隠れしている。
 もっとも、その事が分からないセレンフィリティとセレアナは、お互いに顔を見合わせて首をかしげるばかりだった。