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こどもたちのおしょうがつ

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こどもたちのおしょうがつ
こどもたちのおしょうがつ こどもたちのおしょうがつ

リアクション


○     ○     ○


「家には一度に全員入れないしな。鍋と材料持ってきたぜ」
橘 カオル(たちばな・かおる)が、鍋と携帯コンロ、ガスボンベやまな板、ペティナイフをもってテントに現れる。
「ありがとう。子供達が近づかないように注意してね」
「もちろん」
 テントを管理してる恋人の李 梅琳(り・めいりん)にそう答えて、カオルはさっそくお汁粉を作り始める。
「この中では暴れたらだめよ? 悪戯した子は外にぽ〜んと放り投げちゃうからね?」
「はーい」
「わかった」
 梅琳の言葉に、子供達は元気に答えるけれど、すぐに走り回ろうとしたり、ストーブの上のおもちや、カオルが作るお汁粉に興味を持って近づいていく。
「御餅焼けたかしら。みんなは座ってまっててね」
 梅琳はストーブの上のもちを、箸でとって紙皿に乗せる。
「本当は前日から準備できたらよかったんだけど、今回は缶詰だなー」
 子供達を見ながら、カオルは微笑みを浮かべる。
「あ、メイリン。そのままじゃちょっと大きいから、子供サイズに切ってくれるか?」
「そうね。焼く前に切ればよかったわね。気づかなくてごめん」
 梅琳はナイフで餅を小さく切っていく。
 カオルは小豆の缶詰を水で溶いて、砂糖と塩で味付けていき、味見をする。
「あまいにおい」
「おなかすいたー!」
「たべたいたべたい〜」
 子供達はわきゃくわきゃ2人の元に集まってくる。
「めーりんせんせー、これもやいて、やいてーっ!」
 くいくい、梅琳の服の裾を引っ張っているのは、外見4歳のさちこちゃん(宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ))だ。
 もう一方の手には、干し芋を持っている。
「はいはい、順番に焼いていきましょうねー」
 梅琳はさちこちゃんから干し芋を受け取って、御餅と一緒に並べて、ストーブの上で焼いていく。
「おいしくなれなれ、おいしくなあれ〜」
 さちこちゃんはストーブを見ながら、わくわく待つ。
 周りには、自分と同じくらいの年の子供達が沢山いて、それもすっごく嬉しかった。
「わたしひとりっこだからなんだかきょーだいができたみたいでうれしいな。みんなでいっしょにおしょくじだね」
 だけれど、隅の方にぽつんと立っている小さな男の子が一人、いる。
「……もうすぐできるよ。おしるこおいしいんだよ!」
 さちこちゃんはその子に近づくと、腕を引っ張ってストーブの方に連れてきた。
「あー……ふふっ」
 その子が金 鋭峰(じん・るいふぉん)であることを知っている梅琳はくすりと笑みを浮かべる。
「できたぞー。ゆっくり噛んで食べるんだぞ? いつもように上手くは噛めないだろうからな」
 カオルが出来たてのお汁粉を使い捨てのカップに入れて、子供達に配っていく。
「はあい」
 さちこちゃんは元気にお返事をして、受け取ったお汁粉を、まずるいふぉんくんに差し出す。
「……」
 るいふぉんくんは不機嫌そうな顔だったが、何も言わずに受け取って両手でカップを包み込む。
 手がとても冷たくなっていたようだ。
「それじゃ、いただきます。……いただきますっていうんだよ?」
 さちこちゃんはもう一つカップを受け取って、お汁粉を食べ始める。
「……いただきます
 小さな小さな声で言って、るいふぉんくんも食べ始めるのだった。
「干し芋も食べごろよー」
 梅琳が干し芋を紙皿にとってくれる。
「ありがと、めーりんせんせー」
 皿を受け取ると、さちこちゃんはるいふぉんくんや皆に、美味しいよ食べて食べてと配りまわっていく。
 一通り配り終わった後、自分ももぐもぐ食べながら、さちこちゃんは皆の世話をしている梅琳を見上げる。
 それからまた、さちこちゃんは梅琳の服の裾をくいくい引っ張ってみた。
「ん? どうしたの?」
 優しい顔を向けてくれる梅琳を見て、さちこちゃんは、とっても甘えたくなってしまう。
「……なんだかめーりんせんせーおかあさんみたい」
 さちこちゃんのお母さんは、既に他界してしまっているから……。
「今だけおかあさんて呼んでいいですか?」
「うん、いいわよ〜」
 そう言って、梅琳はさちこちゃんを抱き上げて、頭を撫でてあげる。
 さちこちゃんは嬉しそうに笑みを浮かべた後、手を伸ばして今度はカオルの服を掴む。
「カオルがおとうさん?」
「……えっ!?」
 御餅を切っていたカオルはちょっと驚いて梅琳の方に目を向ける。
 梅琳はさちこちゃんを抱き上げたまま、にこにこ笑みを浮かべていた。
「ええっと、いきなりとーちゃんかーちゃんって呼ばれたらちょっと照れるぞ……まだそんなことまでかんがえてねーっていうか、いやそのうちもしかするとだけど、いやいや」
 そんなことを言いながら、カオルは梅琳から、さちこちゃんを受け取った。
「ちょっとこっちで話しようなー」
「うん。このこはおとうとだね」
 さちこちゃんはお汁粉を飲んでいたるいふぉんくんの腕をぐっとつかむ。
「い、いいいや、えっとな……そ、その方は、と、とても息子とは言えないというか、あ、嫌なんじゃなくてな、お、畏れ多くてな」
 るいふぉんくん――2歳児に睨まれ、カオルはたじたじだった。
「ここにいるっ」
 さちこちゃんの手を振りほどいて、るいふぉんくんはテントの隅っこの方に戻っていく。
 そしてまた、口をぎゅっと結んで、一人でテントの中を睨むのだった。
「ん? どうしてそんな顔をしてるのかな……?」
 テントの中に入ってきた外見6歳のととちゃん(大岡 永谷(おおおか・とと))が、そんなるいふぉんくんに近づく。
 ととちゃんは、ちょっとボーイッシュだけれど、大和撫子風な女の子だった。
「んーと……」
 小さいのに、すっごく目つきが悪い子だなあと、不思議に思いながら、ととちゃんは屈んで、るいふぉんくんと視線を合わせる。
「せっかくだから、お外で遊びましょう? 小さな子もたくさんいるし、みんなでゆきがっせんできると思う」
 るいふぉんくんは、首を左右に振る。
「ゆきの玉を投げ合ってあそぶんだよ。ちょっと冷いかもしれないけれど、うごいているうちにあたたかくなるよ?」
 それでも、るいふぉんくんは首をぶんぶん左右に振る。
「大きな子もいるからこわいのかな? いっしょにいるからだいじょうぶだよ」
「やだっ」
 眉をぎゅっと寄せて、強情にるいふぉんくんは拒み続ける。
「どうして外に出たくないのかな……?」
 ととちゃんがそう聞くと、るおふぉんくんは考えて考えて、こう言葉を発した。
「まけるのやだ。よわいの、やだっ」
 自分がちっちゃくて非力であることが、嫌らしい。
 やられてもやりかえすことが出来る力がないことが、わかっているようだ。
「どーしたの」
 外見4歳のけんくん(金住 健勝(かなずみ・けんしょう))も、るいふぉん君に近づいて、腰を落とした。
「ねー、それじゃ、ここでいっしょにあそぼうかー?」
 けんくんは、遠い昔、幼稚園で、年上の子は、年下の子の面倒を見るようにと教えられたことを思い出していた。
「ひとりがいいっ」
 ぷいっと、るいふぉんくんは顔を背けた。
「どおして? みんなとあそばないの?」
「あそびたくないもん」
 るいふぉんくんの答えに、けんくんはちょっと考えた後、こう言った。
「でもぼくはあそびたいから、ぼくとあそんでよー。ひとりでもあそべるけどさー、ひとりだとあそべないのもあるもん」
 そして、けんくんはるいふぉんくんの手を取った。
「ぼく、ゆうがたになったらおうちにかえるし。おうちだとぼくひとりになっちゃうからあそべないもん。ねー、いっかいでいいからさー、あそぼうよー」
「……うー……」
 じぃぃっとるいふぉんくんは、けんくんを見る。
「サイコロをころころっとまわして、でたかずだけこまをすすめるゲームなんだよ。るいくんにはちょっとむずかしいかもしれないけど、ちゃんとおしえてあげるよー」
「じぶんでできるっ」
「そっか、それじゃたいけつだー」
 けんくんはるいふぉんくんの手を引いて、シートが敷いてある場所まで連れてきた。
 そして、地面にすごろくを広げると、ととちゃんや、近くの子供達にも声をかけて、一緒に遊んでいく。
「え……と、いっぱい、でた!」
「5だね。5こすすめるよ、いち、に、さん、し、ご〜」
 るいふぉんくんは、数がよくわからないようで、一人ではちゃんと遊ぶことが出来なかった。
 でも、ちゃんとけんくんがサポートしてあげていた。
「私は2。残念です」
 そういいながらも、微笑んでととちゃんは駒を進める。
 るいふぉんくんはなんだか満足気な笑みを浮かべて、体をちょっと揺らしながら自分の番を待っている。
「はい、次……えっと、あなたの番だよ。そういえばお名前聞いてなかったよね。私はととっていうんだけど、あなたの名前は?」
 ととちゃんがサイコロをるいふぉんくんに渡しながら、名前を尋ねる。
「るーほ」
 そう答えて、るいふぉんくんは、サイコロをころころっと転がした。
「るーほくんですか……ん? なんか知り合いにそんな名前の人がいたような」
 ととちゃんが小首を傾げて考え込む。
 だけど、あとで考えればいいやと思って、今はゲームを楽しむことにした。
「3だね。いち、に、さーん、ここでストップだよ〜」
 けんくんがるいふぉんくんの手をつかんで、一緒に駒を進めてあげる。
「もいっかい、もいっかい!」
 るいふぉんくんには、すごろくもよくわかってないようだが、サイコロを振るのは楽しいようだ。
 そんな時。
「このような善き日和に引き籠っておるのか! 上に立つひとかどの士(もののふ)になるのであれば心身の研鑽を怠る事勿れ、叶わぬのなら下々の者は付いては来ぬぞ!」
 突如、テントに大きな声が響く。
 子供達が不思議そうに目を向けたその先に、流鏑馬装束を纏った外見8〜9歳くらいの少女――ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)のパートナーのきくちゃん(上杉 菊(うえすぎ・きく))の姿があった。
「準備は出来ている。ゆくぞ!」
 きくちゃんはつかつかとるいふぉんくんに近づいて、そのちっちゃな腕をつかんだ。
「ここにいる! ここにいる!」
 るいふぉんくんは抵抗するけれど、きくちゃんの力に全く敵わない。
「……まあ、大丈夫でしょう」
 梅琳も止めはしなかった。
「ぼくがちゃんとみてるから!」
「わたしも行きます」
 けんくんとととちゃんは2人についていくことにする。

 きくちゃんは、るいふぉんくんを連れ出して、馬に乗せた。
「あぶないよ……だいじょうぶかな……」
「大人の人、よんできたほうがいいかなぁ」
 けんくんとととちゃんがはらはら見守る中、きくちゃんは見本を一度見せた後、るいふぉんくんを前に乗せて、流鏑馬を教えようとする。
「そちは中原の出であろ? なれば孫子の風林火山くらいは知っていよう。『其疾如風(速き事・風の如く)其除如林(静かなる事・林の如く)侵椋如火(侵略する事・火の如く)不動如山(動かざる事・山の如し)』じゃ。流鏑馬も正に是に同じ。馬を駆る事疾風の如く心鎮め矢を番える事林の如く、矢を射る事火の如く、馬を御して泰然と構える事山の如く。そちなら出来ようぞ!」
 ほとんど棒読み状態で、習いたての知識を受け売りするように、きくちゃんはるいふぉんくんに語っていく。
 るいふぉんくんは何のことだか全くわからないらしく「おりるおりる」とだけ言っていた。
「やってみよ!」
 きくちゃんはるいふぉんくんに弓を持たせて、流鏑馬をさせようとするが、るいふぉんくんは首を左右に振る。
「たとえ体は縮もうが、根性は備わっているのだろ!」
 それでも叱咤激励を続け、きくちゃんは指導をしていく。
「うう……っ!」
 きくちゃんに支えられつつ、なんとかるいふぉんくんは矢を射ることができた。根性はあるようだった。
 でもやっぱり2歳児には流鏑馬はかなりキツかったらしく、その後るいふぉんくんはぐったりしてしまう。
「ちっちゃいこにむりさせたらだめだよー」
「やっと歩けるようになったばかりだと思いますし」
 そうけんくんとととちゃんが言うと、子供とは思えないキツイ目で「へいき。かんたんだった」と、るいふぉんくんは2人を睨んだのだった。
「おうちでやすもうか。おひるねしたら、げんきもどるよ!」
 気にせず、けんくんはるいふぉんくんについていてあげることにする。
「おいしいものもあるとおもうよ」
 ととちゃんも、るいふぉんくんと手をつないで歩き出す。
「幼すぎたか……」
 きくちゃんは再び馬に乗りながら、るいふぉんくん達を見守る。
 ともあれ、きくちゃんの指導は、るいふぉんくんの印象に残っただろう。

「う……ん、ねむくなってきちゃった」
 お腹いっぱいになったさちこちゃんも、テントで目をこすっていた。
「それじゃ、そろそろ片付けて、ログハウスでお昼寝するか」
 カオルが火を消してテントの中を片付け始める。
「めーりんおかあさんもいっしょ?」
 さちこちゃんが梅琳に尋ねる。
「そうね、一緒におねんねしようか」
「うん! カオルおとうさんもいっしょ」
「あー……うん、川の字になって休もうか」
 カオルは少し照れながら、ちらりと梅琳を見てそう言う。
「やった、わたしまんなか。るいふぉんちゃんもいこー! 4にんでならぶのー」
「そ、それはどうなんだろう!?」
 さちこちゃんの言葉に、カオルはかなり焦る。
 団長が隣って……目が覚めた時が怖すぎだッ!
「楽しそうね。大物のお母さんになれて、嬉いわ」
 梅琳はくすくす笑みを浮かべていた。