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ダークサイズ「蒼空の城ラピュマル」計画・前編

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ダークサイズ「蒼空の城ラピュマル」計画・前編

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 エリュシオンへの旅。
 出発の準備はどんどん進む。
 ダークサイズの大総統・ダイソウ トウ(だいそう・とう)も、出発のために館の階段を降りてゆく。
 すっかり頼もしい存在となったダークサイズ幹部や協力者たちは、ダイソウと歩きながら様々な確認事項を打ち合わせてゆく。
 まずダイソウの両脇を固めて進むのは、ダークサイズの秘書チーム宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)クロス・クロノス(くろす・くろのす)
 クロスは用意した書類を見ながら、

「大陸に渡った後、陸路での移動手段は確保しています。長旅ですし、物資の運搬も今回かなりあります。シャンバラ大荒野などの道の無い経路も多いですから、私が手配した限りでは馬車移動になります。かまいませんね?」
「うむ。故障などのタイムロスは、私としても避けたいところだ。それでかまわん」
「大総統はやはり……」
「うむ。私はコクオウゴウでゆく」
「分かりました。結構です。結和さん、そういうことですので、よろしくお願いしますね」

 と、テキパキと確認と書類の記入をしながら、大して用もないのにダイソウについてまわるエメリヤン・ロッソー(えめりやん・ろっそー)と、その隣の高峰 結和(たかみね・ゆうわ)を振り返る。
 パラミタ大陸横断にすっかりわくわくしているエメリヤンに、結和はさすがに心配そうに、

「うーん……エメリヤン、ホントに大丈夫?」

 と聞くが、エメリヤンは目を輝かせて、こくこくと頷くのみ。

「普段鍛えてるから心配ないって……エメリヤン、ほんとー?」

 結和はまだ不安げだが、クロスはエメリヤンの承諾も得たことだし、問題なしと判断する。

(では、私は野生モンスターの警戒も兼ねて、空飛ぶ箒で並走することにしましょうか。やれやれ、馬車の幌でゆったり、というわけにはいきませんね。紫外線対策もしておかねば)

 クロスは自分のお肌の管理も怠らない。
 ダイソウがふと思い出したように、

「クロスよ。馬車の費用は大丈夫なのか?」

 と、おそらくかなりの金額になるであろう、馬車のレンタル費用を確認しようとするが、

「え、なんです?」

 クロスは何故か聞こえないふりをする。

「いや、馬車の費用は……」

 ダイソウがもう一度聞こうとするのを、今度は祥子が遮って自分の提案事項を確認する。

「ねえダイソウトウ、あなたカナンはどう考えてるの?」

 エリュシオンへ向かう際、経由地となる北カナン。彼女は今回、カナンに強く思いを馳せている。
 ダイソウは考えながら、

「ふむ……あくまで目的はラピュマルだ。私はカナンの情報は持っていないからな……」
「悪の秘密結社の旅の目的が買いものだけなんてダメよ。あそこは今荒れている。ついでにネルガルあたりをやっつけちゃえば、ダークサイズのネームバリューもはね上がるわ」
「それは確かにカッコイイな……カナンに近づいてから判断するとしよう」
「ま、いいわ。カナンに着くころ驚かせてあげる」

 と、祥子はとりあえずここまで聞いておけばよかろうと、階段を先に降りて去っていく。


☆★☆★☆


 ダイソウ達が館の一階に着くころ、永谷とグランは、ダークサイズのいじり攻撃にへこむ向日葵を慰めていた。
 ダイソウに最初に気付いたのは永谷。

「むっ、ダイソウトウ」

 打ち合わせ用に大総統の館を間借りしているにもかかわらず、やはり永谷はダイソウに厳しい目を向ける。
 それに合わせて、向日葵はいつもより3割増しで憤りの目をダイソウに向ける。

「あっ、ダイソウトウ」
「来ておったか。魔女っ子サンフラワーちゃん」
「だーかーらー! それやめてよっ! あなたが適当に名前つけるから、乗っかってくる子が出てきちゃったじゃないの!」
「しかし気に入っておるようだな。名札を付けているではないか」
「だからこれは違うっ」

 向日葵は慌てて、明日香につけられたネームプレートを裏返す。
 彼女がダイソウにツンツンするのを見て、毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)はとことこと向日葵に歩み寄る。

「もはや良いではないか。ダークサイズに入ってしまえば」

 大佐は単刀直入に向日葵をダークサイズに勧誘する。

「冗談じゃないわ」

 と、向日葵は当然拒否。
 大佐はダイソウに向き直り、

「どうであろう、ダイソウトウ。我は彼女はダークサイズに入ってもいいと思うのだが。すでにここカリペロニアにも、自由に出入りしているようであるし。ダークサイズにとっても害はあるまい? それに、この札にもダークサイズ(仮)と書いてある」

 と、大佐は向日葵のネームプレートを表に返す。

「だから違うってばっ。明日香って子に勝手に付けられたの」
「違うならなぜ外さぬ? そのまま付けておるということは、ダークサイズ入りにまんざらでもないということであろう」
「堅くて取れないんだってば」
「人が取りつけたのなら、外せぬ道理はあるまい」
「じゃああなたが外してよ」
「我にそんな義理はない」
「ひどい!」

 表情には出さないが、大佐はすっかり向日葵いじりを楽しんでいる。
 大佐は少し真面目に誘い文句を言ってみようと思い、

「ダークサイズにはすでに広報担当がいるようだが、やはりレポーターの層を厚くすべきであろう。我は秋野向日葵の力を生かすには、空京放送局よりダークサイズが打ってつけだと思うぞ」
「やだよ、そんなの!」

 大佐のプレゼンに、ダイソウもうなずく。

「それは私も同感だ。私はお前の特派員としての能力は買っている」
「え、そうなの? あなた、あたしのリポートって見たこと……」
「うむ。ない」
「ないのかよ! どうやって判断したの!」
「はいはい、じゃあこうしようよ」

 と、そこにダークサイズのスポンサー、空京たからくじの茅野 菫(ちの・すみれ)が割って入る。

「今回も空京たからくじがスポンサーにつくことにしたよ。旅番組ならオーディションなんかより視聴率とれそうだしね。そういうわけで秋野向日葵、あんたこの番組のリポーターやって」
「え、ええっ!! なんであたしがそんなこと……」
「ふうん。ならいいけど、あんた旅費の準備とかできてんの?」
「……えっ」

 どきりとする向日葵。
 その反応に、むしろ永谷とグランが驚く。

「え、ちょっとサンフラワーさん、もしかして……」
「何も準備せずに今日来とったんかい……どうりで身軽じゃと思ったわい」
「い、いやー、ダークサイズだから何とかなるかなって……」

 と、向日葵は頭をかく。

「ある意味ダークサイズより緩いのう、おぬし……」

 とグランが呆れ、菫は向日葵にマイクを渡す。

「困った子だね。一応空京たからくじでダイソウ達5人の旅費は出すようにしてあるから、あんたのも工面してあげるよ。その代わり、はい、仕事してね」
「う……」

 向日葵はしぶしぶマイクを受け取る。

「お、すごーい! まさか向日葵ちゃんとコラボできるなんて思ってなかったよー」

 と、カメラを抱えたカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)と、ガンマイクを先っぽに取り付けた機晶レールガンを持ったジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)が顔を見せる。
 カレンは空いた手で向日葵に握手を求め、

「いやー、よろしくね! 向日葵ちゃん、じゃないサンフラワーちゃんがいればDVDの売り上げもうなぎ昇りだよ」
「DVD?」
「『ダークサイズはじめてのおつかい』! こんなおいしい企画はないよね〜。空京放送局で放送後にDVD化! 今時のバラエティの常套手段だよ。ねえ菫ちゃん、DVD特典は、ダイソウ様とサンフラワーちゃんの対談で決まりだね」
「なるほど、それ悪くないね」

 カレンと菫は、思いつきでトントン拍子で収益確保の話を進める。

「いや、あの……」

 もはや話についていけなくなりつつある向日葵に、菫はさらにアシスタントを紹介する。

「そういうわけで、あんたのアシスタントはもちろんこの二人。超人ハッチャンクマチャンだよ」
「あの、よろしくね」

 と、アシスタントとして向日葵のトーク相手担当のクマチャンと、カメラや音響装置もろもろの電力を確保するため、太陽光パネルつきの発電機を背負った超人ハッチャン。

「あっと、ボクもレポートには参加するからね」

 と、カレンも自分用のマイクを見せる。
 前回のオーディションで2メートル超の緑色の怪人と化した超人ハッチャン。隣に立つクマチャンがやたら小さく見えてしまう。

「オーディションの直後にこうやって長旅に出ることになるとはねぇ」
「ねえハッチャン、ところで発電機なんて重くない?」
「それがさ、全然平気なんだよね。平気なあたりがまた悲しい」

 怪人化した体にまだ慣れない超人ハッチャン。ジュレールは体を浮かせて超人ハッチャンの肩に手を置く。

「済まぬ。オーディションでは、2階と3階どちらに応募するかギリギリまで迷ったのだ。おぬしに魅力がないとかそういう話ではないのだ。よもやこのような結果を招くとは……」

 完全なる不可抗力とはいえ、責任を感じずにはいられないジュレール。
 超人ハッチャンは顔を伏せて、声を震わせる。

「ううん。気にしないでよ。いつかきっと、慣れる……か、ら……」
(ああー! す、すまぬー!)

 慰めるつもりが、ますます自責の念に駆られるジュレールであった。