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リアクション
エリュシオンへの旅。
出発の準備はどんどん進む。
ダークサイズの大総統・ダイソウ トウ(だいそう・とう)も、出発のために館の階段を降りてゆく。
すっかり頼もしい存在となったダークサイズ幹部や協力者たちは、ダイソウと歩きながら様々な確認事項を打ち合わせてゆく。
まずダイソウの両脇を固めて進むのは、ダークサイズの秘書チーム宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)とクロス・クロノス(くろす・くろのす)。
クロスは用意した書類を見ながら、
「大陸に渡った後、陸路での移動手段は確保しています。長旅ですし、物資の運搬も今回かなりあります。シャンバラ大荒野などの道の無い経路も多いですから、私が手配した限りでは馬車移動になります。かまいませんね?」
「うむ。故障などのタイムロスは、私としても避けたいところだ。それでかまわん」
「大総統はやはり……」
「うむ。私はコクオウゴウでゆく」
「分かりました。結構です。結和さん、そういうことですので、よろしくお願いしますね」
と、テキパキと確認と書類の記入をしながら、大して用もないのにダイソウについてまわるエメリヤン・ロッソー(えめりやん・ろっそー)と、その隣の高峰 結和(たかみね・ゆうわ)を振り返る。
パラミタ大陸横断にすっかりわくわくしているエメリヤンに、結和はさすがに心配そうに、
「うーん……エメリヤン、ホントに大丈夫?」
と聞くが、エメリヤンは目を輝かせて、こくこくと頷くのみ。
「普段鍛えてるから心配ないって……エメリヤン、ほんとー?」
結和はまだ不安げだが、クロスはエメリヤンの承諾も得たことだし、問題なしと判断する。
(では、私は野生モンスターの警戒も兼ねて、空飛ぶ箒で並走することにしましょうか。やれやれ、馬車の幌でゆったり、というわけにはいきませんね。紫外線対策もしておかねば)
クロスは自分のお肌の管理も怠らない。
ダイソウがふと思い出したように、
「クロスよ。馬車の費用は大丈夫なのか?」
と、おそらくかなりの金額になるであろう、馬車のレンタル費用を確認しようとするが、
「え、なんです?」
クロスは何故か聞こえないふりをする。
「いや、馬車の費用は……」
ダイソウがもう一度聞こうとするのを、今度は祥子が遮って自分の提案事項を確認する。
「ねえダイソウトウ、あなたカナンはどう考えてるの?」
エリュシオンへ向かう際、経由地となる北カナン。彼女は今回、カナンに強く思いを馳せている。
ダイソウは考えながら、
「ふむ……あくまで目的はラピュマルだ。私はカナンの情報は持っていないからな……」
「悪の秘密結社の旅の目的が買いものだけなんてダメよ。あそこは今荒れている。ついでにネルガルあたりをやっつけちゃえば、ダークサイズのネームバリューもはね上がるわ」
「それは確かにカッコイイな……カナンに近づいてから判断するとしよう」
「ま、いいわ。カナンに着くころ驚かせてあげる」
と、祥子はとりあえずここまで聞いておけばよかろうと、階段を先に降りて去っていく。
☆★☆★☆
ダイソウ達が館の一階に着くころ、永谷とグランは、ダークサイズのいじり攻撃にへこむ向日葵を慰めていた。
ダイソウに最初に気付いたのは永谷。
「むっ、ダイソウトウ」
打ち合わせ用に大総統の館を間借りしているにもかかわらず、やはり永谷はダイソウに厳しい目を向ける。
それに合わせて、向日葵はいつもより3割増しで憤りの目をダイソウに向ける。
「あっ、ダイソウトウ」
「来ておったか。魔女っ子サンフラワーちゃん」
「だーかーらー! それやめてよっ! あなたが適当に名前つけるから、乗っかってくる子が出てきちゃったじゃないの!」
「しかし気に入っておるようだな。名札を付けているではないか」
「だからこれは違うっ」
向日葵は慌てて、明日香につけられたネームプレートを裏返す。
彼女がダイソウにツンツンするのを見て、毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)はとことこと向日葵に歩み寄る。
「もはや良いではないか。ダークサイズに入ってしまえば」
大佐は単刀直入に向日葵をダークサイズに勧誘する。
「冗談じゃないわ」
と、向日葵は当然拒否。
大佐はダイソウに向き直り、
「どうであろう、ダイソウトウ。我は彼女はダークサイズに入ってもいいと思うのだが。すでにここカリペロニアにも、自由に出入りしているようであるし。ダークサイズにとっても害はあるまい? それに、この札にもダークサイズ(仮)と書いてある」
と、大佐は向日葵のネームプレートを表に返す。
「だから違うってばっ。明日香って子に勝手に付けられたの」
「違うならなぜ外さぬ? そのまま付けておるということは、ダークサイズ入りにまんざらでもないということであろう」
「堅くて取れないんだってば」
「人が取りつけたのなら、外せぬ道理はあるまい」
「じゃああなたが外してよ」
「我にそんな義理はない」
「ひどい!」
表情には出さないが、大佐はすっかり向日葵いじりを楽しんでいる。
大佐は少し真面目に誘い文句を言ってみようと思い、
「ダークサイズにはすでに広報担当がいるようだが、やはりレポーターの層を厚くすべきであろう。我は秋野向日葵の力を生かすには、空京放送局よりダークサイズが打ってつけだと思うぞ」
「やだよ、そんなの!」
大佐のプレゼンに、ダイソウもうなずく。
「それは私も同感だ。私はお前の特派員としての能力は買っている」
「え、そうなの? あなた、あたしのリポートって見たこと……」
「うむ。ない」
「ないのかよ! どうやって判断したの!」
「はいはい、じゃあこうしようよ」
と、そこにダークサイズのスポンサー、空京たからくじの茅野 菫(ちの・すみれ)が割って入る。
「今回も空京たからくじがスポンサーにつくことにしたよ。旅番組ならオーディションなんかより視聴率とれそうだしね。そういうわけで秋野向日葵、あんたこの番組のリポーターやって」
「え、ええっ!! なんであたしがそんなこと……」
「ふうん。ならいいけど、あんた旅費の準備とかできてんの?」
「……えっ」
どきりとする向日葵。
その反応に、むしろ永谷とグランが驚く。
「え、ちょっとサンフラワーさん、もしかして……」
「何も準備せずに今日来とったんかい……どうりで身軽じゃと思ったわい」
「い、いやー、ダークサイズだから何とかなるかなって……」
と、向日葵は頭をかく。
「ある意味ダークサイズより緩いのう、おぬし……」
とグランが呆れ、菫は向日葵にマイクを渡す。
「困った子だね。一応空京たからくじでダイソウ達5人の旅費は出すようにしてあるから、あんたのも工面してあげるよ。その代わり、はい、仕事してね」
「う……」
向日葵はしぶしぶマイクを受け取る。
「お、すごーい! まさか向日葵ちゃんとコラボできるなんて思ってなかったよー」
と、カメラを抱えたカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)と、ガンマイクを先っぽに取り付けた機晶レールガンを持ったジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)が顔を見せる。
カレンは空いた手で向日葵に握手を求め、
「いやー、よろしくね! 向日葵ちゃん、じゃないサンフラワーちゃんがいればDVDの売り上げもうなぎ昇りだよ」
「DVD?」
「『ダークサイズはじめてのおつかい』! こんなおいしい企画はないよね〜。空京放送局で放送後にDVD化! 今時のバラエティの常套手段だよ。ねえ菫ちゃん、DVD特典は、ダイソウ様とサンフラワーちゃんの対談で決まりだね」
「なるほど、それ悪くないね」
カレンと菫は、思いつきでトントン拍子で収益確保の話を進める。
「いや、あの……」
もはや話についていけなくなりつつある向日葵に、菫はさらにアシスタントを紹介する。
「そういうわけで、あんたのアシスタントはもちろんこの二人。超人ハッチャンとクマチャンだよ」
「あの、よろしくね」
と、アシスタントとして向日葵のトーク相手担当のクマチャンと、カメラや音響装置もろもろの電力を確保するため、太陽光パネルつきの発電機を背負った超人ハッチャン。
「あっと、ボクもレポートには参加するからね」
と、カレンも自分用のマイクを見せる。
前回のオーディションで2メートル超の緑色の怪人と化した超人ハッチャン。隣に立つクマチャンがやたら小さく見えてしまう。
「オーディションの直後にこうやって長旅に出ることになるとはねぇ」
「ねえハッチャン、ところで発電機なんて重くない?」
「それがさ、全然平気なんだよね。平気なあたりがまた悲しい」
怪人化した体にまだ慣れない超人ハッチャン。ジュレールは体を浮かせて超人ハッチャンの肩に手を置く。
「済まぬ。オーディションでは、2階と3階どちらに応募するかギリギリまで迷ったのだ。おぬしに魅力がないとかそういう話ではないのだ。よもやこのような結果を招くとは……」
完全なる不可抗力とはいえ、責任を感じずにはいられないジュレール。
超人ハッチャンは顔を伏せて、声を震わせる。
「ううん。気にしないでよ。いつかきっと、慣れる……か、ら……」
(ああー! す、すまぬー!)
慰めるつもりが、ますます自責の念に駆られるジュレールであった。
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