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ダークサイズ「蒼空の城ラピュマル」計画・前編

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ダークサイズ「蒼空の城ラピュマル」計画・前編

リアクション

 インタビューがてらのダイソウの長い演説があり、いよいよカリペロニア出発となる。
 ダイソウはマイクを通じ、

「よいか、ダークサイズ幹部達。これから長い旅路と困難が待ち受けていることだろう。私から一つだけ言っておく」

 久しぶりに聞く、ダイソウの本気モードの声のトーンに、やはりその場には少し緊張が走る。

「エリュシオンへの往路は約1カ月。くれぐれも、ホームシックには気をつけろ」
「……え? あ、はあ……」
「あと病気に気をつけろ」
(一つじゃなかったのかよ……)
「あと寂しくならないよう、大切な者の写真を胸元に入れておくことをオススメする」
(前もって言えよ……今さら用意できねえよ……)
「あと……」
「あの閣下、まだ話します?」

 たまらずクマチャンがダイソウを制止する。
 ダイソウもそうか、と思いとどまり、

「よいか。何があろうと、この旅を成功させるのだ!」

 とダイソウが声を張り、皆大きくうなずく。

「では」

 とダイソウは咳ばらいをし、

「最初の難関だ。カリペロニアから大陸に、どうやって渡ろうか」
「……うん、え? ええええええ!?」

 エリュシオンへの旅、しかも陸路と聞いて、多くの移動手段を用意したダークサイズ幹部達。
 人はともかく、荷物がとにかく多くて小型飛空艇くらいでは到底雲海を渡れない。
 当然、大陸への渡航手段は、ダイソウが用意しているものと思っていた。
 そしてダイソウから準備がないことを聞いて、慌てると同時に、ダイソウならやりかねないことを、改めて実感するのであった。

「ダイソウトウならやりかねんけども! いやそれでも何か用意しとけよ!」
「どうすんだよ!」
「頓挫だ! この旅は前編でおしまいだ!」
「まったく、仕方がないのう……」

 夜薙 綾香(やなぎ・あやか)がダイソウに歩み寄る。

「やれやれ。追々足りないものをフォローしようと思っておったのに、出発前にトラブルか……」
「それがダークサイズだ」
「そんなところに胸を張るでない。ここからなら私の魔術研究所も近い。大量移動のための魔法陣を用意してくるから、待っておれ」
「ほう、そんな便利なものがあるなら、なぜ先に用意しておかぬのだ」
「おぬしが言えた義理か! まあまだ研究途中だから、ヒラニプラの南端までが限度だぞ?」

 と言い残して、綾香は島の北東にある魔術研究所に向かって、箒に乗って去っていく。
 綾香が姿を消した直後、

「お困りのようだね!!」

 と、少しくぐもった声が、ダークサイズの上空から響く。
 彼らが声のする方を見上げると、カリペロニア電波塔のてっぺんに二人の人影が。

「あたしたちの手助けが必要かな?」
「何者だ!」
「あたしたちは、恵まれない子供たちの味方、ペンギンマスク!」

 と名乗るのは、その名の通りペンギンのマスクをかぶった七瀬 歩(ななせ・あゆむ)と、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)
 エヴァルトは皆の注目を集めた上で、改めて歩に小声で話す。

「な、なあ。こんな派手に登場する必要あるのか? 俺、こっそり旅の支援したかったんだけど」

 もともとはダークサイズと敵対する立場を取っていた歩とエヴァルト。今回は思惑もあり、エリュシオンまでは到着してもらわなくてはと思っている。
 そのため正体がばれぬよう、わざわざ歩はペンギンマスクを用意し、エヴァルトはそれに巻き込まれる形となったのだが。

「とうっ」

 二人は、颯爽と電波塔から飛び降り、ダイソウの前に降り立つ。
 ダイソウは、普段の姿にマスクを被っただけの二人に、

「ペンギンマスク、だと?」
「そう、またの名を、伊達直、いや、だてぃちょくと」
「だてぃちょくと!」

 もはや原型が分からな所まで名前をいじくった歩。
 続いてエヴァルトが用件を言い始める。

「俺達ペンギンマスクことだてぃちょくとは、恵まれない子供にランドセルを配ってんだが、いい大人がそんな援助受けても仕方ないだろ?」
「というわけで、アレを見て!」

 歩が雲海の方を指さすと、大量の飛空艇と、それに連結したイカダのような浮遊運搬船が見える。

「おおおおお!」
「アレを使えば、人どころか大量の物資も運べるよね。レンタルだからエリュシオンまで持っていけないけど」

 まさに渡りに船と、物資をイカダに乗せ始める。

「しっかしすごい量だね。むしろどうやってカリペロニアに持ち込んだの? って感じだけど」

 歩はダークサイズの底力に感心し、エヴァルトも、

「ああ、さすがに何往復か必要だな。大陸に渡るだけで一日がかりだ」

 とため息をつく。
 ダイソウは運搬状況を見ながら歩とエヴァルトに謝意を述べていき、続いて向日葵がリポートする。

「意外な手助けの登場で、ダークサイズの旅は無事開始です。あなたたちは何者なんですか?」
「ただのペンギンマスクです」
「正体はあくまで秘密と?」
「秘密ってわけではないが、名乗るほどのものではない」
「わぁ、かっこいいですね! この旅にも同行してくれるんですよね?」
「この後も困ることが沢山あるだろうから、見守っていきます」
「ありがとうございます! というわけで、ペンギンマスクことだてぃちょくと。七瀬歩ちゃんと、エヴァルトマルトリッツくんでした」
「……ばれてーら!」

 早速歩とエヴァルトはマスクを脱ぎ、普通に飛空艇へと乗り込んでいった。


☆★☆★☆


 予測通り、雲海を渡るのには一日かかり、全員がカリペロニアを離れるころには、もう日も沈みかけている。

「用意に手間取ってしまった。待たせたな、術式言語の修正も必要だったのでな。今から大型の魔法陣を敷くから、皆手伝って……」

 ようやく魔術研究所から戻ってきた綾香は、雲海から心地よい風の吹く、誰もいない電波塔のふもとを目の当たりにする。

「……置いてかれたーっ!!」