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【ザナドゥ魔戦記】憑かれし者の末路(第1回/全2回)

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【ザナドゥ魔戦記】憑かれし者の末路(第1回/全2回)

リアクション

「ちょっと。あれ見て」
 物陰から顔を覗かせるセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が、それらを捉えた。
「ここ……かのう?」
 エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)が眉を寄せて聞けば、
「そ、そうですよ! ほら! 窓が一つもありませんもの!」
 と紫月 睡蓮(しづき・すいれん)がいつもより元気に振る舞って、そう応えた。集落の外で待機していたのだが、パートナーである紫月 唯斗(しづき・ゆいと)に呼び出された故にここに居た。
 なんでも、仲間であるプラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)を造った職人が、自分たちを食事に招いてくれるという。時間は『いまから』、場所は『窓のない平屋』と聞いたのだが……。
「まったく。誘っておいて出迎えの一つも無しとは」
「き、きっと準備で忙しいんですよ、お食事の用意とか、お掃除とか、あとは、えぇと、そう! お部屋の飾り付けもしてくれてるんですよ、大忙しです」
「………………はぁ。おぬしは本当に良い子なのだな」
「え?」
「なんでもない。行くぞ」
 2人も『窓のない平屋』へと入っていった。セレンフィリティにすればその光景は3度目になるわけで。
「セレン。また来たわ」
 セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が10時の方向を指して言った。職人の格好をした悪魔を先頭に葉月 ショウ(はづき・しょう)レネット・クロス(れねっと・くろす)が歩み現れ、そして先の2人同様『窓のない平屋』へと入っていった。
「あの建物に何かあるのかしら」
「そうね、これだけ入っていくところを見せられると、何かあると思わない方が不自然よね」
 ここでセレンフィリティは言葉を飲んだ。「それに悪魔に先導されてるってところが妙に引っかかるわ」という言葉である。しかしこれを口にすれば―――
「行って確かめてくるわ」
「それなら私も―――」
「大丈夫よ、サッと済ませてパッと戻るから」
 セレアナだって気付いているかもしれない、それでも偵察任務を遂行するには2人してリスクの中に飛び込むわけにはいかないから。
 どうにか強引に納得させてセレンフィリティは単身、『窓のない平屋』に乗り込んだ。
「階段?」
 正面から入ってすぐに下りの階段が見えた、というより階段以外には何もなかった。家具一つ無い『空き家』その中に下りの階段だけが口を開けて座っている。
「選択肢は無いってわけね」
 意を決してセレンフィリティは階段を下り、そしてこれまた一本道な廊下を足音を立てぬように歩み進むと、小さくも人の話し声が聞こえてきた。
 角を曲がった先、すぐの部屋。空いたままの扉の先にショウレネットの姿が見えた。
「あれ? 『呪われた魔鎧』ってのを見せてもらうんじゃないのか?」
 ショウの問いにグラキエスは「いいや」と首を振った。
「俺たちはコイツの修理と強化をしてもらいに来たんだ……そうだよな?」
「あぁ。………………感無量だ」
 アウレウスの声は大いに震えていた。事情を知らないレネットは首を傾げるばかりだったが。
「同じか?」
 もう一組、紫月 唯斗(しづき・ゆいと)の隣にも魔鎧の姿があったのでレネットはそう訊いたのだが、答えは『NO』だった。
「俺たちは食事に誘われただけだ、こいつの親って奴にな」
「食事?」
「久々の再会を祝したいんだとよ」
「その人……親というのは」
「悪魔だよ、職人のな」
「あ、いや、その悪魔は今どこに?」
「さぁな。この部屋に通されてからは見てないな。準備でもしてるんだろうけど」
「そう」
 テーブルとイスが置かれただけの何もない部屋、室内を見回せば誰もがそう言うだろう。『人をもてなす雰囲気』は欠片も感じられない、控え室といってももう少し色気をだしても良いのではないだろうか。
 それにしても……。
 室内にはレネットを含めて3組9名が居るが、どの組もここに来た理由が異なっている。地下に作られたこの階層は思った以上に広いのかもしれない、だとしても、『魔鎧を修理』と『食事の会』を同じ建物内で行うだろうか。そんな場所に『呪われた魔鎧』があるとも思えないのだが。
 だとしたらこれは…………。
「うっ……」
「どうした? レネット――――――ぅっ」
 ショウの視界が揺れた、意識が遠くなってゆく。続いたのは扉が閉まる音、そして壁から噴き出る気体が見えた。
(くそっ……なんなんだ…………)
 唯斗グラキエスも倒れる中、ショウは最後まで耐えたがしかし、それも虚しく眠りに落ちた。
「何なの?! ちょっと!!」
 セレンフィリティは力の限りにドアノブを押し引いた。突然に閉まった扉、その中では次々に人が倒れてゆく。
「くそっ」
 ブチ破る! ドアノブに『レーザー銃』を向けた、その時だった。
「うっ……」
 首筋に鋭い痛みを感じて―――そのまま彼女は気を失った。薄れゆく意識の中で視界に捉えたのは、ニヤリと汚く笑った悪魔が3人。それは部屋の中で眠らされた3組を連れ込んだ魔鎧職人たちであった。
「キッヒッヒ、いい素材が手に入ったぜ」
 消えゆく意識の中、セレンフィリティが最後に聞いた声がそれだった。
 パートナーのセレアナは今も平屋の外で「お願い……セレン……生きて帰ってきて……」と祈り願っている。
 そんな願いが遠ざかる、平屋の地下牢に幽閉されるという危機的状況に陥っていたが、当の本人たちはそのまましばらくと誰一人、目を覚ますことなく眠り続けたのだった。