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【魔法少女スピンオフ】魔法少女クロエ!

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【魔法少女スピンオフ】魔法少女クロエ!

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Lesson0 魔法少女の誕生です。その3


 変身スキルがないながらに衣装チェンジを頑張るクロエの許へ、
「クロエちゃーん!」
 元気の良い声が届いた。
「ちーちゃん!」
 振り返った先に居たのは、満面の笑みで大きく手を振る日下部 千尋(くさかべ・ちひろ)の姿。
「あれ? クロエちゃん、いつもの格好と違うね?」
 千尋が首を傾げて問う。
 そう、今のクロエの格好は、ベアトリーチェコハクが作ってくれた魔法少女のそれなのだ。白と青を基調としているところは普段着ているものと同じだけれど、フリルやレース、りぼんなどの装飾が多めだったり、スカートがパニエで広がっていたり、いつもより華やかで可愛らしい。
「あのね、わたし、まほうしょうじょになったの」
「魔法少女? すっごーい!」
 クロエの言葉に千尋が目をきらきらと輝かせる。どうやら魔法少女に憧れるのは、少女の共通項らしい。
「ちーちゃんも一緒に魔法少女になれるかな?」
「どうかしら。まだね、とよみちゃんがきてないからわからないの」
「そっかぁ。じゃあ、豊美ちゃんが来たらちーちゃんも魔法少女になっていいか聞きに行かなきゃ♪」
「わたしもいっしょにおねがいする!」
「ほんと? クロエちゃん、だーいすき♪」
「わたしもちーちゃん、だいすきよ」
 手を取り合って、にこにこ笑う。
 もし、千尋も一緒に魔法少女になれるのだとしたら、それはとっても楽しそうだ。
「でも、やしろおにぃちゃんは?」
 いいって言ってくれるのかしら。
 日下部 社(くさかべ・やしろ)は、ご存知の通り妹溺愛のお兄ちゃんで。
 千尋が魔法少女として世に羽ばたくことをどう思うのだろう?
「やー兄……」
 じっ、と千尋が社を見た。それはついこの間、クロエがリンスへと向けたような目だった。捨てられた子犬のような、ノーと言うことが人道的にはばかられるような、あれである。
「ちーちゃん、魔法少女になりたいの。……いい?」
 そして、懇願するような声の中にねだるような甘い色を混ぜた声音で、言った。
 ――ちーちゃん……いまのこえ、しょうらいがおそろしいかんじだわ……。
 多分無意識なあたりが、また。
 『お願い』された社はというと、
「ちーが魔法少女やと……!?」
 くわっ、と目を見開いた。
 だめなのか。あのお願いでも、ノーと言えるのか。さすがお兄ちゃん、締めるところは締めるのね、と思っていたら、
「魔法少女といえば、大きなお友達のいう『萌え』の代表格やないか!」
「……ちがってたわ」
 いや、ある意味予想通りだったのだろうか。
「本筋に少年漫画よろしく友情努力勝利を置きながらも可愛さを常に忘れぬその姿勢! そこから発生する『萌え』はいつ如何なる時も……」
 クロエの呟きに気付かなかった社は、語り口調をヒートアップさせていく。
「ちーちゃん、やしろおにぃちゃん、だいじょうぶ?」
「えっと……うーん?」
 千尋も、さてどうしようといった顔である。
「日下部。みんな引いてる」
 ストップをかけたのは、リンスの静かな声だった。
「リンぷー……」
「日下部が魔法少女萌えなのはわかった。うん、だから、落ち着こうね」
 いつにも増して声が優しいので、クロエは少し苦笑した。見ると、千尋も笑ってる。社もはっとしたらしく、「ちゃ、ちゃうねん」と慌てた様子で手を振った。
「俺はな? 純粋に子供たちの応援がしたいだけなんや!」
「そっか」
「なんやねんその生暖かい目ぇ! ホンマやで!?」
 その姿はまるで見えない敵と戦うような必死なもので。
 ともあれ社のヒートアップも止まったことだし。
「こうぼうでとよみちゃんをまとう?」
「うんっ」
 大人しく豊美ちゃんを待とうと、工房に向かおうとしたところで。
 携帯の音が響いた。
「ミクちゃんからだ」
 着信は、響 未来(ひびき・みらい)からのものらしい。千尋が携帯を取り出し、耳に当てる。
「もしも……えっ!?」
 少しの間を空けてから、酷く驚いた声を発したのでクロエもびっくりして、電話中にも関わらず「どうしたの!?」と大きな声を上げてしまった。はらはらしながら、電話が終わるのを待つ。
「何かね、悪い人が出たから魔法少女に倒してほしいんだって!」
「わるいひと!?」
「うん……ちーちゃんまだ魔法少女じゃないけど、できることはやろうと思うの。クロエちゃんも協力してくれるかな?」
「もちろんよ!」
 と言ったものの、今日から魔法少女の仕事を始めようとしていた身である。不安はたくさんあったけど、親友の頼みを無碍にもできない。
 意を決したとほぼ同時。
「ハーッハッハ! よく来たわね、魔法少女たちよー!」
 ブラックコートを纏い、仮面で素顔を覆った謎の人物が現れた。謎の人物を取り巻くように、柄の悪い――所謂ヤンキーな面々がクロエや千尋を睨んでいる。
「あなたたちが悪い人なのね!」
 びしり、千尋が謎の人物を指差した。クロエも負けじとキッと睨む。
「いかにも! 私たちが悪いことをしている者だー」
「なんですって!」
「悪いことはしちゃメッだよ! 魔法少女ハピネスちーちゃん参上ー!」
 千尋の名乗りに、ペットの動物たちも従って登場。
「まほうしょうじょプシュケー☆クロエよ! わるいことはゆるさないんだから!」
 クロエも、豊美ちゃんとリンスに名付けてもらった魔法少女名を名乗る。
「ふはははー。ダメといわれたらしたくなるのが人の性! 悪いこといっぱいしちゃうぞー」
 謎の人物が、指をわきわきさせながら一歩前に踏み出した。
「そんな悪い子、メッ! 『ハッピーサンシャイン』!」
 それらしく技名を叫び、千尋が光術を放つ。
「クロエちゃんも一緒にっ」
「うんっ」
 クロエも千尋の手に重ねるように手をかざした。二人が協力して魔法を撃っているように、謎の人物に『お仕置き』だ。
「うわー、魔法少女の愛の力にやられたー」
 ふらふら、よろり。謎の人物とヤンキーたちが後退していく。
「しかーし。悪い子がこの世にいる限り、私はどこにでも現れるのだー」
 捨て台詞を、残しながら。
 何はともあれ、危険は去った。すぐに着信。
『おめでとう千尋ちゃん♪ 遠くから見ていたわ。見事悪の女幹部をやっつけたわね!』
 未来からのものだった。「うん!」と千尋が笑顔で頷く。
 ふと、どうして謎の人物の素性が女幹部だと知っているのだろう、とクロエは疑問に思ったが、人の電話なので口出しは控えておく。
 とにかく、初白星を上げた。
 その結果が、自信に繋がったことは確か。


「……あかん。ひどい茶番や……」
 少しはなれたところから見守っていた社が、頭を抱えて呟いた。
「……なにあれ?」
 リンスの問いも尤もである。
「いや、な。未来が、『いい考えがあるの! 任せて!』って言うから……」
 言うとおり任せてみたら、一芝居打たれたわけなのだが。
「ありゃひどい演技やで……歌は抜群やのに。天は二物を与えんかったか……」
 思わず二回目のひどいを口にしてしまうほどの出来だった。
 よくもまあ、千尋もクロエも気付かないものだと思う。セリフは全て棒読みだし、電話のタイミングも不自然だし、動きはカクカクしていたし。
 却って怪しさ抜群だというのに気付かないのは、
「魔法少女になって浮かれとるんかなぁ……」
「かもね」
「兄ちゃん心配やわ。リンぷーはどないなん」
「こう見えて結構はらはらしてるけど」
 相変わらずの無表情。けれど、手を握ったり開いたりしていた。落ち着かない様子なのは、それを見ればわかるというもので。
「兄ちゃんって大変やねぇ」
「そうだね」
「俺もリンぷーも妹馬鹿やしな」
「日下部と同レベル? それはちょっと」
「ええやんお揃いで」
「だから嫌なのに」
「つれへんわー」
 軽口を叩いて、不安や心配を見えないところに追いやった。
「でもまぁ、あれやな。妹たちの楽しそうな姿を見られるのはええもんやな」
「うん。俺もそう思う」
 千尋も、クロエも、楽しそうに笑ってる。
 色々なことを経験して、子供は大きくなっていく。
 きっと、今日これから体験することは彼女たちにとって大切なものになるだろう。
「俺らは温かく見守っていこうや」
「……おっさん臭いよ?」
「んなこと言うなや、もぉ〜」


*...***...*


「遅くなりましたー」
 セレンフィリティセレアナ、魔穂香を連れて豊美ちゃんがやってきたのは、千尋とクロエが未来による小芝居を終えてすぐだった。
「こちら、セレンフィリティさんとセレアナさんですー。お二方もクロエさんと一緒に魔法少女とはなんたるか、お勉強したいそうですので今日一緒に行動してくださいー」
「はーいっ」
 豊美ちゃんの説明に、クロエが元気よく返事をする。
「セレンフィリティおねぇちゃん、セレアナおねぇちゃん、よろしくね!」
「よろしく、クロエちゃん。新米同士頑張ろうね!」
「ごめんなさいね、突然で。セレンが迷惑をかけるかもしれないけれど、悪気はないから仲良くしてあげてね」
 にこやかに挨拶をする傍らで、
「あのね、豊美ちゃん。ちーちゃんもね、魔法少女になりたいの!」
「千尋さんも魔法少女ですかー? いいですよー」
「やったー♪ やー兄、ちーちゃん魔法少女になったよ!」
「萌えやな!」
「だからさ、日下部……」
 千尋も魔法少女になり。
「はいはいっ! ボクも魔法少女になりたい!!」
 流れに乗って、華恋も名乗りを上げた。
「華恋さんもですかー? 魔法少女、大人気ですねー」
「ふふっ。少しは心得も学べたしね! いざ魔法少女、だよ!」
 やる気満々の様子に、豊美ちゃんも嬉しいらしく微笑む。
「もちろん、これほどやる気のある方をお迎えしないわけにもいきませんー。みんなで魔法少女になりましょうー」
「やったね♪ じゃあ理沙、引き続きメモ係よろしく!」
「だからなんで私なのよっ!」
 理沙のツッコミもスルーして、華恋はクロエやセレンフィリティ、セレアナ、千尋らがわいわいと魔法少女談義を広げる輪の中に入っていく。
「あら? なんだか大所帯ですのね」
 そこに現れたのは、遠路はるばるやってきたユーリカだ。
「こんにちは、豊美ちゃん。これは魔法少女になりたい、あるいは新米魔法少女たちの会合と見て結構ですの?」
「こんにちはー。はいー、そうですよー」
 ユーリカの問いに、豊美ちゃんがにこやかに答える。
 そうですの、とユーリカが頷いて、それからひとつ深呼吸。
「あの! わたくし、魔法少女になりたいんですの!」
 言った言葉は、彼女なりに悩んだり考えたりした結果のものなのだろう。頬を少し赤くしていた。
「はいー、わかりました。ユーリカさんも魔法少女、ですー」
「ほ、本当ですの? 試験とかテストとか、あったりするものなのでは?」
「そんな堅苦しいことはないですよー。大切なのは、魔法少女になりたい、魔法少女として頑張りたいという気持ちですからー」
「それならたくさんありますわ!」
「なら、きっと素敵な魔法少女になれますよー。頑張っていきましょうー」
 ユーリカが嬉しそうにはにかんで、新米魔法少女たちの輪に混ざっていく。


 こうして。
 新米魔法少女が、続々と誕生したのだった。