|
|
リアクション
■ おっさんに会いに。あるいはある変態さんの道行き ■
長期休暇を利用して、クド・ストレイフ(くど・すとれいふ)はパートナーを伴って地球にやってきた。
世話になった人に久しぶりに会いたいから……というのがその理由だったのだけれど。
「――!? やや! あんな所に見目麗しいお嬢さんが!」
街を行く薄着の女の子を見かけると、すぐさまそちらへとクドは駆け寄った。
「お嬢さん、今日の下着の色を教えてくださ……がふっ」
女の子が振り回したバッグが、弧を描いた運動エネルギーをこめてクドの脳天を直撃する。
「ああ……」
いくら女性を口説くのは日常茶飯のイタリアとて、これは無い。思わずルルーゼ・ルファインド(るるーぜ・るふぁいんど)は目を覆ったが、当のクドはがばっという勢いで頭を下げる。
「ありがとうございます!」
その頭におまけの拳を食らわされても、クドは満面の笑みを浮かべている。クドにとって、女性からの暴力はご褒美のようなもの。ああ有り難いと謹んで礼を述べる辺り、良く訓練された変態さんだと言えるだろう。
そんなクドを、ハンニバル・バルカ(はんにばる・ばるか)は遠い目で見つめた。
「――なあ、ルル。覚えているのだ? 昔のクド公はあんなんではなかった」
ハンニバルと出会った頃のクドは、口数も少なく、感情表現にも乏しい、まるで人形のような男だった。
「それが、1年ほど経ってルルと契約する頃には自堕落になって……いや、その頃はまだマシだったか」
それから色々な出会いを経て、クドは昔の様子が嘘のような感情豊かになった。
それは良い。
それは良いのだが……。
「ふっ、ご覧の有様という訳だ」
また別の女性に突進し、肘打ちを食らっているクドを指して、ハンニバルは重いため息をついた。
「本当に、どうして彼はああなってしまったのでしょうね……」
ルルーゼが出会った頃のクドは、ハンニバルの言う最初の人形のようなクドとは違った。
「自堕落ではありましたけれど、変態ではなかったあの頃のクドが懐かしいです……」
「ああ。昔の大人しかったクド公が恋しい」
ハンニバルはそう言って空を仰いだ。
綺麗なお嬢さんを見るたびに脱線してしまうので、クドの旅程は遅々として進まないが、それでも少しずつ目的地には近づいている、はずだ。
「お世話になった方に挨拶したいということでしたけれど、どんな方なんですか?」
クドの意識を女性から逸らそうと、ルルーゼが尋ねる。
「おっさんですか? お兄さんを拾ってくれた人ですよ」
そう言ってクドは懐かしげに目を細めた。
お兄さんはさ、恩人の『自由に生きてほしい』って言葉を聞き届けて傭兵をやめた訳ですけど……、
その時は15歳とかそのくらいでさ。
頼る当てもないし、お兄さん、頭も悪いし、何が出来るかっていえば銃を握って戦うぐらいしか能が無い。
そんなガキンチョに何が出来るかって言ったら……、
まあ、何も出来ない訳です。
んで、当てもなくフラフラ彷徨ってたら、『おっさん』に出会いました。
どんな人かって……そうですね。
筋骨隆々とした、果てしなく怖い面したおっさんですよ。
本名?
知りません。教えてもくれませんでした。お兄さんも偽名しか名乗ったことないですから、お互い様ですかね。
無口で無愛想な人でしたけどねぇ、何故かお兄さんを拾ってくれました。
そんで、そのおっさんのとこでお世話になってたらある時、
ハンニバルさんに出会い、契約してパラミタに渡ったって訳です。
おっさんに拾われてちょうど1ヶ月後のことでした――
「そんなことがあったんですか……」
自分が契約する前のクドに、ルルーゼはしんみりと頷いた……その時。
「そこの足の綺麗なお嬢さん、ぜひ撫で回させてくだ――ぐはっ!」
赤いハイヒールを履いた脚に引き寄せられていったクドが、見事に蹴飛ばされる。
「ありがとうございます!」
またか、とハンニバルは頭痛がしてきて額に手を当てた。
「あ、そこのお嬢さーん!」
「クド、どこに行くんですか? そちらは方向が違います」
「一体何時になったら到着するんだろう」
ルルーゼとハンニバルは困り顔を見合わせると、駆けてゆくクドを追いかけてゆくのだった――。