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地球に帰らせていただきますっ! ~3~

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地球に帰らせていただきますっ! ~3~
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 ■ 魔法使いのお父さん ■
 
 
 
 ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)の父、ディーグ・ウェンポリスはいつも世界中を駆け回っている。
 だから今年もきっと家にはいないだろうと連絡してみたら、今年はイギリスの実家にいるらしい。久しぶりに実家で父と過ごせそうだと、ソアは急いで家に帰った。
 
 ソアの実家はイギリスのとある村。
 他の家からは少し離れ、森に囲まれた館はいかにも魔法使いに似合いそうな佇まいだ。
 忙しいディーグは家を空けがちだけれど、住み込みのお手伝いさんが数名いて家のことはやってくれている。
 
 家に帰るとすぐ、ソアは父親の部屋に直行した。
「お父さん、ただいま!」
「お帰りソア。相変わらず元気そうで安心したよ」
 笑顔いっぱいで挨拶するソアを、ディーグは嬉しそうに抱き留める。
 その後は紅茶を一緒に飲みながら、ソアはパラミタでの近況を話し、ディーグはそこここに質問を差し挟みながら興味深くソアの話に耳を傾けた。
 イルミンスール魔法学校のこと、シャンバラのことを話した後、これも言っておかなければとソアは父に告げる。
「お母さんの行方も捜してみてるんですけど、そちらは分からないままです」
 そうか、と答えるディーグはどこか申し訳なさそうな様子だった。
「昨年末はソアに初めて母さんの真実を告げたことで、動揺させてしまったな」
「いいえ、話してくれて良かったです」
 ソアは本心からそう答えた。教えてもらって良かった、今でもそう思っている。
「母さんは一族の仲間のためにパラミタに戻ってから、行方が分からなくてな。パートナーの私が無事だから、生きていることは間違いないんだが……ソアには子供の頃から寂しい思いをさせてすまないな」
「確かに私、物心がついた頃にはお母さんがいなくて、お父さんも仕事で帰りが遅くて、寂しい思いをすることが少なくなかったです。でも、お父さんが私に愛情を注いでくれていることが分かってからは、感謝と尊敬の気持ちの方が強いです」
 ソアに言われ、ディーグは照れたような、どこか困ったような表情になった。
「そう言って貰えるようなことを出来てると良いんだが……」
「してますよ。1つ思い出話をしましょうか。あれは私が5歳くらいの時だったでしょうか……」
 
 あの日……父の帰りが遅いのにすねたソアは、館周辺の森に飛び出していってしまった。
 今でもそうなのだけれど、ソアは方向音痴。ましてやどこを見ても木ばかりの森の中ではすぐに方向を見失ってしまった。
 迷ってさまよううちに、日も落ちて周囲は暗くなってゆく。
 心細くなったソアが座り込んで泣き出そうというまさにその時……急にあたりが明るくなって、ソアは顔を上げた。するとそこにはディーグがいて、「ソア、迎えに来たぞ」と笑ってくれた。
 その後ソアは、はじめて父と一緒に空飛ぶ箒に乗って、星空を眺めつつ家に帰ったのだった。
「あの時、どうして私の居場所が分かったのか聞いたら、『お父さんはソアのお父さんで、魔法使いだからな』って笑顔で言ってました――。それが、私が本気で魔法の勉強をするようになったきっかけでもある、大切な思い出ですっ」
 
「あの時のことを覚えていたのか」
 ディーグは懐かしげに言った。ソアはまだずいぶん小さかったから、覚えていないのではないかと思っていた。けれど娘はそのことを大切に思い、そして今パラミタで頑張っている。
「今の仕事が一段落したら、私も一度パラミタに行って母さんを捜してみることにするよ」
 ディーグの地球での多忙ぶりを知っているソアは驚いた。
「えっ、本当ですか?」
「ああ、本当だ。その時はぜひ、パラミタでのソアの姿も見せてもらおう!」
「はい! お父さんが来るのを向こうで待ってます」
 
 今度会うときはきっとパラミタで。
 その日のことを思い、ソアは胸躍らせるのだった。