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42


 自分と紺侍が二人並んで歩いていたらどう見られるのかと思っていたら、友人らに言われた。
「デートだってよ。ゲイカップル?」
「オレは別にいいっスけどね。否定できやしねェし」
 イヤなら離れましょっか? なんて言って一歩後ろに下がろうとするので、腕を掴んで引き止める。
「はぐれるだろ」
「そっスね。ンじゃ手でも繋ぎます?」
「調子乗んな」
 隣に居るだけでいいんだよ、とぶっきらぼうに言ってから、人の波をするすると避けて進む。
 ふとたこ焼きの屋台を見つけて足を止め、寄るぞと紺侍に目で合図。
 おっちゃんこれひとつ、と焼きたてのたこ焼きをゲットしたので、
「半分やる」
 ずい、とパックをつきつけた。
「あ、ども。いただきます」
 きょとんとしつつも紺侍がたこ焼きに手を伸ばす。二人で立ち止まって、もぐもぐ咀嚼。意外とたこが大きかった。当たり引いたな、と内心でほくそ笑む。焼き加減も好みだった。それは紺侍も同じだったらしい。二人してうめーと賞賛し、あっという間にパックを空にして。
「んじゃ次おまえの番な」
「へ?」
「オレが今半分やったから、今度はおまえが買ってオレに半分寄越す番」
「うわァ相変わらず理不尽だ」
「食ったのはおまえの自由意志」
 だからオレのせいだけではないのだと自己正当化をして、紺侍の背をつついて先に進む。
「何がいいっスか?」
「それはおまえが選べよ」
「えー。じゃァ綿菓子」
「食いづれえ」
「それもまた一興ってことで。祭りの日くらいしか食わねェし」
 雑談を交わしながら、綿菓子を買って。
 ふわふわのそれを、千切ったり噛んだりして食べながら、祭りを回る。
「そういやさ」
「ハイ?」
「おまえにゃ居なかったの。会いてえ奴」
「幸いにもね。オレはそォゆー別れ、経験してないんスよ」
「そっか」
 微妙な声のトーンの変化に気付いたのだろうか。
 壮太さん、と紺侍が名前を呼んできた。
 声には応えず、やや俯きがちにゆっくりと歩く。
「もう一度きちんと話をしたい相手が居るんだ」
 視線を落としたまま、ぽつりと零した。
「その人は今、生きても死んでもいない状態だから、今日みたいな日でも会うことはできねえし。
 ……オレにはその人を助け出すこともできなかったから、……そもそも会う資格もねえんだろうな」
 思い出すのは、あの手の感触。
 冷たかった。
 硬かった。
 絶望が胸を支配して、足が動かなくなった。
 今も彼女は、あの場所で、あの状態で、生死不明のまま佇んでいるのだろうか。
 それは、あまりにも。
 ――…………。
 一度唇を噛み締めてから、
「……わり」
 顔を上げた。無理に作った笑顔を浮かべて。
「まあ何が言いてえのかって、おまえはそんな風になんなよってこと。面倒くせーから」
 わーったか、と意味なく紺侍の背中を叩く。
「なりませんよ。こんなカオの人、ほっとけねェって」
 なんだそりゃ、と足元の小石を蹴った。
 手に持っていた綿菓子は、小さく萎んでいた。