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【ザナドゥ魔戦記】憑かれし者の末路(第2回/全2回)

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【ザナドゥ魔戦記】憑かれし者の末路(第2回/全2回)
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「っつおっ……くっ……」
 頭から飛び込んできたからだろう、『使い魔:使い魔:傀儡』の頭突きはとても重かった。それでも葉月 ショウ(はづき・しょう)は一歩も引かずにそれを受けると、押し返しざまに『無光剣』で首を切り落とした。それでも―――
「つあっ!!」
 間髪入れずに剣を振るい、傀儡の両足を斬り砕いた。
「ハァ、ハァ、これで動けないだろ」
 足止めとして、盾となるべく残った二人、ショウレネット。彼らの葬歌 狂骨(そうか・きょうこつ)ただ一人のはずだった。だからこそ一行は二人を残して階上へと進んだのだが、
 敵は一人では無かった
 三体のアンデッドに『ガーゴイル』と『使い魔:傀儡』を従えていた、
 一人だと思っていた敵は実は六体もいたことになるわけで。
「くそっ、後出しジャンケンもいいとこだぜ」
 とショウの顔に如実に焦りが表れていたのもまた事実、なのだが……
 鳴り響く銃声。天城 一輝(あまぎ・いっき)の『シャープシューター』が『ガーゴイル』の両目を順に撃ち抜いた。これが焦りを感じ始めてすぐのこと。そして今は、
「はっ!!」
「やあっ!!」
 ローザ・セントレス(ろーざ・せんとれす)が『アンデッド:ゾンビ』の脳天を叩き潰している。ユリウス プッロ(ゆりうす・ぷっろ)は『アンデッド:グール』の体躯を数回に渡って突き貫いた所だった。両死体が力無くその場に倒れ込んだ。
「よし、踊り場は無事制圧、あとは―――」
「ギャアシャァアアアアアアアーーーーー!!!!」
 その声に一輝が顔を向けると、狂骨の巨体が仰向けになって倒れてゆくのが見えた。悲鳴をあげたのも彼だろう、立ちはだかる、アンデッドたちを操っていたが目前で倒れ、そして果てた。
「……殺してはいないわ。そんな気分の悪いことはしない……」
 レネットが剣を収めて小さく言った。端で捉えた彼女の戦い方は狭い通路内を上手く利用したものだった。
 狂骨の大きな動きを逆手に取るように彼女は素早く床や壁を蹴っては相手の間合いに飛び込んでいた。そうして『アンデッド:スケルトン』を一閃する様を一輝は目撃したのだ。恐らく狂骨にも同じ戦法を取ったに違いない。
「……助かったわ、ありがとう」
「いや、間に合って良かった。こちらも準備に手間取ってな」
 紫月 唯斗(しづき・ゆいと)からの連絡を受けて駆けつけたのだそうだ。準備に手間取ったとは言ったが、じつのところ窓のない平屋を探すのに多くの時間を要したのだという。外は避難する職人たちでごった返していて話を聞こうにもまともに取り合ってくれない事も多々あったそうだ。
「……外は騒ぎになっているの?」
「あぁ、あれはまぁ……『イコン』だろうな」
「イコン?」
「あぁ、そいつが街で暴れてるんだ」
一輝
 ローザの声に一輝が顔を向ける。ローザはアンデッドやら傀儡やらを見事に一つに縛り上げていた。
「私たちは戻りますわ。ここは任せても平気なのですよね?」
「そうだな、どうにかなるだろ」
「どうにかなる、ではなく『どうにかして』下さい。頼みましたよ」
「分かっている。早く行け」
 鼻で笑ってから駆けだしたローザを「あっ、こらまた勝手に」とユリウスを追った。
 アンデッドとの戦闘において大いに活躍した二人であったが、今回の任務はここにはない。二人の任務は脱出時の退却支援、『小型飛空艇アルバトロス』を外で待機させておくことにある。
唯斗さんたちは階段を登っていかれたのですね?」
 もう一人のパートナー、コレット・パームラズ(これっと・ぱーむらず)ショウに訊ねた。彼女は戦闘に参加しない代わりに周囲の様子を探り、分析していた。
「この先の通路、あのアンデッドたちが塞いでた先ね、その先にも階段はあったけど上の階には通じてなかったわ」
「通じてない?」
「えぇ、壁で塞がれていたわ。建物の入り口とこの階を繋ぐ直通の階段って所かしら」
「直通……」
 そんなことをする意味があるのかとも思ったが、実際にそうなっているなら仕方がない。その壁はかなりの厚みがあるように感じたという。
「それだけ壁が厚いということは、それだけ特別な部屋って事じゃないかしら」
 その推測は正しかった。ショウたちを残して階上へ上がった一行はそのまま次階の通路を駆け進んだ。階下と同じく当然に狭い通路はすぐに途絶え、すぐ目の前には重厚な扉を構えた部屋が現れたのだった。
「突破します!」
 赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)の『光条兵器』、日本刀を模した鍵剣【暁月】を『金剛力』で強化した腕力で振って斬りつけた。
 一閃。硬質に見えた扉が木片の如くに裂けて崩れ落ちた。
「プラチナっ!!」
「マスター……? くっ」
 連れ去られたプラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)の姿がそこにはあった。しかしパートナーである紫月 唯斗(しづき・ゆいと)と再会を喜ぶ余裕は彼女には無かった。彼女は今、巨体を誇る三道 六黒(みどう・むくろ)の『ヴァジュラ』を、ある刃で受け捌いていた。
「何だあれは……剣か?」
 プラチナムに加勢しようと構える唯斗を余所に、同じく彼女のパートナーであるエクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)はその状況を冷静に見つめていた。
 人型状態のプラチナムの腕から剣が生えている。鮫やイルカの背びれのように、程良く湾曲した剣が彼女の両腕に付いていた。
「どうネ? 気に入ってくれたかネ」
 細高い声にエクスは身構えた。白衣を着た猫背の男が嬉しそうに笑みを浮かべている、顔はどこかネズミに似ていた。
「元からあぁだったみたいだろう? 実に良い仕事をしたものだ」
「当然だよー、もっともっとホメてホメてっ!!」
 その仕事とやらをした本人なのだろう。こちらの悪魔は随分と幼く見えた。
「おぬしたちがプラチナをあんな風にしたのか」
 普段は冷静なエクスでさえも怒りに沸いた瞳をしていた。ちなみに唯斗はとっくに沸点を越えている。
「あんな風とは失敬ネ、腕部に刀を仕込むなんて、これは立派な進歩発展進化なのだヨ」
 確かにプラチナムはその腕から生えた剣で六黒を攻撃をことごとく受けては弾いている―――
 不意に鋭い音がした。金属が折れたような音の正体はプラチナムの腕剣が折れた音だった。
「ちょっ、プラチナっ?!!」
「だいじょうぶだいじょうぶー、剣は二本あるんだからー」
 幼い悪魔の言うとおり、プラチナムはすぐに反対の腕剣で応対していた。
「それにしても、あんなに押されるなんて、らしくありませんね」
 プラチナムの戦い様を見て紫月 睡蓮(しづき・すいれん)が首を傾けた。プラチナムも決して腕力が強い方ではないが、それにしても防戦一方な様は彼女にしてみれ「らしくない」と思えたようだ。
「あーそれはねー、きっと強度が弱いからなんだよー」
「強度?」
 幼い悪魔の指摘に睡蓮は何事もなく応じて返した。
「そう、強度。何度やっても接合すると弱くなるんだよねーこれが」
「接合する前と後では腕部と剣部分の強度が低下するという事ですか?」
「そうなんだよー、きっとあれも失敗だね」
「それでしたら機晶技術を応用してみては如何でしょう。機晶姫専用の武器もあることですし―――フゴッ、ファウゥ……」
 最後まで言うより前にエクスに口を塞がれてしまった。彼女の瞳が「それ以上は言わなくてよい」と言っていた。機晶技術で成功する保証なんてどこにもないし、わざわざシャンバラの技術を教えてやる義理はない、そう考えたようだ。
「抵抗しないと言うのなら、手荒な真似はしない。さぁ、どうする」
 エクスが幼い悪魔とネズミ顔の悪魔の足下に『凍てつく炎』を放つ。威嚇にしては火力が強いようにも思えるのは未だ冷め止まぬ怒りによるものだろう。
「キキキッ、ここで簡単に降伏したなんて軍の奴らにバレたら後で何されるか分からないからネ」
 背後から彼らと同じ格好をした悪魔が数名現れた。同じ職人と言ったところか。エクス睡蓮が身構えた。
 赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)も棚にあった『トンファー』を手にとった。プラチナムの腕部に付いている剣一貫も数点が同じ棚に乗せられている。この『トンファー』もきっと魔鎧専用武器の一部となる予定なのだろう。
 自身が纏う戦闘舞踊服 朔望(せんとうぶようふく・さくぼう)と同化する様はいまいちイメージ出来なかったが、それでも武器としては十分に使える。さぁて大暴れしてみましょうか、と踏み込む足に力を込めた時だった。
「キキキキキッ、冗談だヨ、降伏だ降伏、ヤメヤメヨ」
「…………そう言って油断を誘うつもりですか?」
「そんな古い手は使わないネ、見れば分かるだろう、我々は戦いは得意じゃないんだ、負けると分かっている戦いはしない主義なんだヨ」
 数では圧倒している。先程の威嚇も効果があったのだろうか。
「ではあの巨体は?」
「あれはキミタチより先に押し寄せてきたのだヨ、蛮族にすぎないネ、何とかしてほしいネ」
 あっさり裏切った?!! いや、実を聞けばそうとも言い切れない。
「ちっ、潮時か」
 蛮族呼ばわりされた三道 六黒(みどう・むくろ)は力の限りに『ヴァジュラ』を振ってプラチナムの腕部の剣を砕き折った。強度が弱いとは聞いていたが、これではとても実戦では使えない。魔鎧専用武器を作っていると吐かせた時の高揚感はすでにすっかり萎えていた。
「退却ねぇ。まぁ、仕方がないわね」
 帽子屋 尾瀬(ぼうしや・おせ)が『乱撃ソニックブレード』で天井や作業台を次々に切りつけてゆく。その度に壁面は割れ、瓦礫が落ち、粉塵が舞い上がった。それらを盾にして六黒たちは退却していった。
 情報操作はお手のものという両ノ面 悪路(りょうのめん・あくろ)が建物内の通路を把握、階下でノビていた葬歌 狂骨(そうか・きょうこつ)をも回収済みという驚異の手回しを行っていた。主戦と補佐。チームワークの何たるかを物語っているかのような見事なお手前だった。
「プラチナ! 大丈夫か!」
「大丈夫です。腕の皮を剥がれたような、腕をもがれたような痛みが両腕からする位です」
「それは大丈夫とは言わないのでは?!!」
 珍しく唯斗が取り乱していた。
 魔鎧であるプラチナムの腕部にどのように剣を取り付けたのか、また強度の向上は成せるのか、魔鎧専用武器の完成は有り得るのか。
 地上に、いやシャンバラに持ち帰って検証と研究を行えば、或いは……?