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リアクション
終章 終わりと、そして砕かれた欠片と
全てが上手く、そして平和に終わったわけではない。
ナベリウスのモモとサクラは南カナン軍に協力を約束してくれたものの、もうひとりのナベリウスであるナナは、バルバトス軍に連れ去られてしまった。
負傷者も全く出なかったわけではない。いまだ、森の外の野外診療所では治療に専念する兵士もいる。
しかしそれに悲観してばかりいるわけでもなかった。
兵士の英気を養うためと、戦いの終結を祝って、森のなかでは簡単だが祝会が行われていたのである。もっとも、診療所の近くでは、テントのなかで次なる戦いへの軍議も開始されている。
子どもや一般の民たちに向けた小さな祝会といったところだった。
それでも、モモやサクラはそれを楽しんでいた。
「ペトが歌うのですよ〜」
祝会の中心で、みかん箱に乗って歌うのはアキュートのパートナーの花妖精、ペトである。
彼女は自分用にサイズを合わせた小さなアコースティックギターを片手に、ゆるやかに歌を歌い始めた。
ま〜んま〜る ふ〜わふ〜わ どーなっつ〜
どさっと い〜っぱい よ〜うい〜して〜
と〜もだ〜ち あ〜つま〜り わ〜にな〜れば〜
み〜んな〜の か〜たち〜が どーなっつ〜♪
うまうまと〜 ほおばって〜 ほら え〜がお〜
おやつ〜の じかん〜だ さあ た〜べよ〜
と〜もだ〜ち あ〜つま〜り わ〜にな〜れば〜
み〜んな〜の か〜たち〜が どーなっつ〜♪
それは、かつてアムトーシスで和麻たちがナベリウスとピクニックをしたときのことを彷彿とさせる歌。
そんな歌を背景に、祝会は盛り上がりを見せる。
「はい、みなさん、準備が出来ましたよー」
甘い紅茶とお菓子と、ティータイムのようなセットが森のなかで並ぶ。
それを準備したのは、朝倉 千歳(あさくら・ちとせ)とイルマ・レスト(いるま・れすと)だった。
「ローズマリーに、クッキーに…………って、イルマ、それはなんだ?」
「ロッPカエルパイですわ」
「……カ、カエルパイ?」
「カエル肉粉末エキス入りです。とっても美味しいんですよ?」
イルマはそう言って、怪しげな名前のパイを小皿に取り分けた。見た目はそこまでおかしくはないが……。
「味はうなぎパイですわ」
(カエルはどこにいった!?)
色々とツッコミどころは多かったが、自作のお菓子ではないということなので、それ以上はなんとも言えなかった。
それに、モモとサクラはさっそく美味しそうにそのパイを頬張っている。柚や和麻に、ボロボロとこぼさないようにと注意されつつも食べる姿は、微笑ましかった。
彼女たちが幸せそうに食べているのであれば、千歳は何も言うまいと思った。
「お花って、知ってますか?」
と、モモとサクラの目の前までやって来て、エマ・ルビィが彼女たちに花を差し出した。
「モモちゃんには、桃の花を。サクラちゃんには、桜の花を。」
そう言って、彼女は笑いかけると、モモとサクラの頭に花を挿してあげる。
「これは作り物ですけど、春になったら本物を見ましょう。春っていうのは地上の、キレイでお日さまぽかぽかの日のことですわ。見わたすかぎり一面に、たくさんたくさんお花が咲くんですよ」
彼女はそう言って、期待に胸を膨らますモモとサクラに微笑んだ。
その手に花があとひとつあるのは、きっと、この場にいないもうひとりのナベリウスのためなのだろう。
彼女は、そんなもうひとりのナベリウスとも友達になれることを、願っているに違いなかった。
こうしてモモたちが気兼ねなく祝会を楽しんでいるのは、ひとえにアリス・ハーディング(ありす・はーでぃんぐ)たちの力があってのことでもあった。
祝会の用意をしたのは彼女と、そして彼女の直属のメイドであるリンダ・リンダである。彼女たちは森に取り残された負傷者たちを救出しつつ、こうして祝会の準備を進めていた。彼女たちと救出部隊によって犠牲がすくなかったことも、ナベリウスの二人にとっては祝会を楽しめる要因だった。
もっとも、アリスにとってこの祝会はバルバトスに向けた皮肉の意味もある。
(お前の思い通りにはいかねーよ……ってことを伝えたいんだろうな)
リンダは優雅にティータイムを楽しむ主人を見ながら、そんなことを推測した。
そして、それを微塵も感じさせずにいる彼女のことを、改めて恐ろしいとも思った。
「アリス様。アップルパイはいかがですか?」
「ありがとう。もしよろしかったら、ナベリウスさんたちのもとにも持って行って差し上げて」
「はい」
リンダはアリスの言うとおりに、アップルパイをナベリウスたちのテーブルに運びに行った。
と、気づけばそこでは、ナベリウスが鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)と医心方 房内(いしんぼう・ぼうない)に新しい遊びを教えられている最中だった。
「いいかの……皆の者が絶対に喜ぶ遊びを教えてやろう」
房内のその言葉に、モモとサクラはワクワク、ワクワク、と期待を隠さない目を輝かせる。
「その遊びとはつまり……ズバリ、『スカートめくり』と『ブラのホックはずし』じゃ!」
(うん、まあ……)
リンダは聞かなかったことにして、メイドらしくアップルパイを皆に取り分けた。
だが、そのうち女性たちの悲鳴が聞こえてくる。
「エ、エロ神様!? なんてことをナベリウスさんたちに教えてるんですかっ!?」
貴仁が、房内とナベリウスの両名たちに向かって言う。
「なにを……ってそりゃー、新しい遊びじゃよ。いやー、楽しいのぅナベリウス」
「楽しい楽しいー!」
「うりゃー」
「やめっ、モモちゃ、やあぁ!」
「だああぁぁ、やめなさい!」
レイカや詩歌という女性陣たちに対して、セクハラ行為に走るナベリウスと、それを止めるべく追いかける貴仁。いつの間にか鴉のパートナーであるサクラまでも、ナベリウスたちの側に混じっていたため、エロ神含めて合計4名のセクハラ集団が祝会を駆けまわった。
(……ま、平和かね)
少なくともこの時間だけは、そうして時が流れていくことに、リンダは苦笑を漏らした。
1
祝会の楽しげな声を聞きながら、テントのなかでは厳かな軍議が行われていた。
次なる目的はメイシュロット。はたしてそこをどう攻めるべきか。
〈漆黒の翼〉騎士団長のアムドに、一部の騎士団メンバー。文官や軍師として戦う数名の契約者。そして南カナン兵とシャムスに、芸術の魔神アムドゥスキアス。
テントのなかにいるそれらの軍議メンバーは、数々の意見を交錯させた。
誰もが心のどこかで不安と心配を抱えていたが、それを無駄に口にすることはなかった。不安が敵の行動を予測する助けになるならまだしも、弱音に過ぎないのであれば、口にしたところで、余計な不安を煽るだけにしかならないからだ。
だが、嫌な予感というものは的中するものなのかもしれない。
軍議がメイシュロットの攻め方で難航していたそのとき……。
ゴトリ、と、なにやら重たげな音が外から聞こえた。
「何の音だ?」
兵士のひとりが言う。
しかし、外からはそれ以降、何の声も音も聞こえず、全員が怪訝そうに顔を歪めた。
気がかりになったシャムスは、兵士に目配せをした。その意味を察した兵は、テントの外に向かう。
しばらくして兵士が戻ってきたとき、その手に抱えられていたのは白塗りの箱だった。
(なんだ……?)
テーブルの上に置かれたその箱を、皆が見つめる。
シャムスは全員を見回した。それぞれに、どうするかという意図の視線を送る。やがて、皆がうなずいたのを確認すると、彼女はその箱の蓋を開いて――
「……!?」
そのなかにあったものを見て、彼女は怒りとも悲しみともつかない、愕然とした表情で目を見開いた。
――いや、違う。
そこにあるものが、自分の目に映るものが、信じられないといった表情だ。
蓋が奥に降ろされて、中にあったモノの正体が全員の目に明らかになった。
「ひっ……!」
「これは……ッ!?」
それは、ブロンズ像になったエンヘドゥの頭である。
身体は、ない。
「…………ッ」
シャムスはもはや我慢の限界を越えて、拳をテーブルに叩きつけた。
(甘く見ていた……)
絶望の淵で彼女は思う。
人質であることから、バルバトスはそうそう簡単にエンヘドゥを殺すまいと思っていたのだ。しかし、今回の出来事で、自分たちは彼女の怒りさえも買ったらしい。
シャムスのその瞳にあるのは、怒りと憎悪だった。
この時になっても、指揮官として泣こうとしない自分に、そして、エンへドゥを失ってしまったふがいない自分に対する怒り。
そして、バルバトスに対する、憎しみ。
ブロンズ像のエンヘドゥの頭は、そんな彼女に一言も発することなく、ただ――眠ったように黙すのみだった。
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担当マスターより
▼担当マスター
夜光ヤナギ
▼マスターコメント
シナリオにご参加くださった皆さま、お疲れ様でした。夜光ヤナギです。
まずは大幅な遅れで遅延公開になってしまい、大変申し訳ございませんでした。
いつもこのような失態ばかりだなぁと、目も当てられないです。
さて、気を取りなおして作品のことを。
今回は個人的に色々と面白いシーンを書かせていただいた気がします。
自分の面白いと、参加者の皆様の面白いが比例すればなおのこと良いのですが、それは祈りを捧げるばかりです。
今回で、ナベリウス、エンヘドゥ、シャムス、バルバトス。
それぞれに様々な転機が訪れました。
これ最終的にどのような結末を迎えるのか。
それを生み出すのもまた、皆さまのアクション次第です。
どんなものが来るのかを待ちわびつつ……。
そして、皆さまの冒険に自分も同行させてもらえたら、とても嬉しく思います。
それでは、またお会いできるときを楽しみにしております。
ご参加本当にありがとうございました。