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四季の彩り・雪消月~せいんとばれんたいん~

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四季の彩り・雪消月~せいんとばれんたいん~
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リアクション

 第26章 Thirty

「フフッ……さあどうぞ、友美さん」
「ありがとう」
 空京の高級フレンチレストラン。入口の前で、上等なスーツを身に着けた獅子神 ささら(ししがみ・ささら)小谷 友美(こたに・ともみ)の手を取った。街の喧騒から隔たれた、落ち着いた雰囲気の店内へとエスコートする。
 恋人達の記念日に、食事も兼ねたデートである。

「失礼します、1992年製造のヴィンテージ・シャンパンでございます」
 ソムリエががなめらかな動作でコルクを開け、2人のグラスへと注いでいく。ささらが自ら手に入れ、予約時に店に伝えて前日に預けていたものだ。
「1992年?」
 ソムリエが辞した後、友美は驚いたように見返してくる。
「それって……」
「ええ。この日の為に友美さんの誕生年のシャンパンを用意していたんです」
 ささらがにっこりと微笑むと、友美は改めてボトルのラベルに目を遣った。どんな反応が返ってくるかとささらが楽しみに見守っていると、彼女は嬉しそうに、明るい笑顔を浮かべた。
「バレンタインに生まれた年のシャンパンが飲めるなんて幸せだわ。ありがとう、ささらくん。じゃあ、早速頂くわね」
 グラスを持って口をつけて、ゆっくりと味わうように目を閉じる。そしてややあって目を開けると、ほう、と感嘆の息を吐いた。
「深みのある良い味ね。さすが30年物……30年?」
 そこで、友美ははたと気付いたようにグラスの中を見直す。気泡が立ち上る琥珀色の液体は、確かに30年前の高級シャンパン。誕生年なのだから当然だ。
 友美は今度は、はあ、と憂いの溜息を吐いた。
「そうよね、西暦だから実感が湧かなかったけど、私、もう30歳なのよねえ……」
 ついでに言えば後半年とちょっとで31歳だ。
 しょんぼりとする友美を、ささらは目を細めて愛しそうに眺めている。喜ぶ彼女、がっかりする彼女、くるくると変わるその百面相さえも、愛しくてたまらない。
 本来は両刀使いの彼だったが、友美と恋人になってからは彼女一筋だ。恋に頑張ってる彼女が美しくて好きになった。今も、恋に、そして他の全てにおいて全力で取り組む彼女を愛している。
「女性は30からとも言いますよ、元気出してください」
「ほ、本当!?」
「ええ」
 ささらが頷くと、友美の気分は少し持ち直したようだ。
「そ、そうよね……うん、女は30から……。そうだささらくん、私達、結婚はいつにする?」
「結婚ですか?」
 不意を突かれたように、ささらは食事の手を止める。だが、半分は演技だ。聞かれるのではないのかとは思っていたから。
「それは、まだ早いのではありませんか?」
「早い? そうかしら……」
 友美の笑顔がまた曇る。
(……フフッ、可愛いですよ)
 不安そうにしている彼女の顔を見るのもまた、ささらの楽しみだ。その顔を楽しんでから、ささらは言う。
「大丈夫、ワタシもちゃんと考えてますよ、でもちゃんと友美さんを大切にしたいからこそ、今はじっくり交際してお互いの事を解っていきましょう?」
「お互いの事を……? ……そうね、まだ付き合って4ヶ月くらいですものね」
 告白された時に、彼のことを知らなくてもこれから知り合って行けばいい、と思った。友美はその時の気持ちを思い出した。
 納得したようで、楽しそうに、美味しそうに食事を再開する。ささらは食事をしながら、こんな事を思う。
(……フフッ……と言っても、ワタシ自身、実は婚約指輪を贈ろうと思ってた事は伏せておきましょうか。……まあ、それはサプライズでね……)
 クスッと笑ったささらに、友美は不思議そうな顔をする。
「? どうしたの? ささらくん」
「いえ……なんでもありませんよ」
「あ、そうだ、これ……」
 友美はそこで、彼にチョコレートを差し出した。
「自信作なの。しゅうまいチョコレートよ!」
「……ありがとうございます、美味しく頂きますね」
 ささらはそのチョコレートを、完璧な笑顔で受け取った。そして、本当に美味しく頂いた……らしい。