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Perfect DIVA-悪神の軍団-(第1回/全3回)

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Perfect DIVA-悪神の軍団-(第1回/全3回)
Perfect DIVA-悪神の軍団-(第1回/全3回) Perfect DIVA-悪神の軍団-(第1回/全3回)

リアクション

 救命ブースにはひきりなしに負傷者が運ばれてきていた。
 応急処置をほどこされた彼らは、ハンスによって治療の優先度を選別される。なかでも命にかかわると診断された者はヒプノシスをかけて眠らせたあとエレベーターのカゴのなかへ移され、の空飛ぶ魔法↑↑によって天井部に開けた穴から昇降路内を通って地上へ運ばれた。
 この方法で全員を運び出せるならエレベーターの復旧を待つ必要はないかに思われたが、いかんせん、昇降路内のスペースから考えて、空飛ぶ魔法↑↑で運べるのは一度に4人が限界だ。ましてや地上は遠く、下からは真っ暗な昇降路内に地上の光らしきものがかろうじて見えるだけだ。メルキアデス・ベルティ(めるきあです・べるてぃ)が上で待機しているパートナーのフレイア・ヴァナディーズ(ふれいあ・ぶぁなでぃーず)と連絡を取り合ってくれなかったら、負傷者を受け取ってくれているかも分からない。
 これでは手間と時間がかかりすぎる上、負傷者の数はそうしている間も刻々と増えていた。とても効率的とは言えない。これはあくまで緊急処置的な対策で、やはりエレベーターの復旧は必要だった。
 しかも運ばれてくるのはなにも負傷者ばかりではない。死亡者もまた、そのなかには含まれている。優先度は低いが彼らも運び出さなければならない。
 その数は決して少なくなかった。なかには五体満足ではない者も…。
「どうした? アキラ」
 エレベーターの復旧作業にあたっていた林田 樹(はやしだ・いつき)が、じれたように問う。
 なにしろ死者用に構えた部屋から出てきて以来ひと言も発せず、腕組みをしたままずっと背後の壁にもたれているのだ。なんだか負のオーラを発散されているようで、背中がむずむずしてきて、気になって作業に集中できない。
「……ん?」
 数瞬遅れて、呼ばれていることに気付いたがぱちぱちとまばたきをする。
「何かおまえ、おかしくないか? 反応が鈍いようだが。悩み事でもあるのか?」
「え? あ、いやなんでも…」
「魔鎧のことか? さっき相当ショックを受けていたようだが」
 死体を見つけるのと、バラバラ死体を見つけるのとでは衝撃が全く違う。心構えもなしにあの場面に遭遇したことは相当衛の心を傷つけたのではないかと、少し心配だった。
「……ああ。うん、まあ、ショックがまだ抜けきらない感じだけど、大分立ち直ってる。大丈夫だよ。ちゃんと作業もしてるし。ちょうどよかったんじゃないかな、うわついた気分が抜けて」
 衛は先の発見の流れから、自然と死亡者を担当していた。運び込まれる死者を整然と並べ、身に着けているIDから名前を確認したあと、できる限り衣服をきちんと整えて、手を合わせる。
 火災や煙にやられた者はそれでいい。しかし爆発に巻き込まれたりなどして体の一部しか残っていない者は「unknown」として扱われる。生死不明者だ。
「なら、おまえは何を気にしている?」
「……unknownだけどね、傷口を調べると、どうやらなかには獣に襲われた者もいるみたいなんだ」
「獣? 危険な野生動物がここにいるとでもいうのか?」
 このヒラニプラの教導団施設の研究棟のなかに?
「あー。そりゃ、実験動物かもしれないなぁ」
 答えたのは同じくエレベーターの制御盤から復旧を試みているアキラ・アキラ(あきら・あきら)だった。床にぺったりあぐらをかいて、持ち込んだ道具箱から取り出した器具を放り上げてもてあそんでいる。
「ここが生体感染するようなバイオ物を扱ってたんなら当然実験動物も置いてただろうし。爆発で逃げ出したそいつらが襲ったのかも」
「うん。でも、まさかクマとかじゃないでしょ。普通実験動物に使うのは、ネズミ、ウサギ、犬、猫、鳥といった小動物。それらが、手足や頭を噛み千切るまで襲うかな? しかも捕食のためじゃないんだ。食べられた形跡はない」
 もっとも、見つかっていない部位が多々あるからはっきりそうとは言えないけれど。少なくとも現場に残っていた部位にはそういった跡はなかった。
「つまりどういうことだ、アキラ。もったいぶらずに言え」
 章は時間稼ぎのように帽子をとり、髪を膨らませ、再びかぶり直した。
「これはあくまで僕の推測だけど……こいつらは殺すために襲っているんだと思う。完全に息の根を止めるために、集団で」
 皮膚に残された爪の大きさはさまざまだった。決して1匹ではない。
「……なんてことだ。みんなに知らせないと」
「それともう1つ。通路にバリケードを築いた方がいいと思う。念のために。あのアホが適任だし、いい気分転換にもなると思うからやらせようと思うんだけど、どう?」
「分かった。そうしてくれ」
 章はうなずき、じゃあと衛のいる部屋へ戻った。
 後ろ手にドアを閉め、そこによりかかる。
(まっずいなぁ。ちゃんと抑えられてるつもりだったんだけど…)
 ちょっと気を抜くとぼんやりしてしまう。樹にバレただろうか? バレてないと思うが……うーん、どうだろう?
「どうかしたのか、あっきー」
 目深にかぶった帽子の下でぐるぐる思考していると、衛が言葉をかけてきた。振り返らず、先までと同じく厳粛な態度で死者の衣服を整えている。
 バリケードの話を伝えると、衛はみるみるうちに目を輝かせ始めた。彼女はそういった、自分の体を用いて何かを造り上げる土木系の仕事が大好きなのだ。
「その間、ここは僕が引き受けるから」
「うん。分かった、あっきー。よろしくなっ」
 喜々として部屋を飛び出して行き、この部屋には章1人になる。これでしばらくは人の目を気にする必要はない。
(ほんの少し。ちょっとだけ。すぐ作業に戻るから…)
 ずるずると壁伝いに座り込む。片ひざを抱き寄せ、ひざ頭に額をこすりつけた。
 襟を崩し、下からそっとハートの機晶石ペンダントを取り出す。
(もし……もし僕に何かあったら……おまえが樹ちゃんに伝えてくれ…)
 全身全霊の祈りを込め、章はペンダントを握り締めた。


 他方、部屋の外では衛がうきうきと通路の幅を測定し、高さを考慮して計算を始めていた。
 樹は携帯で施設内に散っている仲間と連絡をとろうとしている。
 言うべきか、言わざるべきか。
 彼らの様子を見ながら、ちょっと思考して。ガリガリっと頭を掻くと、アキラは口を開いた。
「ついでに報告してくれ。エレベーターは事故で壊れてるわけじゃなくて、コンピュータ・ロックがかかってるだけだって」




 コンピュータ・ロックがかかっている。つまりは人為的に止められたということだ。
 そのことから、クレアはエレベーター復旧の停止を主張した。
「ここは何かおかしく思われます。施設責任者のザイン・シム大尉の行方も不明のままです。発見されるのは満足に口もきけない負傷者か意識不明者、死者のみ。ほかの人間はどこにいるのでしょう?
 エレベーターが人為的に止められているというのであれば、それには意味があるはずです。理由が判明するまで動かさない方が良いかと思われます」
 それが彼女の言い分だった。
 梅琳はしばし沈思した。
「アキラ、そのロックは本当に人為的なものなの? ほかに可能性はある?」
「そこが悩みどころです。爆発か火災かで過負荷がかかり、司令部のコンピュータが誤作動した可能性もあります。人為的操作と比較すれば小さな可能性ですが、それでも考えられなくはないかと思われます」
「エレベーターは動かせるの?」
「ロックを解除するだけですから。1分もあればできます」
 とはいささか誇張だったが、まぁ数分だ。
「そう。では解除して」
「了解」
 少しこわばった表情のクレアに、梅琳はうなずいて見せた。
「今は人命救助を優先させるわ。あれだけの数の負傷者をエレベーターなしに上へ運ぶのは不可能だから。
 でもシュミット大尉の懸念ももっともよ。負傷者のなかには火災や爆発でなく、戦闘によって負ったように見える傷もあるわ。通路にバリケードを築いていたらしい痕跡も発見されてる。もしかしたら爆発は事故によるものではなくて、侵入した何者かによる破壊工作ということも考えられるわ。もしそうなら、その何者かはまだここに潜んでいるはずよ。皆、これまで以上に警戒を怠らないこと。いいわね?」
 それからしばらくの間、作業は順調に進んだ。
 各自割り当てられた役割に戻って施設内に散り、周囲を警戒しつつも全力を尽くす。アキラと樹もまた、黙々と司令部コンピュータからのラインを遮断、停止の解除を行い、エレベーターの操作を可能にしていった。
 1基が使用可能となり、最初の負傷者9名を乗せたカゴが地上へ送り出されたのを機に、はお役御免となってパートナーのライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)とともに救助者の探索へ回る。
「よし、かんりょーう」
 クルクルとネジで上蓋を留めつけ、固定する。腰に吊るしたツールをガチャガチャいわせながらカゴのなかから出たアキラは、パイプ椅子を肩にかついだ衛ともう少しでぶつかりそうになった。
「おっと」
「あ、わりぃ」
「いや、俺の方こそ前方不注意だったから」
 アキラの見ている前、衛は迷いもなくそのパイプ椅子をバリケードの一角にはめ込む。
 救命ブースとエレベーターを内側に通路の両左右に築かれているバリケードは、無秩序・無作為としか言いようのないものだった。一見、ただ適当に空いている隙間に椅子や長机を詰め込んだようにしか見えない。しかし知識のある衛はきちんと理論に基づいて組み上げいるようで、試しに揺すってみても椅子が落ちることはなかった。
「へぇ。すごいな」
「ありあわせで作ったにしちゃ上出来だろ?」
 感心して振り返ったアキラの前、胸を張った衛の笑顔が突然引きつった。
 救命ブースの戸口で番犬のように座っていた白虎が立ち上がり、雷鳴のような威嚇音をのど奥から発している。
 何を見つけたのか? 急ぎ視線を追ったアキラの目に飛び込んできたのは、通路の角から続々と集結し始めた犬や猫、猿、鳥……実験動物たちの群れだった。